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異世界で家を買いました  作者: 葉月奈津・男
『恵』編
96/404

メティス 12 まつり

25/6/30。

ごちゃごちゃしていた文面を読みやすく。

ところどころ、に訂正を。

書き直しました。

 

 そんなこんなで祭り当日。

 朝食はフェリシダがつくってくれた。

 全員分のメイク落としをしないといけなかったから大変だったはずだが、それでもオレより早く起きて支度を済ませていた。


 さて。

 朝食を食べながら、今日の予定を話すとしよう。


「えーっと。とりあえず、ミーレスとシャラーラは武闘大会だな」

 まずははっきりと決まっている二人。


「ご主人様に恥をかかせずに済むよう頑張ります」

「頑張るっす」

 勝てずば生きて戻るまい。

 そんな気迫で、ミーレス。


 元気はあるが、あまり執着は感じないシャラーラ。

 二人にうなずいてやって、アルターリアを見る。


「アルターリアは古書店巡りだな?」

「はい。書架も買って頂けましたし、良い本があれば買いたいと思います」

 そういうアルターリアは少しだけ緊張気味だ。


 なにしろ、アルターリアの持つハンドバッグにはかつてない大金が入っている。

 金貨が十枚。

 銀貨が九十枚。

 しめて、十万九千ダラダ。

 これとは別に、リュックに小遣い千ダラダも入っているので全部で十一万ダラダもある。


 アルターリアの購入価格の一割に匹敵する額の金だ。

 これはもちろん、書籍購入のための委託金ということになる。


 自分のものではない大金、緊張もするか。

 小遣い千ダラダは、ミーレスはじめフェリシダとメティスにまで渡してある。


「メティスは、午前中いっぱいを祭りの運営事務所で救護要員として待機か」

「ええ。治癒魔法士のギルドに所属している人たちの持ち回りになるから・・・」

 人でごった返すから当然転倒しただの、屋台の熱々の串焼きで火傷しただのというのは毎年あるらしい。

 それに対処するために、祭りの運営委員会は常時五人の治癒魔法士を待機させておくことにしているというわけだ。


「フェリシダは、どうする?」

 実は一番気にかかるのが彼女だ。


 なにしろ8年分の記憶がすっぽりないうえに、オレが勝手に補てんした記憶で生きている。

 普段はいいが、こういうときにどうなるか・・・。


「そうですね。自由にしていいと言われても、困ってしまいますが、とりあえずお祭りを見ながら街を見て回ろうかと。引っ越してきてまだ、街をよく知りませんので」

「そうか、それはいいことだな」

 案外、まともな感じなのでホッとした。


「リリムは・・・」

「ご主人様と祭りを見物したいです!」

 ズバッ! と両手を挙げて言う、というか叫ぶ。


 普段、探索ばかりでリリムにはあまりかまってやれていない。

 たまにはいいだろう。

 ミーレスを見ると、小さくうなずいたので、筆頭奴隷の了承は得た、ということだ。


「わかった。とりあえず、武闘大会の見物をしがてら出店巡りだな」

「はい。楽しみですね、ご主人様!」

 リリムの明るい笑顔がまぶしい。


 探索メンバーに入れられていないせいか、リリムはどうも戦いというものに興味があるらしい。

 アルターリアに言わせると、ダークエルフはその俊敏性から前衛のアタッカーに向いているとか。


 意外にも戦闘向きな種族であるらしい。

 まあオレとしては正直、武闘大会よりもミスコンが見たいところではある。


 しかし、自分のものにできるわけでもない美女を見たところで虚しいだけだ。

 もとより、うちの奴隷たちよりきれいな女などそう多いものでもない。


 あと、カロンはオレたちが迷宮に行かないときは寝室を自由気ままに泳いでいるということが、先ごろ新たな生態としてアルターリアによって発見された。

 オレたちがいない間はそこで優雅に過ごすのだろう。


 祭りとは全く関係ないマティさんが少し拗ねているのを宥めて、マチリパトナムへ連れていったあと、オレたちは祭りへと繰り出した。

 それぞれがバラバラに行動しているが、奴隷の装身具のおかげで誰がどこにいるかはだいたいわかる。

 なんか心強い。




 リリムと露店をまわった。

 だが、意外にもリリムはあまり食べ物系には興味がないらしい。

 というか、最初に食べた甘いお菓子を何個か口に入れたところで「ご主人様の揚げパンの方がおいしいです」といって、食べるのをやめてしまった。

 普段のウチでの食事に慣れていると、他では飯が食えなくなるらしい。


 ゲーム系は時々やってみるが、かなりの確度で勝ちまくるか、参加自体を拒否された。

 ダークエルフはこういった場では荒稼ぎの常習犯なのだとか。


 どんだけやねん。

 そうなると、あまり面白くはない。

 仕方がないので、リリムと手をつないだり腕を組んだりしながら植木市とか骨董市を眺めて歩いた。


 ・・・リリムの趣味ではなく、オレの趣味だ。

 さいわい、家の庭にはまだ若干以上の空き地があるので、そこに植える植木を物色してみる。


 骨董の方はほぼ眺めるだけだ。

 元世界でも、よほど気に入らないと手に取ったりはしなかったし。




 一通り見終えたところで、武闘大会会場へと足を運んだ。

 普段は野外劇場として使われている建物に、コロッセオ状に設営された臨時の観客席に座る。

 すべて木造なのがちょっと怖い。


「あ、ミーレスさんです」

 座るのとほとんど同時ぐらいのタイミングでリリムが飛び跳ねて指を指す。

 ダークエルフは目もいいらしい。


 武闘大会はまだ予選の段階だった。

 会場を四つに区切って四試合ずつ行われている。


 そのうちの一つに、ミーレスがいた。

 背の低い髭面のおっさんが振り回す巨大な棍を、ぴょんぴょん飛んでかわすかわす。

 長縄跳びかと。


 おっさんが疲れてきてふらついたところで、間合いを詰めて一撃。

 一発殴っただけで勝ってみせる。


 ミーレスには是非ともイージスの盾の異名を贈りたい。

 最小の攻撃力でも、相手の攻撃を完全に封殺できれば勝てるという理論を完璧に体現している。


 見ていると、シャラーラも出てきた。

 拳闘士なのに、剣を手にしている。


 武闘大会では剣を使うルールがあるようだ。

 ハンデかな、と思ったがそんなことはない。


 シャラーラは武器を持っても強かった。

 彼女は相手のミスを待つのではなく、果敢に攻撃するタイプだ。


 相手の間合いに素早く潜り込み、標的が近すぎて力の入っていない相手の攻撃を手甲で弾く。

 相手が怯んだところへ伸びあがるような一撃を繰り出す。


 こちらも一撃で相手をしとめている。

 危なげがない。


 あと、絶対的に可愛い。

 容姿ではもうぶっちぎりで優勝だろう。


 相手には女性も多いが、ごついゴリラみたいのばかりで相手にならない。

 まあ容姿に自信があるなら、こちらではなくミスコンに行っているだろうが。


「ミーレスさんも、シャラーラさんもすごいですね!」

 リリムがはしゃいでいる。

 試合を観戦するとき以外はオレにべったり張り付いていて、上機嫌だ。



 見ているうちに予選が終わり、本選が始まった。

 会場の真ん中で、一対一の戦闘が繰り広げられる。


 圧倒的だった。

 ミーレスの立ち回りが。


 相手の攻撃が全く当たらない。

 剣で受けもしないで接近して、叩く。


 ほぼ独壇場・・・と思ったら、準々決勝に入ったところでさすがに攻撃が当たり始めた。

 といっても盾に、だが。

 それでも、結局は勝つ。


 そして、準決勝の相手はシャラーラだった。

 ある意味、姉妹対決だ。

 本気で戦ったらどっちが強いのか、なかなかに興味深い。

 ・・・ミーレスが負けるイメージはまったく湧かないけど。


 戦いは、恐ろしく長引いた。

 一進一退の攻防が延々と続く。


 シャラーラの攻撃を難なくミーレスはよける。

 だが、目も耳もいいシャラーラはそれに合わせて的確に動いて追い詰める。


 追い詰められながらも、体捌きに優れたミーレスはぬるりとすり抜ける。

 逆もまた然り、だ。


 ミーレスの攻撃を、シャラーラはしっかりと見極めてよける、弾く、受け流す。

 それどころかわずかな隙を見つけては小さく反撃までしている。


 通常、膠着状態というのは選手同士が間を空けて睨み合うようなものをいう。

 しかし、この二人は立ち止るということがない。

 常に動き続けているのに、当たらない。


 息もつかせぬ、とはこのためにある言葉だ。

 会場もしんと静まり返ってしまっている。


 このままずっと続きそうな攻防だったが、意外な・・・いやある意味妥当な形で勝負はついた。

 シャラーラの武器が壊れたのだ。


 ミーレスの攻撃を受け流そうとした木剣が、鍔元から折れた。

 受け流すことに失敗したミーレスの剣先がシャラーラの脇腹にヒットする。

 シャラーラが膝をついた。


 むうっ、と頬を膨らませて木剣を睨むシャラーラを、こちらも不満顔のミーレスが手を貸して立たせる。

 会場はスタンディングオベーションで喝采を送った。

 優勝者が決まったような騒ぎだ。


 その騒ぎの中、すでに終わっていたもう一つの準決勝の敗者とシャラーラの三位決定戦が行われる。

 シャラーラにとっては連戦ということになる。


 観客の一部からはブーイングも起こった。

 不公平ではないか? と。


 だが、立場が逆になることもある。

 不公平ではあっても不公正ではないという意見が多数を占めた。


 もとより戦いとはそういうものだ。

 実戦にはルールなんてない。


 そして、この世界では実戦を経験していない人のほうが少数派なのだ。

 レベルの違いはあっても迷宮に入る者も多いし、迷宮に入らない者も街の外で魔獣と戦うことはある。


 相手は獣人、イヌミミ族の♂だった。

 歴戦の戦士という感じの精悍さが目を引く。


 インターバルが短いこともあって、ミーレス相手に健闘したシャラーラの疲労が気になったが杞憂だった。

 シャラーラは新しい木剣を手に元気に駆け回り、相手を翻弄した。


 ミーレスを相手にするよりは楽なのだろう。

 わずか数合剣を合わせただけで、気が付くと相手の喉元に木剣の刃を当てていた。

 拍手が巻き起こる。


 これで、シャラーラの三位が決定した。

 あとは、ミーレスが優勝か、二位か、ということだ。


 ミーレスの相手はがっしりとした体格の女だった。

 何度も死線を掻い潜っただろう傷だらけの体を惜しげもなくさらし、舌なめずりまでして木剣を手の中でもてあそんでいる。


「ご主人様、ミーレスさんなら優勝間違いなしですよ!」

 リリムさん、それは惜敗フラグですよ。


 そう思いつつ見守った。

 決勝まで来てついに、というかようやく、というかミーレスに相手の攻撃がヒットした。

 相手の木剣が肩をかすめ、髪を突き抜けている。


 試合が終わった瞬間だ。

 ミーレスが構えた木剣は相手の喉に突きつけられている。


「やりましたっ!!」

 リリムが歓声を上げた。

 相手の女が、ニヤリと笑って肩を竦める。


 と、ミーレスを抱き上げて、高々と持ち上げた。

 戸惑っていたミーレスが、相手に何か言われると笑顔で会場に手を振った。


 その視線ははっきりとオレに向けられている。

 万雷の拍手が二人に降り注ぐ中、オレもミーレスによくやったと合図を送った。

 グッジョブ、と親指を立てたのだが・・・通じただろうか。


 熱気が冷めぬうちに、ということだろう。

 すぐに表彰式に移った。


 表彰台の一番高いところにミーレスが、一番低いところにはシャラーラが立つ。

 真ん中のもとからでかい姐さんが、さらにでかく見えた。

 両脇がやたら小柄だからな。

 元世界のもののように、一位が真ん中になるタイプではなく完全な階段状の表彰台なのだ。


 優勝賞品が授与される。

 トロフィーとかはない。まじりっけなしの実用重視の装備品が並んでいる中から、順に選べるらしい。

 慌てて、タグの確認をする。


 あった。

 素晴らしく使えるものが。



 【流水の剣(物理防御30パーセントアップ)】に【雷迅の手甲(突進力30パーセントアップ)】だ。

 他にもよさそうな武器はあったが、二人にぴったりなのはやはりこれだろう。



 慌てて、『伝心』と『伝声』で選ぶべきものを指示した。

 ミーレスが【流水の剣】を取り、でかい姐さんが何かごつい盾を、シャラーラが【雷迅の手甲】を手にする。

 思いもかけず、素晴らしい結果を得た。


 表彰式も終わって、観客たちも帰り始めたころ。

 ミーレスとシャラーラがやってきた。


「よくやった」

 思わず走り寄ってミーレスに抱き付いて、頬ずりした。

 次いでキスをして、さらにシャラーラも抱き上げてキスをする。


 ついでに物欲しそうな顔になったリリムにもキスをした。

 もう、いまならあのごつい姐さんにだってキスできる。しないが。


「えっと。この剣はよいものなのですか?」

 オレが少し落ち着いたのを見計らって、ミーレスが持っていた剣を差し出してきた。

 シャラーラもだ。


「ああ。今まで使っていた武器を遥かに上回ることは確実だ」

 タグを開いてみながら、そう答える。



『流水の剣』:『性能値=鋭利:80。重量:45。耐久:65。魔力:10(装備)。魔法「流水」(効果:衝撃を受け流す。物理防御30パーセントアップ)」』



 かなりの業物だ。

 しかも魔法付き。


 エンチャントか?!

 もちろん、設定値を変更する。



『流水の剣』:『性能値=鋭利:85。重量:40。耐久:70。魔力:0(装備)。魔法「流水」(効果:衝撃を受け流す。物理防御30パーセントアップ)」』



「これはミーレスの主武器にする」

「はい。ありがとうございます。ご主人様!」

 喜んだミーレスが、バードキスをしてくれた。

 そして、もう一つ。



『雷迅の手甲』:『性能値=打撃:80。重量:35。耐久:80。魔力:10(装備)。魔法「雷迅」(効果:瞬発力強化。突進力30パーセントアップ)」』を。設定値変更で、『雷迅の手甲』:『性能値=打撃:100。重量:35。耐久:80。魔力:0(装備)。魔法「雷迅」(効果:瞬発力強化。突進力30パーセントアップ)」』に変える。



「これはシャラーラな」

「あ、ありがとうっす。うれしいっす」

 シャラーラも、ちょっぴり不器用なバードキスをしてくる。

 ミーレスがちゃんと伝えてくれていたのだ。


 もちろんどちらの武器も、二人の使いやすさに合わせてサイズを調整して、二人に渡した。

 今まで持っていた武器はオレの空間保管庫に入れる。

 予備の武器としてとっておこう。


「・・・いくぞ」

 もうここには用もない。


 一声かけて、歩き出す。

 周囲の奴らが、ミーレスとシャラーラを見ていたので視線を回避したのだ。


 武闘大会の優勝と三位、二人を連れているというのは目立つようだ。

 その二人とキスしていたのが、致命的だったかもしれない。




 武闘大会会場を足早に離れて、アルターリアの反応を追って移動する。

 ほんの少し歩いただけで、すぐに見つかった。

 露店の前で、なにか途方に暮れたように立ち尽くしている。


「どうした?」

「あ、ご主人様」

「お、おい。なにがあった?」

 珍しく、すがるような目を向けてくるアルターリアに、慌ててしまう。


「本が・・・」

 本がどうしたというのだろう?


 疑問に思ったところで気が付く。

 アルターリアの後ろには、本の束が四つもあった。


 一束に二十冊、八十冊に及ぶ。本だ。

 持てるだけ買い込んだものの、運べなくて困っていたらしい。


「買いたい本はまだあるのですが・・・持ち切れなくて」

 あー。

 これはオレが悪い。


 あんなに金を渡してどんどん買えと言っておきながら、運ぶことを考えていなかった。

 こんな往来で転移するわけにはいかないし、まともな壁のある店もないから『移動のタペストリー』も使えない。

 最低限、冒険者ギルドか商人ギルドまでは運ぶ必要があるというのに。


「問題ありません。私たちが運べばいいのです」

「運ぶっす」

 ミーレスとシャラーラがそんなことを言い出す。


「祭りはもういいのか?」

「はい。もう充分堪能したと思います」

「充分ッす」

 武闘大会で十分に楽しんだらしい。


「ご主人様とリリムはまだ楽しんできてください。まず、私とシャラーラでこれを冒険者ギルドに運びます。シャラーラに荷物番をしていてもらって私はまた戻ってくればいいでしょう」

 その間、アルターリアはまた本を探すというわけか。

 なんか、最終的に何冊買い込むのか不安になるが、そんなことはどうでもいい。


「シャラーラもそれでいいのか?」

「問題ないっす」

 シャラーラは笑顔で頷いている。

 全然問題ないらしい。


「わかった」

 オレとリリムは再び二人、祭りで賑わう街を歩き始めた。




 歩き始めたものの、露店にはもうあまり興味がない。

 となると、目的地は決まってくる。


 ミスコン会場。

 武闘大会、歌唱大会に並ぶ、祭りの三大イベントの一つだ。

 そのためか、この三つの大会はそれぞれ時間をずらして行われている。


 朝早くから始まった歌唱大会、そのあとに始められた武闘大会が終わり。

 いよいよ、ミスコンが始まろうとしているのだ。

 人混みを掻き分けて、観客席に座るとちょうど一人目が出てくるところだった。


 白い肌のエルフが、そのしなやかな体を揺らしながら壇上を歩く。

 気になる服装は、水着のようなビキニスタイル。


 仮設ステージ上に敷き詰められた鏡が、光を反射させていて、彼女の白い肌をさらに白く見せている。

 元世界の鏡なら、目をやられるかもしれないが。

 ここらで手に入る鏡なら、ちょうどいいレフ版だろう。


 ミスコンに参加するだけあって、確かにかなりの美人だ。

 元世界でのイメージでは、こんなショーに出るなんてエルフらしくないが、ファンタジーではないリアル世界。

 エルフといえども、肌の露出もお祭り騒ぎも平気のようだ。

 種族としてではなく、個人の質でしかないかもしれないが。


「ん?」

 次に現れたのは熟した女の身体を惜しげもなくさらした、ドヴェルグ族の女性だ。

 それはもう18禁ギリギリのビキニで、大胆なポーズまで決めてくれる。

 エルフが出ているんだから、そりゃ出てきてもおかしくないわけなのだが・・・。


「あれ?」

 なんか、見たことある、ぞ?


 どこで、会ったんだろ?

 いや、冗談ではない。

 だって、すごく綺麗だった。


 最初に会ったときの陰が完全に消えている。

 素敵な女性がそこにいた。

 20代になったばかりのような輝いた顔で、身体は熟れごろの・・・フェリシダが。


 両手足の、ブレスレットとアンクレットがなかったら、タグを確認しようとも思わなかっただろうし、タグを確認していなければ確信できなかった。

 それほどの変わりようだった。

 彼女は、少し目を離すと、そのたびに若返ったり綺麗になったりするようだ。


「フェリシダさん、綺麗です!」

 リリムも驚いている。


 昨日よりもノリノリのメイクアップがなされていて、完成された女の色気が匂い立つようだ。

 と、フェリシダと目が合った。

 ちょっぴり、はにかむような仕草をしておきながら、直後、大胆にも投げキッスをしてきた。

 色っぽくウィンク付きで。


 やってくれる。

 かわいいじゃねぇか、このやろう!

 オレは彼女が会場の裏に消えるまで、見送ったのだった。



「お、おい、あれ、聖姫様じゃないか!?」

「せ、聖姫様―っ!」

「お美しいです、聖姫様!!」

 フェリシダの色気で余韻に浸っていたら、大きな歓声が耳に飛び込んできた。

 壇上を見れば、そこにはどこぞの女神官がいた。

 頭に、この世界の神官なら必ずつける白い・・・烏帽子、をのせているのでそうとわかる。


 かなりの美人。

 惜しむらくは、胸のサイズが少しだけ残念な感じというところ。


 それでも清楚な黒髪と白い肌のコントラストが素晴らしい。

 あまり露出の多くないワンピースのような服を着ているのもポイントが高い。


 そしてなにより、意外性だ。

 エルフのみならず、女神官までもとは。

 たぶん布教と、寄付集めの一環なのだろうが。


 美人の聖職者もなかなかに大変らしい。

 会場を見回すと、声を上げている者の中に、無表情な者たちがいた。


 サクラだ。

 すぐにわかったよ。

 これはもう、出来レースだな。


「ドロル教の人たちね」

 背後で声がした。


 メティスが呆れたように溜息をついて、オレを見ている。

 いつの間にか、後ろに来ていたらしい。


 ドロル教の人たちに呆れているのかと思ったのですが、違うのですか?

 じっと見つめてくる金色の目に威圧されそうだ。


「前に、わたしにミスコンに参加するか聞いたじゃない。だから来てるんじゃないかと思ったんだけど・・・リリムちゃんを連れてきてるなんて」

 なるほど。


 リリムを連れてきているのが気に入らなかったのか。

 ドロル教、ね。


 教団ぐるみで聖姫様とやらの人気集めをしているようでは、他の参加者に勝ち目なんてない。

 急激に興味をなくしたオレは、リリムを連れて会場を出た。

 メティスももちろんついてくる。


「メティス。メティスは祭りで行きたいとかやりたいとかないのか?」

 こうなるともう、オレ的には帰って・・・ベッドの上で神輿を担ぐくらいしかすることはないのだが。


「・・・ないわね」

 肩を竦めたメティスの答えも素っ気ない。

 それなら、とアルターリアのもとへ向かった。



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