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異世界で家を買いました  作者: 葉月奈津・男
『恵』編
63/404

リリム 15 そんちょう

25/6/25。

ごちゃごちゃしていた文面を読みやすく。

ところどころ、に訂正を。

書き直しました。

 

 翌日。

 昨日で掃除の方は治療院全体を終えたらしい。


 今日からはいよいよ家の中になるそうだ。

 といっても、クレミーたちが今寝泊まりしている六畳ある四人部屋と四畳半の二人部屋一部屋ずつと、奥のメティスの私室は掃除の対象からは外れているらしい。



 昨日買ってきた白身魚(オオタラという名前のタラの一種、元世界にはいない魚らしく一部カタカナ表記になっていたが毒があるわけでもなく問題なし)をソテーする。


 1、畑の方で少し育ち始めたニラを切ってきて、3センチくらいの長さに切り、卵と合わせて塩コショウで調味する。

 2、タラ(白身魚)に塩コショウ小麦粉をふっておく。

 3、フライパンにオリーブオイルをひいて1を薄くのばし、その上に2を置いて包むようにくるむ。

 4、ときどき返しながら両面焼けば出来上がり。


 これと、シャラーラ手製野菜スープとサラダ。

 焼き立てパンで朝食にする。



「魚って・・・こんなにおいしかったかしら?」

 クレミーが口を抑えて驚いている。


「新鮮な上に丁寧に下処理がされていますね。帝都の料理屋でもお目にかかれないような素材です」

 シェリィが目を瞑って咀嚼しながら寸評している。


 どこの食通か!

 だがわからなくはない。

 歯ごたえのあるプリップリの食感だ。

 おいしかった。


 ミーレスは当然として、メティスまでもが「おいしい」とほめてくれた。

 いや、までもが、というのは変か。

 複雑な経緯で始まった奇妙な関係だが、仲は悪くないつもりなんだから。


「今日もマティさんと一緒に昨日行ったところに行く。結局交渉できなかったからな。もうあんなことはないと思いたいが、一応警戒していてくれ」

 食事の合間に予定を話す。

 クレミーたちには何のことかわからんだろうし、メティスとリリムはそもそもそういうことに興味がないので聞き流している。

 聞き流している風で、きっちりチェックを入れている、が正しいらしいけど。


 それはともかく。

 商人ギルドバララト支部副支部長の部屋に直接飛んだ。

 この時間なら、マティさんしかいないという確認をとっておいてのことだ。




「おはようございます。ハルカ様。便利ですわね」

 昨日とほぼ同じスタイルのマティさんが、すでに帽子着用でカバン片手に待っていた。


 服のデザインは一緒だが、色違い。

 この服装が一番自信ある、ということなのだろうか?


「おはようございます。用意がいいんですね」

 まさか、準備整えたまま待機しているとは思ってなかったオレはびっくりだ。


「ハルカ様が迎えに来てくださるかと思うと、他の仕事が手に付かなかったんですもの」

 クスクス笑いながらそんなことを言う。

 どこまで本気なんだか。


「それでは」

 一言声をかけて、『マチリパトナム』に飛ぶ。



 昨日と同じように、冒険者ギルドに出た。

 昨日と違ったのは、ギルド内に結構な数の人間がいて、それが昨日会った冒険者一行だったこと。

 向こうも驚いたようで、目を丸くしてこちらを凝視してくる。


「見つけた!」

 驚いて固まっていると、昨日話した強気女にオレは腕を捕まえられていた。


「捕まえたわ! すぐっ?! いやえっと・・・なんかややこしいことになってるの。悪いけどちょっと付き合ってちょうだい」

 付き合う方はいいが、ややこしいことは勘弁してほしい。

 そんな本音はとりあえず置いといて。


「どういうことですか?」

 昨日の縛られ冒険者もいたので問いかけた。


「俺たちにもよくわからねぇんだ。昨日の奴ら引っ立てて村長んとこ行って事情説明したら、あんたらの話も聞きたい。連れてこいって言われてさ。名前も聞いてなかったし、ギルド集まって途方に暮れてたとこだったのさ」

 冒険者一行様が一斉に頷く。


 なんか不気味な光景だった。

 だが、村長と直接話せるというのはチャンスでもある。

 チラリとマティさんに視線を送ると、彼女も同感らしく、小さなうなずきを返してくれた。


「そういうことなら」

「たすかる。すぐ行けるか?」

「いつでも」

 ということで、村長宅へと案内された。

 街の中央部、少し盛り上がった地形のところに周囲を壁で囲った二階建ての邸宅。

 まるで、というかほぼ完全に城塞だった。

 城門には衛兵よろしく、屈強そうな年輩の男が二人いて、冒険者の用件を聞いていた。


「俺たちは用済みだとさ。ここから先はあんたらだけで行ってくれ」

 門番と話した冒険者が肩をすくめながら言ってきた。


「わかった」

 ようやく解放される、と安堵の表情をした冒険者たちと別れて、村長宅に入る。

 門から入って長いアプローチを歩いた先、玄関はすでに開け広げられていて、前方にホールが見えてきた。


 その奥には何人かが座して待っている。

 まるで謁見の間か、法廷か、という感じだ。

 おそらく、村長の家ということではなく官邸なのだろう。

 村の行政施設でもあるつくりなのだ。議事堂であり、裁判所であり、その他もろもろを兼ねる公共施設。


「おまえさんたちかね。酒場での乱闘を収めたというのは」

 法廷であれば証言台がある辺りまで進むと、真ん中の枯れ木のような爺さんが口を開いた。

 見た目の割にしっかりとした口調、眼光も鋭い。

 タグの助けを借りるまでもなく、村長だということが知れた。


 視線をずらすと、右側には昨日捕らえたならず者が何人か縛られたまま座らされていた。

 後ろにでかい木の柱があってそこにつながれているようだ。

 武装した人間が六人、見張りをしている。

 騒がないようになのか猿轡をしっかりかまされていて、あれでは声を上げることもできないだろう。


「そう思ってもらって間違いない」

 視線を村長に戻して、答えた。

 否定する理由がないので、その通り、と肯定した。


「ずいぶん若いな」

 村長の隣にいた少し若い男が、呟きを落とす。

 反対側にいる同じ年代の女性が、殺意を感じる視線を突き刺した。


「若さは問題じゃないの。重要なのは実力よ。じ・つ・りょ・く!」

 力強く強調して、バカにしたように鼻で笑う。

 明らかに仲が悪そうだ。


「そして、所属じゃ」

 村長が前のめりになってオレを見つめてくる。

『鑑定』の能力でもあるのかと、疑いたくなるような視線が突き刺さってくる。


「所属、と言われましても冒険者ギルド所属の単なる冒険者に過ぎないんですけどね」

 肩をすくめて見せる。

 紛れもない事実だ。


 ただ、それならばと照魔鏡の提示を求められたりするとちょっと困る。

 ジョブの項目だけを確認されるならいいが、種族の項目を隠すことができない。

 設定値変更ではカードの内容変更はできなかった。

 

 肩をすくめ、人畜無害なちょっと知恵の足りない男の仮面をかぶり続けること数十秒。

 村長の方が引いた。


「冒険者、のぉ」

 引きはしたものの探るような視線は向けられたままだ。


「お疑いですか?」

 というか、いったい何を見定めようというのか。


「わしは多くの冒険者パーティを知っておるが、男を中心に女ばかりのパーティというのは数えるほどしか見たことがない。そして、それはひとつを除いて主人と奴隷のパーティであった」

 あー。

 そうか、それは考えてなかった。


 迂闊だったな。

 戦闘集団としてとらえた場合、男女比率は半々か男が多いかになるのが普通だろう。


 女が中心なら逆も当然ありうるが、男のリーダーで、あとは全部女性というのは普通なかなかない。

 あるとすれば、主人が奴隷を連れている、という形のときだ。


 マティさんは奴隷じゃないんだけど・・・。

 誤解してるな、これは。


「一つは例外として、他のパーティの場合。『所属は?』と問えば。答えは貴族か大商人の次男であった」

 奴隷をそろえるには金がかかるからだな。

 リティアさんにあれだけ不審な目を向けられていたのだ、気が付くべきだったかもしれない。

 見るべきところに目が向く人間には、洞察できてしまう状態だと。


「なのに、お前さんは冒険者としか言わぬ」

 パーティメンバー全てを女奴隷で固めることができるほどの金がある冒険者。

 確かに、異常な話だ。


 理由はもちろんあるわけだけど。

 問題はその理由、だよな。


「・・・・・・」

 オレは返答を避けた。


 向こうも疑問符を付けていない。

 一人語りだと捉えて、なにも言わずにおくことにする。

 タグを開いても、複雑な思考が断続的に流れているだけでとらえどころがない。

 無理に意味のある内容を得ようとすると文字化けの激流に呑まれて頭がくらくらした。

 これが、『老獪』というものなのだろうか。


「所属については冒険者ギルド、ということでもよい。だが、もうひとつ疑問がある」

 村長の視線がさらに熱く鋭くなった。


「なぜ、殺さなかった?」

 縛られて座らされている者たちに顎をしゃくって聞いてくる。

 低く、抑えられた語調に寒気がした。

 なにか、得体のしれない怖気が背中を駆け上がる。


「と、いいますと?」

 慎重に、目を上げた。

 逃げられない、踏みとどまるしかない。

 理屈ではない何かがそう囁いていた。


「現場で何が起きたかを聞いた。雷撃系の魔法だそうだな、決め手は。ならば、お前たちのなかに魔導士がいるということだ。魔導士の放つ魔法は強力だ。じゃが、だからこそ解せぬ。魔法の威力は術者には制御できぬと聞いておる。どうやって、気を失わせるだけで済ますことができたのか?」

 そこか。

 パーティメンバーの方は金さえ確保できれば可能だから、どうとでもごまかしようがあると思っていたのだが。

 そこをつつかれると説明が難しい。


「殺すのを避けた理由と、その方法。わしが気になっているのは、そこなのじゃ」

 さぁ、どう説明する? とばかりに村長が迫る。


 座ったままなので位置的には近づいてきたりはしていないのだが、気迫がすごい。

 村長というちょっと牧歌的イメージの強い言葉とはかけ離れた、存在感がある。

 汗が噴き出す、事実を言ってしまえば納得させることは簡単だ。

『異世界人なので普通とはちょっと違う能力があるんですよ。あはははは―』でいい。


 だが、それを言ったあとなにが起きるかと考えると頭か痛くなる。

 間違いなく、これまでのように自由の利く身ではいられなくなるだろう。

 翔平ほどではないにしろ、行動に制限もしくは過度の要求が掛けられる。


 とはいえ、事実を言わずに納得させる説明をするなんてことができるだろうか。

 必死に考えを巡らせて・・・。


 あ。

 思いついた。

 その説明なら何とかなるかも。


「術者本人に魔法の制御ができないというのは、それが魔導士であればのことでしょう?」

 そんなことか、と言いたげに軽く息をついて説明を開始した。

 たいしたことではないんですよ、というように。


「アルターリア。ウンディーネを」

 短く指示を出す。


「は、はい」

 求めに応じて、アルターリアは手の中にウンディーネを呼び出した。


 透明な物体が、アルターリアの手の中で大きく膨らみ、床に降りた。

 前に見たときより一回り大きい。

 サイズを調整しているのでなければ、成長しているということなのだろう。


「精霊魔法の使い手か」

 深く頷きつつ、村長がつぶやく。


「エルフだしな」

「魔導士と精霊使い、両方を抱えているわけね」

 両脇の男女も納得の声を上げた。


 実際は両方を兼ねる人材を連れている、なのだがわざわざ教えることではない。

 そもそも、問いかけの正答ではないのだし。

 男女がちょっと興奮している風なのは、さっき口にしていた実力の高さを示しているからだろうか。


「精霊魔法で直撃を避けた、だから死人が出ていない。その説明は納得がいくものだ。だが、肝心の質問には答えてくれておらぬな。もう一度問う。なぜ、殺さなかった?」

 精霊魔法の存在をほとんど気に掛けていない、そう感じさせるほど無造作に受け流して根本の問いかけを繰り返された。

 精霊魔法の存在を見せつけることで、そっちの疑問を忘れさせたかったのだが。

 失敗した。


 失敗した理由は何か。

 彼らは、なにか一定の答えが出るのを待っている。

 その答えとは?


「あー、なるほど。わかりましたわ」

 疑問を持つもののわけがわからないので必死にタグを覗いていると、マティさんが気の抜けたような声を出して頭を抱えた。

 右手でこめかみを揉んでいる。


 なんか、年寄り臭い。

 などと失礼な感想を抱いたオレを、マティさんの視線が射抜いた。

 怒られるのか?


「ハルカ様、彼らはハルカ様を刺客ではないかと疑っているのですわ」

 違った。

 怒られるわけじゃなかった。

 いや、そうじゃなくて!


「刺客?!」

 暗殺者とかアレ系の人のことだよね?


「この街は古くから地元民が一致団結して外敵を排除してきたことで有名なのですが、それは街が一枚岩だからではなく。外部の敵に対しては一致して反抗するのですけれど、内情は二派に分かれて争っているのが実情だ、と聞いています」

「二派?」

「聞いた話によれば、町長派と村長派に分かれて街の統治権を争っているとか」

 うわぁ。

 それで街なのに『村長』がいるのか。

 村長の家が城塞と化すわけだ。


 先日のごろつきは『町長』派の人間で、無法なことをしていたのに殺さずに捕らえただけだったのは『村長』派に取り入るための狂言だったのではないか? と言いたいのだと理解する・・・わけがあるかぁ!


 シナリオに穴がありすぎるだろ!

 まず、昨日のならず者の出現からおかしかった。


 確かに美女を四人もつれていたから目立っただろうが、それにしたっていきなりあんな無茶ができるような街が街として存在できるわけがない。

 魚を買いに港のそばを歩き回った時には治安が荒れているようには見えなかった。


 人のよさそうなばあさんが、丁寧にさばいた魚を信じられないほどの安値で売ってくれて、ついでに20分も世間話をしたがアルターリアに5歳になる孫の嫁にならんかなどと定番のジョークを言って笑っていた。

 街の警備が全滅しているとか、本隊が本来の敵と交戦中とかの愚痴なんて一言も出なかった。


 百歩譲って、古くから続いていて常態化しているので感覚がマヒしているのだとすれば、街には常態化しているからこその爪跡が残っているはずなのにそれも全く見当たらない。

 物見櫓とか、砦とか、消火設備といったようなものがあるべきなのに、まったくなかったのだ。


 街の中に対立の跡なんてなかった。

 冒険者たちのケガが浅すぎてもいた。


 捕らえられただけ、という傷しかなかった。

 本気で戦ったなら、骨折くらいしているはず。

 死人が出ていたっていい。

 それがなかった。


 縛られていた男冒険者の顔にも、殴られた痕なんて一つもなかったのだ。

 そもそも、女をおもちゃにしようとしていたくせに捕らえた冒険者一行の女には手を出していない。

 ミーレスたちほどではないが、スマートできれいな女性だったのに、だ。


 刺客ではないかと疑っているのだとしたら『村長』たちが丸腰すぎる。

 前面に警備の者を並べていてしかるべきだろうにそれがない。

 そうでなければ、こんなに悩んでない。


 昨日のごろつき、冒険者一行、そして村長。

 登場人物全てに妙な違和感がある。


 なにを目的として行動しているのかがまったくわからない。

 全員が何の目的もないまま行動しているのかと、疑い始めていたところだ。

 だが・・・。


「ちょっとまって」

 こめかみを揉んでいるマティさんに声をかけた。

 村長たちは無視だ。


「は、はい?」

 びっくりした顔を向けてくる。


「もしかして、この街との交渉がうまくいくかどうかが、あなたの立場に影響を及ぼす、そんな事情があったりしませんか?」

 考えてみれば、オレの求めた答えをくれたとき、すでに書類が存在していた。


 ああ!

 そうだ、あのときマティさんは独自に調べた資料だと言っていたっけ。

 オレより先に動いていたということだ。


 それなのに、情報に齟齬があるように見える。

 少なくとも、オレの見る限り二派による争いなんてありはしない!


「え、・・・ええ。ギルドから、新規の支部開拓を命じられていますわ。この街はその候補の一つになりますわね」

 そういうことか。

 目的が読めなかったわけだ。

 登場人物が足りていなかったのだ。


 マティさんと、商人ギルドが。

 ピースの多くが隠されている状態でパズルなんてしたって、完成するわけがない。


「候補にした理由は?」

「調査の結果ですわ。新規開拓のための足掛かりを作れそうな町を探しましたので。どこの組織にも完全に支配されていない街、そのうちの一つです」

「資料の作成にかかわった人って、信用できる人でしたか?」

「信用はできると思いますけれど? フリーランスの調査会社です。費用は高いですけど、中立の情報がもらえるはずですわ」

 金で雇われたときだけ、依頼を遂行する第三者的調査会社。

 後ろにも横にも、組織が介在しない、してはいけない組織。

 ひとたび、その立ち位置を失えば顧客を失って消えてしまう存在。

 通常なら信用を失うような真似はしないだろう。


 でも、もしも第三者という立場がいらなくなるような事情があったら?

 会社ごとどこかの組織に買い上げてもらえる約束がなされていたら?

 すでに、なにかの組織または個人の手下と化していたなら?


 情報を歪めることなんて造作もない。

 マティさんが間違った情報で動いて、結果的に街と商人ギルドとの関係がこじれたら?

 その責任は当然のごとくマティさんが被ることに。

 さて?


 ・昨日のならず者。

 ・冒険者一行。

 ・村長たち。

 この三者は同一の存在だとして、

 ・商人ギルドのマティさん。

 と。


 ・調査会社。

 がいる。


 ここに、黒幕が存在していると仮定したとして、狙いは何か?

 いや、それ以前にどういうシナリオを用意していたのだろうか?


 マティさんをどうにかしたいだけなら、こんな手の込んだ芝居はいらない。

 どこかにおびき寄せて斬ればいいだけだ。

 そうしなかった理由は?


「おい! わしらを無視するとは何事か?!」

 ・・・人が真剣に悩んでいるというのに、爺がうるさい。

 軽く手を払うように動かした。


 同時にミーレスとアルターリアがサラッと動いて黙らせた。

 別に当て身を当てたとか剣を抜いたということではなく、睨んだだけだ。


 シャラーラはオレのそばに半歩寄って警護の姿勢。

 静かになったので、そのまま考え込んだ。


 何をしたかったのだろうかと。

 爺どもに聞くというのは無駄だととっくに見切っている。

 自分たちが何をしているかすら、わからずに踊っているだけの道化にしか見えない。


 黒幕にとってみれば使い捨ての駒に過ぎないのだろう。

 黒幕はどう考えていたのだろうか?


 1、この『マチリパトナム』の街にマティさんが来る。

 候補に入っているのだから、一度は足を運ぶというのは確実だ。

 2、ごろつきに拘束されて飲み屋に連れ込まれる。


 オレの転移を知らなくて追跡ができなかったとしても、いつか来るだろう人間の特徴を教えておくことは可能だっただろうし、冒険者ギルドと商人ギルドを張っていれば来訪を知ることは可能だ。

 ギルドの見張りが来訪を知らせて仲間たちが下準備をしている間に、声をかける。


 マティさんは商人に過ぎないから、捕らえるのなんて赤子の手をひねるより簡単だったと思われる。

 ごろつきのふりをしている街の住人(多分)にマティさんが捕らえられたとして。


 そこから何が起きるのか?

 なにが起きたのか?

 もちろん、オレが吹っ飛ばしたわけだが・・・。


 あ、そうか。

 ピースは足りなかっただけじゃなく、多かったのだ。

 オレが余計だった。


 ごろつきが吹っ飛ばされることは予想していなかったのだ。

 黒幕は。


 マティさんは捕まったままになるはずだった。

 もちろん、マティさんが一人で来るとは考えていなかっただろうが、誰か付き人か護衛がついてくることは予想していたはず。


 その人物を脅す。

 冒険者一行はそのための小道具。お前もやられちゃうぞーっと脅しをかけて、村長が知りたがっていた。

 重要視していた『所属』を聞き出すことに。


「ああ?! 人質だ!」

 マティさんを捕らえたまま、付き人か護衛を脅して所属を聞き出す。

 商人ギルドの支部副支部長だと知ってマティさんを人質に商人ギルドを脅迫。

 交渉は村長とギルド側の黒幕とで行われて、商人ギルドはマティさんを救うため、しぶしぶ金を出すor条件譲歩を余儀なくされる。


 マティさんに恩を着せ、ギルドに貢献し、この『マチリパトナム』の街との間に太いパイプを作る。

 というシナリオはどうだろう?


 ならず者役の者たちをオレが吹き飛ばさずにいたら、ありえた展開ではないだろうか?

 または、完全に吹き飛ばして全員殺していたら?

 さっき、この村長が「なぜ殺さなかった」かをあんなに何度も聞いていたのは・・・。


「おかしいと思ったんだ」

 再度、タグを展開しながら言葉を吐き出した。

 名前が出ている。

 種族名とジョブも。

 そして確かに、そこには『村長』の文字がある。

『村長』なのは確からしい。

 だけど。


「街なのに村長が権限持ってるなんてあるわけないよな」

 異世界だから村長のまま町を収めているというのもありか、とか「村」とか言いながら「市」並みの広さを持つ某ワインで有名な元世界の地域の例もあると思って気に留めずに流していたが、『マチリパトナムの街』ときっちり街が入っているのに『村』はやはり制度としておかしい。


「いやいやいや」

 頭を振った。

 さっきちゃんと『町長』もいるって聞いたじゃん。


『町長』派の人間。

 登場人物がようやくそろったような気がする。


 1、昨日のならず者。(町長派)

 2、冒険者一行と村長たち。(村長派)

 3、マティさんとオレたち(商人ギルド)

 上記三者を、


 4、調査会社(黒幕の手下)

 が操ろうとしていた。

 これなら、全体像を過不足なく説明できる。

 ただし・・・。



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