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【第6部〜アイドル編〜】  第7話

「瑞稀!あなた、今がどう言う時期なのか分かっているの?」

 社長の金切り声が階下に鳴り響く。とばっちりを受けない様に、皆が足早に去って行った。

「申し訳ありません」

「申し訳ありませんじゃないわよ!」

 社長が怒るのも無理は無かった。綾瀬と手を繋いで、食事に向かっている所の写真が、週刊誌にフォーカスされたのだ。

【夜の密会!手繋ぎデート!!】

と言う、捻りも何も無い見出しで、2人が笑顔で手を繋いで歩いている写真や、食事している所が写っていた。

「あれだけ周囲には注意しなさいって言ったわよね?」

 社長は怒りが収まらず、俺に謹慎を命じた。

「良い?撮影以外での外出は禁止よ!それから、撮影所では綾瀬くんに近づいてはダメよ」

「はい、分かりました」

「それから何を聞かれても全否定するのよ」

「はい実際、付き合ってはいませんから」

「世間はね事実がどうあれ、話題の2人の関係を面白おかしく噂するの。噂が怖いのはね?全くの事実無根なのに、それがあたかも事実であるかの様に語られる事よ。あなたも中国史が好きなら、詳しいでしょう?宮中では噂で人を殺せたの、知ってるでしょう?噂の怖さを身にしみなさい!」

「これからは気を付けます」

 社長は立ち上がると、俺の両肩に手を置いた。

「あなたはね?ウチの大切な看板娘なの。その事をよく自覚して頂戴!あなた自分が貰ってるお給料、把握してるの?グループメンバー内の他の人の50倍よ。50倍もの給料を貰っているのよ。あなたの事が大切で心配だから、私は怒っているの。決して嫌いになった訳じゃないから、誤解しないでね?」

「申し訳ありませんでした」

 俺は深々と頭を下げた。メンバー内で俺以外で稼いでいるのはさゆりんで、確か月80万くらいだったかな?俺は月給4000万くらいだ。当然、そのくらいは稼いでいる。1本3000万のCMに7本、ファンクラブのグッズの売り上げは、毎月1億円を超えたと聞いた。その他、出演した番組は月37本と上々だ。出演番組のギャラに関しては歩合制なので、4000万の月給とは別に振り込まれる。

 ただ、お金があれども出費は半端ない。様々な習い事に、身嗜みだしなみの為の服装などに大きく使う。特にエステ関係の費用がかかる。毎月3000万近く使っているはずだ。

 社長がスポンサー各社を謝罪して回り、何とかCM取り下げを保留にしてもらったと聞いた。光もあればまた影もある。俺の様に稼ぎ頭は事務所は大切に扱う。それに反して、この様な重大なミスなどが起こった場合の火消し要員が、枕営業をさせられるタレント達だ。メディアの露出も少なく、限りなく無名に近い女優、グラドルやアイドル達が指名される。俺の為に、嫌々スポンサーに抱かれて、割りを食った者がいると言う事だ。

 俺はプロ意識が欠けていて、まだ心の何処か一般人のつもりでいた。しかし、顔を隠さずに外を歩けば人混みや渋滞が出来る。サインや握手を求められる。どんなに仕事で疲れていても、人前ではニコニコと笑顔を絶やしてはいけない。ある意味、拷問にも近い職業だ。プライベートは全てさらけ出される。その代わり、一般人では手にする事も出来ない程の金を手にするのだ。ただし、自由と引き換えにだ。

 今回の出来事は深く反省させられた。


 撮影が再開されると、綾瀬の事務所も接近禁止命令を出しているのか、2人になろうとはしなかった。時々何か言いたそうに目が合うので、気になってはいる。

 今日の撮影は、ヒロインの小玉シャオ・ユーが主人公の阿葉ア・イェに助け出されるも、主人公は傷を負い死にかける。ヒロインが甲斐甲斐しく看病をし、目を開けた時、初めてお互いが相手の事が大切な存在だと気付き、口付けを交わすと言う、物語中盤の重要なシーンだ。

小玉シャオ・ユー、君が助けてくれたのか?」

「嗚呼、阿葉ア・イェ、目が覚めて良かった。もう、ダメかと…」

 2人は見つめ合い、口付けを交わす。

「はい、カットー!」

 カットがかかったのに大和さんは、口付けしたままだった。撮影の余韻に(ひた)っているのかと思って、そのまま続けた。大和さんは挑発する様に、口付けをしたまま綾瀬を見て微笑んだ。

「テメェこの野郎、離れろ!」

 大和さんは一度離れると、俺の顎をクイっと指で自分に向けると再びキスをして、舌を入れて来た。

「止めて!」

 大和さんの胸を両手で押して拒絶して離れると、綾瀬の背に隠れた。

「何だ、お前ら、本当に付き合ってたのかよ?」

「違うわよ」

「そうだ!」

「何言って…」

 綾瀬は俺を抱きしめるとキスをした。今度は大和が右手を引っ張って抱き寄せると、無理矢理にキスをされた。

「だから止めてってば!」

 今にも殴り合いになりそうな剣幕だ。

「ひょお~凄いね。こんな修羅場、ドラマ以外に本当にあるんだ?」

「本当、モテモテねぇ。男を手玉に取る悪女って感じ」

「あー、それモテない女がひがんで言う台詞だ!あははは」

「失礼ねー!誰がモテないのよ?こう見えても男の1人や2人…はんっ」

 短気な綾瀬を落ち着かせる為に、綾瀬に抱き付く様にして大和さんや他の共演者に頭を下げながら、ステージから去った。

 ステージと言うのは、背景は合成なので、擬似的に作った撮影ドームの中で、緑のシートで囲まれたステージで演技を行っていたのだ。

「もう、私の為に喧嘩なんてしないで」

「だってあの野郎、お前とのキスを見せびらかして来たんだぜ?頭に来るよな」

 俺は背伸びをして、綾瀬に口付けを、した。

「これで怒らないで…」

「瑞稀、愛してる」

「うん…知ってる…」

 誰もいない楽屋で抱き合っていた。

「綾瀬…付き合ってやるよ…ふふふ、何でこの台詞なの?恥ずかしい」

「本当に?本当に付き合ってくれるの?」

「うん、綾瀬の気持ち、ちゃんと伝わったから。だからもう大和さんと喧嘩なんてしないで。私は綾瀬の物だよ?」

 綾瀬はポロポロと泣き出したので、ギョッとして驚いた。

「ごめん。嬉し泣き…」

 俺と付き合えて泣くほど嬉しいんだ?と思い、こんなイケメンが本当に俺なんかで良いんだ?と思って嬉しく感じた。

 撮影が終わって、誰にも見つからない様にホテルで密会すると、愛し合った。付き合った日にHするのもどうかと思ったけど、彼氏じゃない相手2人とH経験済みだ。彼氏ならヤりたいだろうと思い、させてあげた。

「ピル飲むから膣内なかで良いよ」

 綾瀬は嬉しそうに俺を抱いた。何度も突いて果てた。俺に出来た初めての恋人が男だなんて、何だか変な感じがするけど、もうすぐ俺が女の子になってから1年が経つ。

 綾瀬に抱かれながら、心は幸福感で満ち足りた。

「幸せ…」

「俺もだよ瑞稀…可愛い。愛しい瑞稀と1つになれて幸せだ。お前は誰にも渡さない」

「うん、大切にしてね」

 裸でくっ付いて寝ると気持ち良く、腕枕をされると綾瀬の匂いがして、安心感を感じ、眠りについた。


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