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【第6部〜アイドル編〜】  第8話

「お疲れ様でした~」

「お疲れ様」

 持ちきれない程の花束を渡された。今日はクランクアップの日だ。無事に撮影も終了した。およそ5ヶ月間、一緒に撮影した俳優さんや、スタッフの皆さんと別れるのが悲しくて泣いた。集合写真を撮り、皆んなで撮影した写真を、ファンの為にサイトにアップする。

「これで良しと…」

「今回の撮影で1番の出世頭は、瑞稀ちゃんだな」

「いえいえ、私なんてまだまだで…皆さんから勉強させて頂いております」

 あれから更にテレビの露出は増え、本屋を歩けば必ずどれかの雑誌の表紙を飾っていた。だから顔を出して、表を歩く事が出来なくなった。幸いにもコ◯ナ禍で、マスクにサングラスでも変な人には見えず、更に縁の長い帽子を深く被っているので、多分、バレないだろう。

 運転手の送迎で、久しぶりに学校に行くと、ほぼ全校生徒が教室の前に集まった。

「凄い。瑞稀ちゃんと同じ学校だなんて、絶対自慢出来る」

「サイン欲しい」

「売ったりしないで下さいね?」

 そういう条件で、サインを書いてあげた。同じユニットグループの小百合や由美子達は、俺に近寄っては来ない。メンバーに格差が付き過ぎて、嫉妬しているのだ。俺から挨拶をしてもガン無視されている。女って、本当に怖いわ。

 彼氏との仲は順調で、芸能人御用達の個室があるお店があるのだが、そこへ入店時間をズラして入り、合流している。2人共に売れっ子であるので、時間は本当に貴重だ。少しでも時間が空けば、こうして密かに会い、愛を育んでいる。

 そして、この個室の良い所は防音なのだ。どれほど大声で叫んでも外に声がれる事は無い。だから当然、予約時間いっぱいまで、ここで抱かれるのだ。

「はぁ、はぁ、はぁ、愛してる」

「綾瀬…、あっ、んんっ…いい、そこっ…もっと…」

 食事と言うより、こっちが目的で会っている。お店側もこう言う使い方をされている事は理解しており、決して邪魔をしては来ない。このお店が芸能人御用達と言われる所以ゆえんだ。

「クランクアップお疲れ様」

「有難う」

「瑞稀はヒロインだから最後まで撮影してて、俺なんてラスト前に死んだから、クランクアップが瑞稀よりも早くて、現場で会えなくなったから寂しかったよ」

「私もよ」

 行為が終わると、そそくさと服を着て、ジンジャーエールを一口飲んだ。

「足りない。抱き足りないよ」

「仕方ないよ…時間が…、1番欲しいものは、時間だね…。もっと、2人で会える時間が欲しいね」

「ずっと一緒にいたいよ、瑞稀」

 唇を重ね、名残惜しさに後ろ髪を引かれながら、別れた。明日の朝早く、綾瀬はバラエティー番組の地方ロケに行く予定だ。

 綾瀬と別れて、酔いを覚ます意味で歩いたのがいけなかった。ガラの悪い2人組に絡まれた。

「お姉ちゃん、一緒に飲まない?」

「あ、いえ、結構です」

「ツレないこと言うなよ」

「な、な、な、一杯だけだから、一杯だけ」

 俺は仕方なく、マスクとサングラスを外して見せた。

「ごめんなさい。仕事が早いので、勘弁して頂けませんか?」

「うわっ、まさかMizuki?」

「本物だ!マジ信じられねぇ」

「実際に会うと、もっと綺麗だねぇ」

「凄えな、ヤっちまおうぜ」

「えっ?何言って…」

 羽交締めにされて口を押さえられた。

「あのMizukiとヤレるんなら、俺は捕まっても良いぜ」

 そのまま路地裏に引きり込まれた。口の中にハンカチを押し込まれ、1人は上から両手を押さえ、1人は馬乗りになって、俺は身動きが出来なかった。

「たまんねぇぜ」

 男は喜びの声をあげて、俺の胸を服の上から両手で揉み、服とブラをめくり上げられると胸が露出した。

「凄え綺麗だ。まだ誰にも触らせて無いなんて事は無いよな?」

 胸の感触を楽しむ様に撫でたり、揉んだり引っ張ったりされた後、胸を揉まれながら吸われた。

「じゃあそろそろ、下も見せてもらおうかな?」

「んーっ、んん、んー!」

 パンツに手を掛けられて降ろされるタイミングで、「そこで何をしている!」と通行人が発見してくれて叫んだ。

「やべぇ、逃げろ!」

 2人は走って逃げて行った。

「大丈夫ですか?」

「嫌、見ないで!」

 俺は服を整えていると、通行人は上着を掛けてくれた。

「有難う御座います」

「あれ?もしかして、瑞稀ちゃん?」

 振り返って声の主を見ると、大和さんだった。

「ど、どうしてここに?」

「えっ?あぁ、1人で飲みに来たんだよ。そしたら男が良からぬ事をしている声が聞こえてね。犯罪の臭いがして、助けに来たんだよ。まさか瑞稀ちゃんだとは思わなかったけどね」

「本当に助かりました…あのままだったら私…」

「言わなくて良いよ。でもその様子だと未遂だったみたいだね?ギリギリ間に合って良かった」

 大和さんに抱きしめられると、俺は安堵感からポロポロと涙が出て来た。

「可哀想に瑞稀…愛してる」

 そう言って大和さんは、俺に口付けをして来た。役の事もあり、もう何度もキスした仲だ。俺を落ち着かせる為にしたのかな?とか思ってしまった。この人にとっては、キスなんて挨拶みたいなものだろうから。

 その後、「このまま帰す訳にはいかない、一緒に飲み直そう」と言われて、大和さんの部屋に来た。

 乾杯の後、2杯ほど飲んだ記憶があるが、それからの記憶が無く、朝目が覚めると、2人とも全裸でベッドの上で寝ていた。

「嘘っ、何も覚えて無い。まさか…しちゃったの?」

 シーツで胸を隠し、床に脱ぎ散らかしている下着を着けた。服を着てから、大和さんを起こした。

「う、うーん。瑞稀?昨晩は楽しかったね?」

「えっ?あ、あの…私…」

「うん、Hしたよ。大人しい顔しているのに、あの時は激しいんだね?驚いちゃったよ。綾瀬に教えられたの?嫉妬しちゃうな」

「嘘っ!」

「嘘じゃない。キミは何度もボクと寝たんだ。何度も何度もヨガって、イってたじゃないか!?」

「お、覚えて…無いの…ごめんなさい。本当に、ごめんなさい」

 俺は逃げる様にして部屋を出た。

「嘘、嘘よ!浮気なんて…ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、綾瀬…本当にごめんなさい」

 泣きながらタクシーに乗り込んで、自宅へ帰った。シャワーを浴びて髪を乾かしていると、マネージャーから鬼電が入っていた。

「はい」

「はい、じゃないですよ。今、何処にいるんですか?スケジュール覚えて無いんですか?」

 あっ、と青ざめた。お昼のワイドショーに出演する事がすっかり頭から抜けていた。

「今、自宅でシャワー浴びてました」

「分かりました。直ぐに向かいます。支度、終わらせておいて下さいね?」

「はい、ごめんなさい」

 何だか謝ってばかりだ。あんな事があったばかりでも、時間は待ってくれず、仕事に追われる。

 あれは事故だったんだ、と思い忘れる事にした。とても綾瀬には言えない。監督の時にも殴り込みに行こうとしたのだ、大和と殴り合いの喧嘩になるのが目に見えている。そうなると、彼のグループは解散となるだろう。でも事件にはならないだろうな、彼の事務所は大きく力があるので、きっと揉み消すに違いない。

 ワイドショーは最悪だった。生放送にも関わらず、ボーっとして、コメントを求められると頭が真っ白になって、あたふたして自分でも何も言ってるか分からない事を言っていた。

「どうしたの、瑞稀ちゃん?珍しいね。いつも優等生な模範回答なのに」

「申し訳ありませんでした」

 撮影後、この番組のプロデューサーに謝罪し、共演者やスタッフに謝った。事務所に戻ると、やはり社長に怒鳴られた。

「ちょっと仕事、入れ過ぎかしらね?でも、花が咲いてる期間は短いものよ。特にこの業界は。だから、稼げる時には稼いでおかなくちゃ、仕事がしたくても出来ない人、沢山いるでしょう?誰もがうらやむ位置に立っているのよ、あなたは。仕事が多過ぎて疲れてる、なんてのは贅沢な悩みよ?分かってる?」

「はい、甘えていました。申し訳ありませんでした。もっと仕事を入れて下さい。頑張りますから」

「そう?あなたがやる気を出してくれて、嬉しいわ」

 仕事をしている時は、何も考えられない。だから嫌な事でも忘れられた。

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