【第5部〜旧世界の魔神編〜】 第1章 ダンジョン⑦
あれから数日が経ち、アレースはご機嫌だった。しかし私には、「絶対にここから出るな!」と言って部屋に閉じ込められた。耳を澄ますと、誰かとの話し声が聞こえ、お客さんが来ているらしかった。
「女性の声が聞こえる。もしやアプロディーテでは?」
あわよくば、ここから逃げ出すチャンスだと思ったが、相手がアプロディーテだと分かり落胆した。アプロディーテは、異性には猫撫で声で甘えるが、同性には手のひらを返した様に冷たく豹変し、性格の悪さが滲み出るのだ。私も彼女と関わって、嫌な思いしかした事が無い。
部屋のカーテンを伝ってよじ登り、天井に達すると、通気孔に通じる天井裏を這いつくばって移動した。暫く進むと、声のする部屋の上にいたので隙間から覗いたら、やはり声の主はアプロディーテだった。
腰まである髪は、軽くカールがかかり、光り輝く金髪だ。肌の色は透き通るほど白く、唇はぷっくりと艶やかなピンク色だった。紛れも無く、絶世の美女だ。とても子供を12人も生んでいる様には見えない、引き締まったウエストだ。私もスタイルには自信がある方だが、バスト88の私よりもアプロディーテの方が確実に大きい。
見惚れていると、アレースとの情事が始まったので、これでは本当に覗きだと思い、音を立てない様に気を配りながら、その場を後にした。アレースは、アプロディーテとお愉しみ中だ。逃げ出すには、千載一遇のチャンスだ。通気孔から埃まみれになって脱出すると、巧を埋めた屋敷の隅っこに向かった。ほとんど骨になった巧の髑髏を胸に抱いて、逃げ出した。門番がいたが、「アレース様の不興を買って、こんな目に合い、殺されないうちに出て行け!と言われました」と言った。門番は、ジロジロ見ていたが、埃まみれで薄汚れた私の言った事は本当だろう、と信じて通してくれた。門番に謙って、頭をペコペコ下げながら屋敷を後にした。屋敷が肉眼で見えなくなると、全速力で駆け出した。途中で小動物がいたので、『魔力吸収』で魔力を回復した。思った通り、屋敷内は結界が張られていたのだろう。一定の魔力を回復すると、『光速飛翔』を唱えて、一気に抜けた。
「アポロンの屋敷は、確かこの辺りだったかな?」
屋敷の開門を迫る前に、『自動洗浄』と『衣装替』を唱えて身なりを整えた。
「アナトです。アポロンに、息子のアスクレーピオスを生き返らせる為に来た。と、伝えて下さい」
「旦那様は、今は悲しみの真っ只中だ。下手な事を言ったら、こっちにまでトバッチリを受ける事になる。冗談じゃない。さっさと帰らないと痛い目に合わすぞ!」と言われ、門番は取り合ってくれなかった。
「どうしよう。引き返してアレースに出会ったら、また捕まってしまう」
アポロンに恩を売って、アレースから助けてもらおうと考えたのだ。しかし、取り合ってもらえないなら、会う方法を考えなくてはならない。