【第5部〜旧世界の魔神編〜】 第2章 復縁
「皆さん、お集まり頂きまして、ありがとうございます。先ずは、軽くお食事をして頂きましてから、検査入院と言う形を取らせて頂きます。症状が出なかった方、能力が判明した方から、お帰り頂きます」
「検査入院って、どのくらいの日数ですか?」
「早ければ、明日にでもお帰り頂けます」
「帰れるんですね?」
「良かった」
皆んな、ざわざわしながら、ホッと安堵していた。しかし、そんな健康診断みたいにすぐ検査が終わるものなのか甚だ疑問だ。既に反応液みたいなのがあって、それによって識別出来るとか?
「食事が終わったら、すぐ検査なんですか?」
「いえいえ、今日はひとまず解散となります。お部屋にお戻り下さい。旧交を温めるのも宜しいでしょう?」
出て来た食事は驚くほど豪華だった。食材の名前を紹介しながら並べたりされないので、高級料理を食べた事の無い私は何か分からなかったけど、周りの人が、これは伊勢海老だ、アワビだ、キャビアにトリュフだと言って喜んでいた。
私はパスタの上に乗せられた黒い粒々を口に入れると、何とも言えない塩味、旨味が広がった。
「うわぁ、美味しい。何これ?初めて食べたよ」
「それがキャビアよ」
「これが?」
何て美味しいんだろう。噂には聞いてた。世界三大珍味だし、高いし、美味いと。なるほど確かに美味しい。たくさん乗っているのでは無くて、少し乗っているのがお上品で、高級感もある。それでいて味の自己主張は激しく、その後に食べた黒毛和牛のステーキや、伊勢海老の甘煮など、美味しいはずの食材が霞むほどだった。
「あぁ、キャビア美味しかったなぁ」
忘れられない味となった。食事が終わると、友梨奈が話しかけて来た。
「ちょっと俺の部屋で話さない?」
「うん、良いよ」
友梨奈の後ろをついて部屋に入った。
「瑞稀、あれからどうしてたんだ?」
私は春町出身だと知られると差別されるので、誰にも知られていない所に行きたいと、山口県で就職していたと話した。
「彼氏って出来たのか?」
「彼氏は…出来なかったけど、好きな人は出来たよ」
「そうなんだ。俺は、瑞稀の事がずっと忘れられなかったよ」
「何で?じゃあ何で別れたのよ?私は、私も友梨奈の事が忘れられなくて、ずっと引きずって誰も愛せなくなってた。好きになった人は、私の心を癒してくれたの。でも失恋しちゃって…それから直ぐにここに呼ばれたのよ」
友梨奈は、「そうなんだ」一言そう言うと、優しく肩を抱き寄せて来た。自然と私達は唇を重ねた。離れていた時間を埋め様としたのか、私達は激しく愛し合った。何度も抱かれ、途中から避妊具が無くなったので、膣内に出された。
「瑞稀、結婚しよう。愛してる。お前は誰にも渡さない。俺の子供を生んでくれ!」
交際しているカップルの最終目標は結婚にある。だから、結婚と言う言葉に弱い。結婚してくれるなら、膣内に出されても良いや、と思えてしまったのだ。
結局、一睡もせずに朝まで抱き合った。シャワーを浴びて食堂に向かうと、みっちゃんが睨んでいた。
「いくら何でも朝までとか、やり過ぎだろう?俺も瑞稀を愛してる。ユリ、必ずお前から瑞稀を奪ってみせる」
みっちゃんは、嫉妬で頭に血が昇って、こちらの話を聞こうとしなかった。私と話がしたかったらしく、みっちゃんは私を探していて、友梨奈の部屋から喘ぎ声が聞こえたので、聴き耳を立てて相手が私だと分かったらしい。私は恥ずかしさで、顔を真っ赤にしていた。
「これって、ストーカーじゃない?」
友梨奈とは無事に寄りを戻した。しかし、友梨奈の親友だったみっちゃんの横恋慕によって、幸せが壊れそうな嫌な予感がした。
「ねえ、瑞稀。俺以外とHした?」
「え?ううん。してないよ。その…好きだった人としそうになったけど…勃たなくて出来なかったの。だから、してないよ」
「へぇ、でも…しそうになったって事は、そう言う行為はしちゃったんだ?」
「う、うん。ごめんね」
「ちょっとヤキモチ。でも、俺の方が引いちゃうかもね?」
「えっ?」
「俺さぁ、瑞稀と別れて…好きだったのに瑞稀と別れて、自暴自棄になっちゃって、片っ端から付き合ったり、ナンパしたんだよ。ワンナイトラブなんて当たり前の様にしてたよ…嫌いにならないでね?30人以上とHしたよ」
「はぁ!?何それ…」
思わず私は絶句した。さ、30人って、マジ有り得ないでしょう?他の女を30人も抱いておきながら、よくも抜け抜けと私を愛してるだとか、結婚しようね?とか言えたものだと、頭に血が昇った。
「そんなの許せる訳ないじゃ無い!何なの、30人以上って…そんな男に私も抱かれたなんて、気持ち悪い!」
「気持ち悪いって何なんだよ!」
「友梨奈だって女の子だったじゃない?逆の立場だったら、どう思うのよ?」
「そ、それは…。ごめん。でも、過去は変えられないから、どうしようも無いだろう?こうなる事も分かってて、瑞稀の事を本当に愛しているから、正直に打ち明けたんだ」
「それは分かってる。後から知ったら絶対に別れる。でも、私も頭が混乱してるの。嫉妬のレベルを超えちゃってるわ…」
1人2人であったなら、どんな女とやったんだ?とか、私よりも可愛いかった?とか聞いて責める事も出来た。責める事によって、相手の態度次第で許す事も出来た。しかし、想像を超えてあまりにも多い為、ただただ気持ち悪いとしか形容出来なかった。(30人以上抱いた女の1人なんだ私も)その思いが拭えない。このまま付き合っていて、浮気されないか不安になった。
「少し考える時間が欲しい」
やっと絞り出した答えがこれだった。
「瑞稀、ユリと一緒にいなくても良いのか?」
「えっ?ええ…」
「おっ?どうした、どうした?喧嘩でもしたのか?」
「随分と嬉しそうね?そんなに喧嘩したのが嬉しい?」
「何だ、本当に喧嘩したのか?嬉しいねぇ。なぁ、俺にしとけよ。ユリの事なんて忘れさせてやるよ」
みっちゃんに肩を抱き寄せられた。
「もう!友梨奈と喧嘩したからって、みっちゃんと付き合うつもりは無いよ」
「愛してるんだ、瑞稀」
真っ直ぐ目を見られると、思わず目を逸らした。
「目を逸らすなよ、瑞稀」
「そんなに見られると恥ずかしいよ」
愛し過ぎる、そう言われてハグをされた。友梨奈と目が合って、気まずくなった。
「ユリ、瑞稀は俺が貰うぞ!」
「瑞稀は物じゃない!」
2人とも嫉妬と怒りから、憎悪の火を目に灯していた。
「ちょっと、喧嘩は止めて!どうしたのよ、2人とも親友じゃないの?」
「もう親友じゃない。瑞稀を奪い合うライバルだ」
そう言って、みっちゃんは友梨奈を睨んでいた。ハラハラしながら、2人の顔を見ていた。殴り合いになったら、間に入って止めなくちゃ、そう思った。
「はい、はい、はい、そこ!喧嘩をしない」
政府関係者が入って来た。
「それでは、今から検査を始めますが、この後は暫く水分が摂れません。なので、今からお配りする清涼飲料水を飲み干して下さい。その後、検査室をご案内致します」
手に渡されたペットボトルの飲料水を飲み干した。少し甘い。飲んだ事の無いスポーツドリンクだ。いや、スポーツドリンクでは無かったかも知れない。
「皆さん飲まれましたね?では、検査室をご案内致します」
検査室に案内されて部屋に入ると、猛烈な吐き気を催して床に這い蹲って吐くと、そのまま意識を失った。