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【第1部〜序章編〜】  第18話 初めての…キス

 9月になった。それでもまだ陽射しは強く、ただ歩いているだけで汗だくになる。昨今の異常気象のせいだ。地球温暖化の影響は、気付かないうちに進行する病の様なものだと思う。

「暑っいなぁ。いつになったら涼しくなるんだ?」

 そう言いながらも実際は、あと1ヶ月もすれば涼しくなって来るだろうと思ってた。毎年10月の2週目頃には突然、肌寒くなって来て、先週まで半袖だったけど?なにこの寒さ、みたいな感じになるのがここ数年の常だ。

「ふぅ、まだ来ていないな?良かった、待つ方で」

 彼女の姿が見えて手を振った。

「ごめーん。待った?」

「いえ、全然待ってないです。今来たばかりなので」

 実際、5分も待たずに麻生さんは来た。今日は、麻生さんと映画を観る為に待ち合わせていた。

(はぁ。めっちゃ可愛い。綺麗。信じられない。こんな女性ひとが自分と付き合ってくれるなんて)

手を繋いで並んで歩きながら、幸せを噛み締めていた。

 映画は、麻生さんの推しアニメだ。医務室にも、このキャラクターのマスコットが飾られている。麻生さんは一喜一憂しながら反応し、完全にアニメ世界と一体化して没入していた。

 麻生さんがキャッキャ喜びの悲鳴を上げながら、観てる姿に自分も嬉しくなって来た。繋いでいる手の手汗がにじんで、自分のか?麻生さんなのか?あるいは2人ともなのか?分からなかったが、全力疾走しているみたいに心拍が上がっていた。

「はぁ。面白かったね?ごめんね。手汗かいちゃって、びっしょりだわ。手を洗ってくるね」

 化粧室に向かったので、自分もトイレに行った。

「私ね、集中すると手汗をかいちゃうの。ごめんね」

「謝らなくて良いよ。俺も緊張すると手汗をかくから」

「何で緊張するのよ?」

「麻生さんと手を繋いでるのが緊張しちゃって」

「あははは、私ね。青山くんの彼女なのよ?私の全部、青山くんのモノなの。緊張する意味が分からないよ?」

 愛しい度が高まり過ぎて、思わず麻生さんを抱きしめた。麻生さんも手を回してくれ、見つめ合った。そのまま唇を重ねた。まだ人前だったけど、周りの人達は関心が無いのか、2人の世界にひたっている自分達を見ない様にしてくれているのか?足早に素通りして行った。

「引かないで下さいよ?ファーストキスでした」

「うふふふ、私も初めてだったよ」

「32歳でキスもまだだったなんて、気持ち悪いですよね?」

「そんな事ないよぉ。お互い初めてどーしだし…って何言ってるの私」

 顔を赤らめて両手で手を隠した。その仕草がまた可愛らしい。それから麻生さんとディナーを楽しんだ後、食後の運動でゲーセンに行って遊んだ後、家まで送って行った。玄関前でサヨナラとまたね、のキスをして別れた。一度口付けすると、当たり前の様に出来る様になる。幸せ過ぎる。山下も女性の私と一緒にいる時、こんな気持ちなのだろうか?

「麻生さんとキスした…」

 はぁぁぁ、何て幸せなんだろう。こうやって、少しずつ関係が深まっていくんだな。毎日が楽しくて仕方がない。

 麻生さんは女医さんだ。麻生さんは、回復魔法の効果を100%プラスすると言う、超強力なスキルを持つ「聖女」の称号がある。(女性変化した時の私も持っているけども)

 日本で唯一のSランクである麻生さんの事は、日本政府も把握している。(私がSSSトリプルエスランクである事は隠しているが、白面の魔女がSランク以上である事は把握されている。何故ならSランク以上だと飛行能力のスキルを持っており、白面の魔女が空を飛んでいる所を、写真にも動画にも撮られているからだ。)

 日本政府としては、麻生さんの貞操を守る為に、私に接触して来る可能性がある。世界情勢や日本の立場を訴えられ、金でも渡されて「別れろ!」と脅されるかも知れない。麻生さんが処女で無くなってしまえば、聖女の称号を失ってしまうからだ。

 麻生さんと付き合い始めて間もないから、まだ何の動きも無いけど、1ヶ月も付き合うとHするカップルもいるから、今月中に接触して来る可能性がある。当然、拒絶するが、家族を人質に取られる様な真似をして脅されたら、どうすれば良い?その場しのぎで別れると言うのか?いや、出来ない。それに当然、念書を書かされるだろう。そうなった時、SSSトリプルエスランクである事を明かして、麻生さんとの交際を認めてくれる代わりに、国に協力するとでも言うしかない。日本政府からすれば、Sランクと引き換えにSSSトリプルエスランクが手に入る事になるのだから、承知するに違いない。

 山下の彼女が実は私だと知った時、麻生さんはどんな反応をするのだろうか?だまされたと怒るだろうか?それとも別れを切り出されるだろうか?山下にも軽蔑されるだろうな。自分の彼女が、実は中身が男の私だと知ったら…。

 だったら言う意味はあるのか?いや、ある。麻生さんの自由と引き換えだ。私は不老不死だから、永遠の時間を生きる。麻生さんは、悲しくて考えたく無いが、いつか必ず亡くなる。山下は不老長寿だから、女性の私とは長い時間を一緒に過ごす事になるだろう。

 その頃には男の私は死んでいて、女性変化100%永続中となり、女性として生きているに違いない。ただそうなっても、子供だけは絶対に作る訳にはいかない。スキルは遺伝しない。神の声に願って手に入れたスキルだからだ。それに願ったスキルと同じではなくて、近いスキルが手に入る。何故なら私は、女性変化なんて望んで無いからだ。とすると、子供は長寿ではなく、無限の時間を生きる私にとっては、一瞬で亡くなってしまう事になる。

 山下が不老長寿なら、一体何人の子供を生む事になるのだろうか。それに長寿でも、いつか山下も亡くなってしまう。私は悲しくて寂しくて孤独に耐えられず、また山下の面影に似た相手と付き合うかも知れない。それが自分の子供の子孫とは知らずに。子供を生めば、自分の子孫と再婚してしまう可能性があるのだ。だから生む訳にはいかない。考えればキリがない。

 そんな事を考えていた時、黒猫の目を通して映像が脳裏に描き出されたのは、覆面の男達に麻生さんが、車へ無理矢理に押し込められて拉致されている映像だった。

「そんな!たった今、玄関まで送って来たばかりだぞ!?」

 慌てて『女性変化』を唱えると、全力で飛んで向かった。上空から攻撃を仕掛けても良かったけど、車が横転したり事故したりすると麻生さんも無事ではいられない。車内で麻生さんに変な事したり、傷付けたりしたら、絶対に許さない。山奥にある廃工場で車は止まった。どうやら麻生さんは気を失っている様だ。犯人達の目的が分からない。全部で6人いる。そのうちの1人が麻生さんの服を脱がせ始めた。まさか最初から、猥褻行為が目的か?

「お前達それ以上、麻生さんに変な事をしたら許さないわよ!」

 地上に降り立ち、怒りに震えた声で犯人達に言った。

「うひょう。本当に白面の魔女が現れたぜ」

「まずはその仮面を取って見せてくれよ」

「お前達は何者だ?」

「月並みな質問をするねぇ?だが、発言権はこちらにある事を忘れるな!」

 細身の男がアゴで指図すると、麻生さんの服を脱がそうとした小太りの男は、麻生さんの頭に銃口を突き付けた。

「分かったわ」

 白面の仮面を外して床に投げた。

「ワァオ!溜息が出るほど美女だな」

「殺すのが惜しいな」

「私を殺すのが目的なの?どうして?私が何かしたの?」

「あははは。無自覚が1番タチが悪いってなぁ。お前がこの間、倉庫で捕まえた奴は組織の仲間でな。報復にお前を殺せって命令されたのよ。このSランクと仲が良いらしいから誘い出せるってな。じゃあ、あばよ!」

「げほっ」

 突然何かが、背中から胸を貫通した。血を吹いて地面に倒れると、血の付いたゴルフボールが跳ね返って目の前に転がった。

「ゴルフボール…?」

 遠ざかる意識の中で、男達の声を聞いた。

「おーい、まだ声が聞こえるか?このSランクがお前を殺した犯人って事になるのよ。わははは!」

 男達は笑いながら立ち去った。

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