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【第5部〜旧世界の魔神編〜】  第3章 同時多発毒ガス事件

 魔道具マジックアイテムのお陰で、麻生さんがひどい目に合わされた事件は無かった事になった。しかし、私が麻生さんにプロポーズした事も無かった事になった。だからあの、元人妻のセフレとも縁が切れていない。

 アイテムを使った本人だからなのか分からないが、あの事件の事が私の記憶からは消えていない。麻生さんが、他の男に抱かれた事は無かった事になりました。はい、そうですか!とはならない。私の中では消えていない事実なのだから。もしかすると、本当に無かった事になったのかも知れない。

 しかし、ただ単に記憶操作されただけのアイテムかも知れない。私は身体状態異常無効だけでなく、精神状態異常無効スキル持ちだ。だから、記憶操作が効かなかっただけなのかも知れない。でも、あんな事件は最初から無かったと思う方が幸せだ。

 何はともあれ、平穏な日常が戻って来たのだ。麻生さんの明るい笑顔、私に向ける優しい眼差しを見るのは随分と久しぶりに感じる。

 麻生さんが犯罪に巻き込まれたので、注視して周りを見ていると、昔に比べると犯罪は増えた。特に凶悪犯罪が。スキルによる犯罪を取り締まる法律は後手に回り、強力なスキル持ちは徒党を組んで警察組織に対抗した。そしてあの、史上最悪の国家転覆事件が起こるのである。

 それは前触れも無く起こった。新興宗教アストピアによる、ホスゲンを使った同時多発毒ガス事件である。

 毒ガスとは、知識の無い人は気体であると思いがちだが、本来は有機溶媒に溶かして噴霧したものを差す為、エアロゾールの事である。

 毒ガスは大きく分けると致死性と非致死性の毒ガスに分類され、致死性ガスを更に分けると血液剤、ビラン剤、神経剤、窒息剤に区分される。このうちホスゲンは窒息剤に当たる。

 ホスゲンは、一酸化炭素と塩素の熱反応によって得られる、極めて高い窒息性の毒ガスだ。

 ホスゲンを吸い込むと、流涙、咳、窒息感、胸部圧迫感、嘔吐などの症状が出た後、肺水腫、酸欠症、循環不全となり死に至る。

 余談だが、オウム真理教による地下鉄・松本サリン事件で有名なサリンは神経剤に当たり、ナチス・ドイツによって開発された。第二次世界大戦に於いて、ヨーゼフ・ゲッベルスが実戦に投入する事を提案したが、アドルフ・ヒトラーは、第一次世界大戦で毒ガスにより喉や目を負傷した経験があり、その使用には消極的で結局、使用する事なく戦争は集結した。

 サリンは殺傷能力が極めて高く、吸収した量によっては数分で症状が現れる。また、皮膚からも吸収される為、ガスマスクだけでは防護する事は出来ない。スポイトでたったの一滴を皮膚に垂らすだけで、必ず死に至る。しかし、揮発性が高く、すぐに蒸発してしまう為、効果の持続時間は短いと言う欠点がある。これを改良し、より強力にしたものが、最強最悪の神経ガスVXだ。

 VXが使われた事件で有名なものは、2017年にマレーシアのクアラルンプール国際空港で金正男キム・ジョンナム氏が暗殺された事件だ。この事件については、ここでの説明は省く事にする。

 話は少し脱線したが、新興宗教アストピアによって、起こされた同時多発毒ガス事件は、アストピアの聖誕祭に当たる2月22日午後2時22分に行われた。アストピアにとって、その日その時間に行われる事にこそ意味があったのである。

「神よ降臨せよ!」

 そのように口にした信者が、ホスゲンが入ったビンを東京の劇場内、新横浜駅の新幹線内、大阪の劇場内、博多のショッピングセンター内、札幌の風俗街など人口の多い場所で行われた。東京で128人、新横浜で98人、大阪で63人、博多で47人、札幌で54人の計390人の尊い犠牲者が出た。

 最初にビンを破裂させた信者は全員、即死した。犠牲者の1人が息絶える前に、犯人が「神よ降臨せよ!」と言っていた、と言い残した。警察の威信をかけて徹底的に調査した結果、アストピアが聖誕祭で必ず言う言葉である事を突き止め、捜査が行われた。追い詰められた教団は、「神の使徒」作戦を決行した。つまり、ホスゲンのビンを身体に巻いて警察署内で自爆したのだ。死者476人、負傷者782人と言う未曾有の犠牲を出した。

 標的は警察だけでは無い。無差別に企業に乗り込んで爆死し、毒ガスを周辺に撒き散らして被害を拡大させた。

 そして、私のいる華友商事にも信者が人質を取って、立て込んだのだ。

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