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【第6部〜アイドル編〜】  第9話

 俺は進級して、高校3年生になった。それからは、目まぐるしく仕事をした。1クールの出演ドラマが3本重なったりして、台詞を覚える頭がパンクしそうだった。

「瑞稀ちゃん、今夜食事に行かない?」

「すみません、別のドラマの撮影で…」

「あー、ごめんね。気にしなくて良いからね?」

 忙しいのは良い事だ。別の仕事を理由に、お誘いを断れるからだ。俺は綾瀬と付き合っている事を秘密にしている為、フリーだと思われている。だから、口説こうと連日の様に色んな共演者から誘われる。純粋に仲良くなりたくて、誘って来る人もいるだろうが、大和さんの件で、自分の身を守れるのは自分だけだと学習し、複数で行く場合はマネージャー同伴ならOKし、2人きりで誘われた場合は、断っていた。

 ゴールデンウィークで待望の映画公開となった。原作の超人気漫画の映画化と言う話題性もあって、初日の歴代動員人数、歴代興行収入共に日本の歴代最高記録を塗り替えた。連日、映画館は超満員で、大盛況だった。

 こうして俺は、新人ながらトップ女優の仲間入りを果たした。


「瑞稀、俺に何か言う事は無いのか?」

 久しぶりに綾瀬と会えるので楽しみにしていたが、会うなり物凄い剣幕だった。

「一体、どうしたの?」

「俺は…お前の口から聞きたかったよ…」

 そう言ってスマホの画像を見せられた。それは、大和との行為中の無修正画像だった。

「写真だけでなく、動画もあるぞ…」

「そんな…ひどい…」

 パニックになり、床に崩れ落ちて号泣して、泣き叫んだ。

「泣いてたら分かんないだろ?」

 俺は何があったのか全て話した。

「…言おうと思ってた。でも、話せばあなたと別れる事になると思って言えなかったの。ごめんなさい。別れたく無い…別れたく無いの…あぁん…うわあぁん…」

 綾瀬は泣きながら、俺を抱きしめてくれた。

「瑞稀、お前は悪くない。お前は悪くないんだ…。お前は大和の奴に盛られたんだ。盛られたんだよ!」

「盛られた?」

「レイプドラッグだ。お前は薬を盛られて、昏睡レイプされたんだよ。アイツは気に入った女は、彼氏が居ようが結婚していようがお構い無しに、この手を使って女を抱く。相手が大和だと気付いた女は大抵黙るし、そうで無かった場合でも、付いて来た女にも非があるし、旦那や彼氏に言い訳出来る状況ではない。それに妊娠した場合に備えて金を握らせるから、これまで問題にならなかったんだよ」

「そんな…」

「まさか中絶とかして無いよな?」

「ううん、念の為に産婦人科に行ったけど、大丈夫だった」

「そうか…良くないけど、良かった。でも、あの野郎…よくも俺の女を傷付けてくれたな…ブチ殺してやる!」

 血相を変えて出て行こうとしたので、抱き付いて止めた。

「止めて!お願い、止めてよ。やっと、やっと悪夢を見なくなったのよ。お願いだから、止めて。もう忘れたいの。お願いだから…う、うっ、う…」

「…悔しい、悔しいよ、瑞稀。俺は何よりも大切な自分の女も守れなかったんだ。情け無い…」

 綾瀬は俺に謝りながら号泣した。2人とも抱き合ったまま泣いていた。そのまま無言でお互いを求め合った。

「なぁ、卒業したら結婚しよう?」

「でも、結婚したら人気が落ちちゃうよ?」

「俺は良いんだよ。俺はもうアイツには我慢ならない。グループを抜けるよ」

「私も来月、グループから卒業するの。卒業公演の舞台の上で付き合ってるって、発表しちゃおうか?」

 そうは言っても、そんな事は出来ない事を理解していた。

 綾瀬が再び俺の上に乗り、唇を重ねて来たので、腕を首に回した。

「瑞稀、瑞稀…俺の、俺だけの瑞稀…」

 耳元で愛をささやかれ、綾瀬の大きな愛に包まれて、心に染み渡っていく。幸福感で心が満たされる。

「もう服、着ちゃったから…」

「また着れば良いんだよ」

 俺の方から口付けをすると、「もう時間が無いから、続きはまた今度」と言って断った。

「俺は嬉しいんだ、瑞稀。俺が一目惚れして、お前に告ったんだ。お前に交際を認めてもらってOKもらった時は、有頂天になったよ。だからずっと怖かったんだ。いつか瑞稀にフラれるんじゃないかって。でも、別れたく無いって泣いてくれた。瑞稀の愛を感じて感動してるんだよ」

「何それ?私の事を信じて無かったの?」

「信じてるよ。でも俺に自信が無かったんだよ」

「自信が無いって…、何言ってるの?私なんてポッと出の、素人同然のただの女の子だよ?あなたは、天下のGENERATIONSのメンバーで、大和さんと人気を二分するスーパーアイドルだよ?私、揶揄からかわれてるのかと思ってたわ」

「あははは、そんな事を思ってたの?でも大和の奴にサン付けなんてしなくて良いよ」

「そうだね。私あの後、共演NGにしてるから。映画の番宣は主人公とヒロインだから仕方ないけど、カットかかったら口聞いてないの」

「だからか…」

「何が?」

「俺にこの動画と写メ送って来た時のメールだよ」

「何て書いてあったの?」

「お前の女は、俺のセフレだぞ?と書いてあったよ」

ひどい…」

 ポロポロと涙が出て来た。

「ごめん。もう泣かないで…」

「そんなの絶対、私達を別れさせる為に送ってるんじゃん。動画ばら撒くって脅されたらどうしよう?脅しに使われて、セフレにされちゃうかも…。嫌だよ、綾瀬を裏切りたくないよ。どうしたら良いの?」

「俺に任せろ!何とかする」

「何とかって?」

 綾瀬は、俺を家まで送ってくれた。この時の別れ際の背中を、忘れる事が出来ない。俺はこの時、何としても止めるべきだったのだ。これが最期になるとは思いもしなかったからだ。

 綾瀬が帰った3時間後、既に深夜1時を回っていて、俺は寝ていたが玄関のチャイムが何度も鳴らされ、母が出ると警察だった。

「瑞稀さんだね?」

「はい」

「貴女は、GENERATIONSジェネレーションズの綾瀬さんと仲が良いと聞いたのだけど、その事で話を聞きたい。その前に、気をしっかり持って聞いて欲しい。綾瀬さんは先程、息を引き取りました」

「はぁ!?」

 何て?今、この警察官は何て言った?俺の聞き間違いか?綾瀬が亡くなった?死んだって?さっきまで一緒に居たのに?

 頭の中が真っ白になって、パジャマ姿でいる事も忘れて、そのままパトカーに乗って警察署に付いて行った。

「嘘!嘘よ!何寝てるのよ、目を開けてよ!」

 真っ白になり血の気の無くなった顔に、髪の毛は濡れていた。物を言わない綾瀬に抱き付くと、声も出ずに号泣した。

「何で、何でなの?どうして死んだんですか?」

「川に落ちて亡くなられました」

「川に?何で?どうして?」

「それを我々も知りたいんですよ」

 警察官は顔を見合わせると、うなずいて質問して来た。

「貴女は、綾瀬さんと最後に会ってますね?どう言ったご関係でしたか?」

「恋人です。一緒にご飯を食べて、それから家まで車で送ってもらいました」

「なるほど、車で?綾瀬さんがお酒を飲んでいたのを止め無かったんですか?」

「綾瀬は、お酒なんて飲んでいません。私を送るからと、ノンアルコールのカクテルを2杯飲んだだけです」

「何のカクテルか分かりますか?」

「カシスオレンジと、パッションフルーツのカクテルです」

 警察はメモを取っていた。

「他に何か気になる点とかありますか?」

「私を送ってくれた後、真っ直ぐ帰らなかったのなら、私と別れる前に同じグループの大和さんに怒っていましたので、会いに行ったのかも知れません。でも、車はどうしたんでしょう?徒歩でなければ川に落ちたりしませんよね?」

「ええ、防犯カメラも当たっている所です。夜分遅くに有難う御座いました」

 俺は家に送ろうとされたが拒んで、綾瀬の遺体から離れたく無いと、手を握って泣いていた。朝方、綾瀬のご家族の方々が到着した。

「貴女が瑞稀さんね?貴女の事は、潤から良く聞かされていたわ。あの子が言っていた様に、素敵なお嬢さんね」

 綾瀬のお母さんは、俺に挨拶をすると綾瀬の手を取って泣き出した。お父さんや妹さんも駆け付けて来た。

「明日はお通夜で、明後日は葬儀になるわ。瑞稀さん、貴女もこの子を見送ってくれると、天国で喜ぶわ」

「はい、勿論そうさせて頂きます」

 俺は一度家に帰って、着替えて来ると言って霊安室を出た。


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