【第1部〜序章編〜】 第17話 初めての…お泊まり
あれからしばらくは何事もなく、平穏に過ごしている。今日は土曜日で休みなので、山下と部屋でイチャイチャしながら、華流ドラマを見ている。今夜はお泊まりの予定だから緊張しっぱなしだ。
「ねぇ、そろそろ晩ご飯の買い出しに行かない?」
「そうだね。瑞稀の手料理が楽しみだ」
嬉しそうにして肩を抱いて来た。手を繋いでアパート近くのスーパーに行った。近所の人に会ったので、挨拶して会釈をした。
「良い娘だね、瑞稀は。自慢の彼女だよ」
「ふふふ、おだてても何も出ないよ?」
「いーや、出るよ?瑞稀の愛を感じるよ」
「あははは、なにそれ?」
手繋ぎから腕組みに変えて寄り添った。こう言うのをリア充って言うのかな?幸せだ。アパートに戻って料理を始めると、山下が背後から抱き付いて来た。まるで新婚さんみたいだ。
「もーぅ、料理出来ないよ。待ってて。すぐ作るから」
今夜は王道で、肉じゃがにするつもりだ。
「あっ!」
突然、頭の中に映像が浮かび上がった。黒猫の目を通してパトロールしているのだ。慌てて料理の火を消した。
「ごめん。本当、ごめんなさい。行かなきゃ」
「事件か?」
「うん」
そう言うと、アパートを飛び出して白面を着けると、飛んで向かった。
「やれやれ。今の関係に不満が無いと言えば嘘になるな。瑞稀はこんな事、いつまで続けるつもりだろうか?ずっとなら…俺が耐えられないかも知れない…」
山下は溜息をついた。
瑞稀は深夜2時過ぎに帰って来た。
「ごめんね。遅くなって、ご飯どうしたの?」
「待ってたよ。瑞稀も食べてないだろう?」
「うん。でも今から作るのは…ごめんね。明日、作るから」
そう言うと生活魔法を唱えて料理を出し、晩ご飯を食べ終わった頃には2時半を回っていた。直ぐにお風呂に入って上がると、山下と交代した。
「ふわぁ〜あ、眠い…」
「瑞稀、愛してる」
「えっ?早くない?」
「シャワーにしたからね」
それにしても早い、早過ぎる。5分しか経っていないのでは?
「これでもちゃんとシャンプーして、身体も擦ったんだぞ?」
まぁ、確かに男は早い。だけど眠気がピークで、山下の相手をしていられない。目を閉じた瞬間に眠りそうだ。
「ごめん…もう、3時…過ぎて…る。眠ら…せ…」
すー、すーと寝息を立てて、あっという間に眠りについた。
「う~ん!良く寝た…かな?」
今日は日曜日だから会社は休みだ。
時計に目をやると8時15分だった。
「ふわぁーあ。平日なら会社が始まってる時間だね」
欠伸をしながら、口を手で押さえた。山下に腕枕をされて眠っていた。山下の左腕に頭を乗せていたが、彼の右手は私の左胸に触れていた。
「もう、Hなんだから」
もしかすると眠っているのを良い事に、ずっと触られていて、山下も力尽きて眠った可能性がある。だって、腕枕をされて寝た記憶がない。
パチクリと目を開けると、山下と目が合って驚いて起きた。
「えっ?起きてたの?」
「起きてたって言うか、寝てないよ。ずっと瑞稀の寝顔を見ていたよ」
はぁ?何それ。キモっ、怖っ。流石に引いてしまった。
もしかすると山下って、メンヘラだったんだ?私も多分、嫉妬深い方だと思うけど、ここまでじゃないかなぁ。こう言う人と別れる時が大変だって言うよねぇ。「他に好きな人が出来た」何て言おうものなら、俺と楽しく過ごした日々は何だったんだ、嘘だったのか?幻だったのか!と詰め寄られるし、その好きになった人と付き合おうものなら、リベンジポルノされるか、ストーカーされるか、逆恨みして相手の男の人に危害を加えるか、裏切ったお前が悪いから一緒に死のうとして、殺されそうになるかも知れない。
リベンジポルノをする心理って、俺とこんなHしてたんだぞ?愛し合ってた時があったんだ!と相手の男に見せつけたいんでしょう?あわよくば新しい彼氏が嫌になって別れてくれないか?との思惑で。馬鹿だよねぇ?新しい彼氏と別れたって、貴方とは絶対に寄りを戻したりなんてしないのに。
男って独占欲強くて、自分の事は棚に上げて、彼女が男性経験豊富だったらショックを受けるのよねぇ?俺以外の男にもこんな事をしていたのか?とか思って、ぶつけられない、怒りと悲しみが込み上げて来るのよ。だからシングルマザーは、特に気を付けなくちゃいけない。
連れ子を見る度に、妻の前夫が頭によぎるの。子供がいるって事は当然、Hしたから生まれたのよね。シングルマザーと付き合ってる男、または再婚した夫は、それが頭に浮かび、心が苦しくなる。女性を愛するが故の嫉妬だ。それは連れ子を見る度に頭によぎるの。その行き場の無い苦しみは、その子供に矛先が向けられる。奥さんを愛しても連れ子を愛してる訳じゃないから。だから、ニュースで何度も何度も同じ様な境遇の子供達が、虐待されて殺されている。
シングルマザーは自分には後が無いから、前の夫とは違うこの新しい恋を大切にしたい、壊したく無いと思う。それなのに我が子が新しい夫に懐かないから、虐待されるのよ。虐待されるあんたが悪いの!あんたが良い子になれば母子が上手くいくのに、あんたのせいで!と我が子を責めて、夫や彼氏と一緒になって虐待をする。子供にとって唯一の味方であるはずの母親まで、自分の敵に回るのよ。どれほどの地獄を味わっている事か。それは自分の命が終わる事で、やっとその苦しみから解放されるの。こんなに悲しい事は無い。
虐待されて亡くなった子供の亡くなり方も、筆舌し難いものがある。ある子供は熱湯を浴びせられ、ある子供は部屋に閉じ込められたまま母親は帰って来ずに餓死し、またある子供は真冬に裸で一晩中外に立たされて凍死した。
こんなニュースを聞く度に心を痛める。「お前(その子供の親)も同じ目に合わせてやりたい」と、はらわたが煮えくりかえる。そんな親に育てられるくらいなら、可能であれば私が大切に育てて幸せを感じさせてあげたいと思う。
子供を救えるのは母親だけだ。我が子に手をあげる男とは、きっぱりと別れるべきだ。男なんて他にも、いくらでもいると思えば良い。
話はだいぶ脱線したけど、山下の事は実はあんまり知らないで付き合ってしまった。趣味が合うから一緒にいて楽しいなと思ったんだけど…、確かに一緒にいて楽しいんだけどね。
昨晩の料理の続きで、肉じゃがを作った。他にも野菜たっぷりのスープと金目鯛を焼いた。
「いただきまーす!」
「うわぁ、美味い!この肉じゃが甘辛くて、味付け濃い目だからご飯がすすむ。濃い目の味付けが好きだって知ってたんだ?」
「えっ?ううん、私も濃い味付けが好きだから」
本当は、男の時の私が何度も山下と食事に行って聞いた話だ。
その後は、一日中部屋でゲームをしてた。ちょっと疲れて飽きて来たら、華流ドラマを観た。ゲームは荒野◯動をしてた。スマホで出来るからお手軽だ。2人でマイクを通して協力する、と言っても隣にいるのだから声は聞こえる。
「右、右、右に行った!」
「あっ!やられた。気を付けて、救助お願い」
「あー、そっちに行ったよ。その辺、その辺」
ゲームの世界に完全に入り込んで、まるで自分がその世界にいるみたいに没頭する。最後まで生き残れると嬉しいし、何よりもリアルもバーチャルも2人っきりで楽しい。この人と付き合って良かった…本当にそう思える。
さすがにそろそろ帰らなくてはと思い、「またね!」と言ってアパートを出た。自分のアパートに戻ると、女性変化を解いて男に戻った。
「はあぁ。男の時と女性の時の落差が激しい…。それにもう完全に別人みたいだ。女性の時の私は、最早完全に別人だろう。2人に分裂とか出来たら丸く収まるのに。記憶が残っているのも問題だ。彼女のプライベートだろう?」
女性変化した時の自分を、他人の様に彼女と呼ぶ事で、自分である事を認めない様にした。いや、認めたく無いのだ。このまま山下との関係が深まれば、必ずHしてしまうだろう。それに、求婚された時どうするんだ?彼女は受け入れるに違いない。そうなると、ずっと山下と一緒にいなくちゃならなくなる。それでは、男の自分はどうなる?こっちが本物のはずなのに、存在が消えてしまう事になるのでは無いのか?先の事を考えると頭が痛くなる。頭を抱かかえて悩んだ。