フォロワー
私のSNSのフォロワー数が一人増えた。それは平凡な日常を崩壊させる始まりだった。
プロフィール画像は設定されていない灰色のアイコン。アカウント名は「user_20240203」。つまりは初期アイコンである。
何となく不気味に感じたので即座にブロックしようとしたが、その前に気になってそのアカウントを確認した。投稿、フォロワー、フォローは全て0。少なくとも私の事はフォローしてるのに...だ。アカウントの作成日時は3年前と表示されていた。つまり、この3年間このアカウントで何も活動してなかったということだ。何とも言えない不気味感に寒気が止まらなかった。
その夜、昔の投稿から「いいね」が付き始めた。家族との食事、友人との旅行、そして日常の何気ない瞬間。「いいね」は着実に現在に向かって進んでいく。
特に不安を感じたのは、「いいね」が付いた投稿に明確なパターンがあることだった。位置情報を載せていない投稿でも、どこで撮影したのかを正確に把握しているかのように、その場所での私の行動に関連する投稿にだけ、規則正しく「いいね」が付いていく。私が一人で写っている写真。自宅周辺での投稿。夜の投稿。
深夜2時、全ての投稿への「いいね」が完了した。
ブロックしようとした時、DMが一つだけ届いた。添付された画像は、私が今住んでいるマンションの間取り図だった。
警察に相談したが、具体的な脅迫や危害がない限り、動けないと言われた。
次の日から、私のアカウントには、撮った覚えの無い自分の写真が投稿され始めた。通勤電車の中、オフィスのデスク、昼食時の店内。全て数分前の写真。投稿者は私のアカウントになっていた。
パスワードを変更しても無駄だった。二段階認証を設定しても意味がなかった。セキュリティを強化するたびに、「user_20240203」からの「いいね」が付く。
今日も私のアカウントには新しい投稿が続いている。「たった今」という表示とともに、見知らぬアングルから撮影された私の姿が次々とアップロードされている。まるで誰かが、至近距離で私を見つめているかのように。
スマートフォンに新しい通知が表示された。「user_20240203」が、私の最新の投稿に「いいね」を付けた。その投稿は、私がこの文章を見ているところを後ろから撮影した写真だった。
[完]