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異世界で家を買いました  作者: 葉月奈津・男
『恵』編
54/404

リリム 6 パーティー(←この「-」が付くと宴会の意味になる)


 翌日の朝食後に、もう一度磨き上げる。

 寝汗をかいたかもしれないからだ。

 パーティーは昼過ぎからなので、時間はまだある。

 思わず押し倒したくなる肉欲へと、毎秒ごとに金づちを打ち落としながら耐えた。

 そして、昼前に全員で家を出る。

 オレは、以前リティアさんからもらった青色の上下を着た。

 メティスは正装の修道服。ミーレスとシャラーラ、リリムが昨日買ったドレスを着る。もちろん、メティスにもきっちり『レフレクトチョーカー』を着けさせている。できることなら、メティスのことも手ずから磨き上げたかった。

 それだけが無念だ。

 五人で並ぶと、実に華やかで輝いて見える。

 ミーレスたちは昨日買ったドレス、メティスは治癒魔法士用の法衣にオレが預けてある『シャクジョウ』を手にしていた。

 法衣と杖、で一つのセットということなのだろう。

 尼さんが尼服を着ているのに、十字架を首に下げていない状態では様にならないのと似たようなものだ。

 実際、杖を持っていると心なしか表情が引き締まってかっこいい。

 主のはずのオレが、下男にしか見えないなどという些末なことはどうでもいい。

 ミーレスがオレにも何か服をとか進言してくるが、オレの服なんぞにかけるような金があるなら、彼女たちに使うに決まっている。

 街の大通りを歩く。むろん彼女たちを前に出して、しゃなりしゃなりと歩く姿を後ろから堪能した。これで彼女たちの同意がなければ、ただのストーカーだ。

 思わず顔がにやけてしまう。

 「・・・・・・ついたわよ?」

 街の北、その一角にあるやたら大きな領主の館。

 門の前に立つ騎士に招待状を渡して、中に入る。招待状を受け取った騎士が、ろくに見もしないで横に置いた箱に投げ入れていた。

 セキュリティは大丈夫なのか?!

 ツッコみたくなるが、迷宮を遠ざけることに成功している街だ。きっと平和で治安もいいのだろう。

 若い女性に案内されて、館の中に入っていく。

 騎士団でもメイドとかでもない。なんか、どこかの学校の生徒がボランティアで案内役をしている感じがする。

 タグを開いてまで確認はしないけど。

 歩きながら、建物の様子に目を向けた。

 木の床に漆喰の壁。

 あまり装飾にこだわってはいないようだ。

 見栄えよりも安全性に考慮した質実剛健な屋敷といった様子がある。

 あ、そうか。

 貴族間の交渉事とかは城で行われるのだ。

 館は領民との行事用。

 城が首相官邸や迎賓館なら、館は公民館といった所だと考えればいいのだ。

 それなら、この雑さも理解できる。

 案内されたのは、ちょっとしたホールだ。結婚式場、とまでは言わないが、ホテルぐらいの豪華さとスケールがある。各所に丸テーブルがあって、料理が並んだり積み上がったりしていた。

 立食式のパーティーだ。

 席が決まっていたのでは、せっかくの出会いの場が狭くなるからな。

 「これは、素敵なお嬢様がた!」

 「あなた方に会うために、今日は駆け付けました!」

 「あちらで、ゆっくりとお話でも!」

 会場に入ったとたんに、ミーレスたちを男どもが取り囲んだ。

 無理もない。

 オレもこの場にいただけの有象無象の一人なら、遠巻きにして熱い視線を送っていただろう。だが・・・残念!

 全部、オレんだ!!

 『適当に相手しとけ。ただし、耳に入った情報は覚えといてくれよ。あとで報告してもらうから』

 ミーレスに指示をする。

 ちょっと不満と不安を顔に出してオレを見ていた目が見開かれて、真剣みを帯びて小さな頷きを返してきた。

 オレの思惑を理解してくれたようだ。

 シャラーラとリリムにはそういう任務は無理だから、たぶん、アルターリアと手分けして情報収集に当たってくれるだろう。

 「とりあえず、街の名士がいたら教えてくれ。挨拶くらいしておきたいからな」

 囲みからメティスだけを何とか引っ張り出して、耳元に囁いた。

 ちょっぴりうんざり顔のメティスと連れ立って、ホール内をうろついていく。

 街の名士を、と思ったのだが、「独身者」限定ではなかなかうまくはいかないようで、めぼしいのは見つからなかった。

 こっちは空振りだ。

 メティスを連れているせいか、オレは女の子に囲まれたりしなかったしな。肩書も金も見せてないオレが貧相なガキにしか見えないせいという可能性も、少しはあるかもしれない。

 ・・・つまらん。

 「お、お姉ちゃん?!」

 だいたい一回りし終えたかな、というところで、素っ頓狂な大声が耳に突き刺さった。

 びっくりして目を向けると、今まさに肉の大きな塊を皿にのせようとしていた女の子がこっちを見て目を見開いていた。

 なにか、見覚えがあるような?

 「クレア!」

 疑問に思っていると、メティスも目を見開いて相手を見ている。

 まるっきり同じような顔・・・と。

 ああ、妹だ。

 これだけ似ているんだ。他人の空似ということはないだろう。帝国にいるという妹さんだ。クレアって名前だったのか。

 タグを開くと、【クレア・セルディア 女 16歳 戦士Lv23】とでる。

 ふーん。メティスの姓ってセルディアだったんだ。

 奴隷になると家名というか姓の部分が無くなるようなので、今まで知らなかった。

 ・・・胸は姉に負けるかな。

 その代わり、全体に引き締まった感じがする。

 メティスはどちらかというとふっくらとした母性を感じさせるスタイルなので、余計にそう見えるのだろう。

 「うっわ。めっずらしい! お姉ちゃん、一度しか参加してなかったよね?」

 最初の一回で懲りて、そのあとは一度も出てきていなかったのか。

 そういえば、領主の娘のことも「四年前に会ったとき」って言ってたよな。そのあとは参加しなかったから会ってないのか。

 「そういうあなただって、どういうことなの? 騎士になるのにお見合いって」

 「あー!! 違う違う!!」

 クレアが寒くなるほどの勢いで、手を振った。

 「騎士学校の実務研修! 帝国内の騎士団で実際に働くの。騎士団って言われても、私はエレフセリアのおじさましか伝手がないでしょ。ダメもとで訪ねてきたら、クレミーちゃんの護衛と祭りの警備の手が足りないっていうから、そのまま着任したってわけよ」

 貴族をおじさま呼ばわり、それに伝手、ねぇ?

 問いかける視線を向けてやると、メティスが眉を逆立てて顔を寄せてきた。

 「うちの父、昔は伯爵様のパーティメンバーだったことがあるのよ。母は奥様と親友だったしね。だから、伯爵様からは親戚並みの扱いをしていただけてるわ。と言っても、あくまで一般レベルの話で政治的に何かをしてもらったことはないわよ」

 プライベートで家族のように接してもらっているが、公の場では領民の一人でしかなかったということだ。少なくとも、治療院の運営を助けたり、メティスの借金をどうにかするような援助をしたりはしたことがない、と。

 「クレア? 知り合いなの?」

 鳥のもも肉を両手に持った茶髪の女の子が、ひょこっとばかりに顔を出して聞いてきた。

 明るい茶色の短髪に、活発そうな鳶色の瞳。小麦色の肌をした健康美人だ。


 【マローネ・カリーチェ。女 15歳。 剣士Lv22】


 思わずタグを開いてしまった。

 で。

 「?」

 脳裏モニターに浮かんだステータスを見たオレは、ふと首を傾げてしまう。

 レベルはクレアと似たようなものだ。

 なのに、ステータスが全然違う。

 体力はともかく、敏捷なんてクレアの半分もない。

 やはり、レベルは当てにできないということなのだろう。

 「お姉ちゃんなの。街で治療院やってるんだ」

 振り返ったクレアは、突き出されたもも肉を一本受け取りながら答え、今度はこっちに向きなおる。

 「お姉ちゃん。この子、わたしの同期でマローネっていうの。今度、クレミーちゃんの護衛に付くことになったのよ」

 受け取ったもも肉で指し示して、紹介してくれた。

 「マローネです! 騎士学校の成績悪くて、卒業きつそうだって言われたんで中退して、ここの騎士団に見習いとして入れてもらうことになりました!」

 元気よく教えてくれた。くれたのはいいが、そんなこと言わなくても・・・。

 やはり弱いのかと納得はしてしまったが。

 「そんなことは言わなくていいんだってばっ!!」

 「あう!」

 慌てたようにクレアがツッコミを入れている。ちゃんと右手の甲で胸をべしっと。

 角度といい、勢いといい。見事だ。

 「それはそうと、お姉ちゃん? こちらの人は?」

 もも肉が、今度はオレに向けられた。

 探るような、ちょっと期待しているような目が、オレとメティスのあいだを行き来した。

 「手紙にも書いたでしょ? うちを借りてくれてる冒険者よ」

 感情のない声でメティスが答える。

 クレアの眉が寄った。

 「この人が? ずいぶん若いよね。しかも・・・男だよ?」

 「女だなんて書いた覚えないし、若さは関係ないわ。家賃はきちんと払ってくれているわよ」

 相変わらず堅い声で答えるメティスに、クレアが不審そうな目を向けて、口を開け・・・。


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