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異世界で家を買いました  作者: 葉月奈津・男
『恵』編
27/404

シャラーラ12 クルール2

25/6/23。

ごちゃごちゃしていた文面を読みやすく。

ところどころ、に訂正を。

書き直しました。

 

 翌朝は、クルール迷宮六階層からのスタートだ。

 昨日集めたアイテムはすべて家の物置に保管してある。


 マティさんがガラス職人と連絡を取ってくれたら、手土産代わりに持っていくつもりでいる。

 で、そのマティさんとのディナーについては、リリムが少し悲しそうだった以外は取り立てて問題も出ていない。


 奴隷がとやかく言うような問題ではないからなのか、オレが夜のお勤めをサボらなかったからなのか、多分両方なのだろうが有り難いやら寂しいやら。

 我ながら困ったものである。


 困ったもの、と言えばそのリリムをついにものにした。

 悲しそうな顔、がいけなかった。


 寝室の反対側から、あからさまな抗議を乗せた視線が向けられた気配があったものの、さりとて直接文句を言われたりはしなかった。

『商品奴隷』のリリムを主人が求めるのは当然だし、メティスもまた『商品奴隷』であるからには口出しする資格がない。

 なにより、リリム本人が望んでいたのだ。


 体力ももう万全のようだったし、誰にも文句は言わせない。

 細くて華奢で小さめの身体に覆い被さって、いろんなところをいろんなところで味わった。

 いちいち敏感に反応してくれるのと、かわいらしい声のせいでついついしつこく求めそうになる。

 ミーレスはきれいだし、シャラーラは情熱的だし、メティスは楽しみだし、本当に困ったものだ。


 六階層ではセピア色の『セピアゴーレム』とワインレッド色の『ゴールドゴーレム』が出現した。

 ワインレッドなのにゴールドとはなんぞや? 


『ドロップアイテム』は『セレン金属』と『金』だ。

『セレン金属』はゴーレムの名前の通りセピア色やピンクが出て、『金』は金赤という赤い色を出す染料だということをタグ展開で学んだ。

 金色になるわけではないらしい。

 だからゴーレムの色もワインレッドなのだろう。


 なんにしても、本物の金である。

 ただし、大きさは他の『ドロップアイテム』が500円硬貨なのに対して一円硬貨程度だ。


 しかも、『ゴールドゴーレム』は出現頻度がめちゃくちゃ低い。

『ブルーゴーレム』などが20体に対して、1体出るかどうかだ。


『ゴールドゴーレム』を狩りまくって金持ちに、とはなりそうもない。

 どちらにしても、これまでのことから考えて、この階層では銅も青銅も採れないことは確実とみていい。


 一階層ごとに二種類のゴーレムが追加されてきたのだ。

 六階層目で新たに二種類のゴーレムが出て、どちらも銅と青銅は落とさない。

 なら、クエスト的にはこの階層に残る理由はないわけだ。


『ゲートキーパー』を探すのを優先に、接敵した魔物を狩っていく。


「ぶんなぐるっす!」

 今日も、シャラーラの突破力は抜群だ。

 足も腰も軽々と動き、拳は重い。

 魔物がかわいそうなくらいの勢いで瞬殺していく。


「これ以上は進ませません!」

 オレの護衛を主任務としているミーレスも、時折側面や背後に出現する魔物を危なげなく斬り捨てている。

 もはや安定した戦闘スタイルが確立されているようだ。

 おかげで、昼前には六層目の『ゲートキーパー』と対峙した。


『ミルフォリス』。いろんな色のパーツがモザイク模様を作っているゴーレムだ。

 いろんな色が混ざっているように見えるが、その実、一つの模様がボディいっぱいに敷き詰められている。


「何か特殊能力があるかもしれん。むやみに近づくなよ」

 昨日のこともある。

 わかっているとは思うが、もう一度指摘しておいた。


 一瞬の油断が命取りになる可能性は、常にある。

 結果として、それが正しかった。


「おわ! あちちちっちっ」

 シャラーラが必死に飛び上がって逃げてくる。

 倒したと思ったとたんのことだ。

 魔素になることなく、ドロドロに溶けた粘液状になって周囲に広がった。


 床に落ちて広がったからまだいいが、これが上で広がって落ちていたらと思うとぞっとする。

 本物のガラスが融けるような温度を発していて、離れていたオレですら熱気に当てられて二、三歩下がったほどだ。


「シャラーラ、大丈夫か?!」

 殴っていたシャラーラなどは火傷の一つや二つしていそうだ。

 逃げてきた彼女の体をくるくる回しながら確認した。


「だ、大丈夫っす。熱気はすごかったっすが、直接触れたりはしてねっすから」

 くすぐったそうに返事をくれたが、オレは自分で確認する手を止めはしなかった。

 大事な大事なシャラーラの白くてすべすべの肌に、水膨れなどあってはならない。


「大丈夫そうだな」

「ばっちりっす!」

 元気に握り拳を作ってアピールしてきた。

 問題なさそうか。


「ご主人様」

 ミーレスが『ドロップアイテム』を拾い上げて持ってきた。

 粘液状のガラスも魔素となって消え、『ドロップアイテム』を残して消えたのだ。


『ガラスカッター』。

 刃物だ。

 読んで字のごとく、ガラスを切るためのものだろう。

 この迷宮を作った神様は、よっぽどガラス工芸を広めたいらしい。


 乾燥肉をかじってから七層目の探索に入った。

 入ったのだか・・・。


「おーい!」

 思わず呼び声を上げてしまった。


『ブルーゴーレム』を中心に、下層の魔物ばかりが出てくる。

 新手が出てこない。

 まさか、この階層は前出のゴーレムばかりが出る復習部屋か。

 そんなことまで考え始めた時、幸いにもその不安が外れていることが分かった。



「やっとか!」

 夕方近くまでかかって、ようやく妙に暗い赤色のゴーレムに出くわしたのだ。


『カッパーゴーレム』。そのものずばりだ。

 銅の英名がCopperなことは、語源が警察官のバッジからきているということでなぜか知っていた。

 昔、何かの本で読んだのを覚えているのだ。


 あと銅=ブロンズだと思っていたので、「そうだったのか」と驚いたことで印象に残っていたというのもある。

 ブロンズ、というのは青銅のことで、銅ではないらしい。


 青銅というのは銅に錫が含まれる合金のことで、ほかの金属が含有するとアルミニウム青銅、マンガン青銅、ニッケル青銅とかになるのだそうな。元世界では知っていても「ふーん」としか言われなかっただろう雑学が、こんなところで役に立つ。


「あいつを倒せば、銅が手に入るはずだ。逃がすなよ」

「もちろんっすよ!」

 すでに走り出していたシャラーラが肩越しに応えてくる。


「うおっ!」

 そのシャラーラが吹っ飛んだ。

 今までのゴーレムとはスピードが違う。


 まともに食らったのか?!

 いや、殴りつけてきた相手の拳に乗って自分で飛んでいる

 大丈夫かと心配になるが、シャラーラは何事もなかったかのように飛んだ先から、引き戻されるゴーレムの拳を追いかけていく。


 引き戻したばかりの右腕は打ち出されて来ないから無視。

 左腕が来るのをステップ一つでかわして肉迫。

 右肩に痛打を浴びせて、そのまま背後に回ると怒涛の連打。

 同時に、ミーレスが正面から斬り込む。


『ゲートキーパー』以外では初めての連携攻撃だ。

 さすがに、一対一で倒せるほど甘くはなくなってきたということだろうか。

 それでも、二人掛かりなら危なげはない。


『カッパーゴーレム』が膝から崩れ落ち、そのまま魔素となって消えた。

 予想通り、『銅』がドロップする。

 握り拳大の銅の塊だった。銅鉱石ではなく、銅そのもの。

 登場頻度が少ないのは、『ドロップアイテム』の価値が高すぎるからバランスを取ろうとしてのことか。


「さすがにきつくなってくるな」

 もう七階層目だ。


 同じ『恵み』の階層でも、10階層から上は一段レベルが上がると聞いた。

 ここらからも多少は戦いにくくなってくるのかもしれない。


「そう、ですね。これが続くようですと、ご主人様の護衛が不安です」

『銅』をもってきたミーレスが、心配そうに言ってくる。

 自分が前に出ている間、オレが無防備になることを気にしたらしい。


「金がたまり次第、家族を増やすことを考えよう」

 金をためたら・・・家族を増やすときに使う言葉じゃないな。


 ん?

 いや、出産費用貯めて、妊活するようなものかな。

 全然違うか。

 なんにしても、まずはクエストを終えないとな。


「ハスムリトが言っていた、手間の意味が分かった。目当てのモンスターに当たるまで、この階層にいなきゃならないわけだ。期限まであと七日、ここで魔物を狩り続けるぞ」

「承知しました」

「やるっす!」

 オレたちは、本腰を入れて魔物狩りを続けた。


 その甲斐あって、その日のうちに『銅』をもう一つと、『ブロンズゴーレム』を倒して『青銅』もひとつ手に入れた。

 この階層内で探索すればクエストを完遂できることは確認できたわけだ。

 あとは手数勝負。




 七日間、七階層にこもる。

 そう宣言したが、実際は二日後になって一度家に帰ることになった。


 マティさんからの伝言が、コロルの商人ギルドに届いたからだ。

 対外的に、オレたちはクエストが終わるまでコロルの街に居座っている、ということにしている。

 エレフセリアの家に毎日帰っているのは、秘密だ。


 そうなると、宿をとっていないことはごまかしようもあるが、『ドロップアイテム』をどうしているのかと思われる。――冒険者ギルドで売ると商人ギルドでの10パーセントの減税が効かない。

 減税を無視して冒険者ギルドで売る理由は? となるとやはり不審を買ってしまう――なので、一応毎朝ギルドには顔を出していた。


『銅』以外のドロップアイテムを適当に売って見せるために。

 そうしたら、伝言が届いていると伝えられたので戻ることにした、わけだ。


 当然、三人で帰るとなると移動費用がかさむ。

 オレだけが帰るということにして、一度タペストリーを通ってバララト支部――帝都やエレフセリアよりもバララトのほうが近いので安上がり――へと移動。


 タペストリーを使わずにコロスに二人を迎えに行った。

 人目に触れない街の外に待たせておいたのだ。

 タペストリーからタペストリーでなく、座標から座標へなのでこういうこともできる。

 めんどくさいが、世間の目を欺くためなので仕方がない。


 言うほど手間でもないし。

 それに戻されたことには、いいこともある。


 コロスにもう一度行くことになる。

 クエスト途中で呼び出されたのだから当然だ。


 それはつまり、また鉄製品を運ぶ口実ができたということだ。

 儲けさせてもらおう。


 ああ、そうそう。

 バララトに飛ぶ前に、持ち金全部で銅製武器を買ってもいる。

 これもどこかで売りさばかないとな。

 ミーレスとシャラーラをつれてバララトの商人ギルドへ飛ぶ――タペストリーは使わないがタペストリーから出たように見せて――、だ。



「ハルカ様」

 以前と同様、マティさんが待っていてくれた。

 今回は夜会服かと思うぐらい、肩と胸元が露出した赤いドレス姿だ。

 彼女はここぞというときの戦闘服に、露出度の高いドレスを着用する癖があるようだ。


「もしかして、副支部長直々にご案内いただけるのですか?」

「もちろんです。と言いたいところなのですが、ギルドの副支部長としてではなく、個人的なわがままですの。わたくし以外の方にハルカ様をお任せしたくなかったからですわ」

 そう言いつつ、近づいてきたマティさんがオレの腕に自分の腕を絡めてきた。

 左腕の肘に、マティさんの柔らかいものが触れている。


 その感触に気が付いて、思わず目を向けると、マティさん自身もすごく赤い顔をしていた。

 かなり大胆な行動だが、本人もいっぱいいっぱいらしい。

 なんでそんなに無理をするんだろ?


 戸惑っているとマティさんの手が、オレの腕を掴む力を強くした。

 握り潰そうとしているかのように。


 その視線はオレではない人に向けられていた。

 顔はオレに向けられているが、視線はずれている。


 なにを見ているのか?

 何気ない動作のふりをして、その視線をオレは追った。

 なんかすごくきつそうな女性がいる。


 紫っぽい黒髪の四十代くらいの女性。

 見た感じ、マティさんの親族のようだ。

 タグによるとファミリーネームが同じオレィユなので、多分親族なのだろう。


 マティさんの脳裏で「持ってる武器はすべて使わないとダメ!」という罵声が轟いているのが、開いていないタグの、向こう側から聞こえてくる。

 相当に激しく叩き込まれたようだ。


 武器って、女の武器も含んでのことかい?!

 この世界では、商人ギルドほどの公的組織においても枕営業が「あり」なのか。

 ギルドで、ではなくオレィユ家では、というべきか。

 大変だぁ。

 オレにはうれしいサービスなのでいいが、マティさんにはつらいのかもしれない。


「では、いきましょうか?」

 内心を確認するところまでタグの深度を下げるつもりはない。

 推測だけして、頭を切り替える。


「え? ええ、そうですわね。参りましょう」

 救われた顔でマティさんが答え、歩き出した。


 タッルム行き、のタペストリーに進む。

 移動料は払い込み済みらしく、そのまま通された。




「っ!?」

 出た瞬間、耳を抑えた。

 すごい喧騒に包まれたからだ。

 タペストリーに入ると、数秒ほとんどすべての感覚がなくなる。


 その直後での喧騒はつらい。

 商人ギルド内に人があふれていた。

 移動のタペストリーが並ぶ壁に面した、ホールいっぱいに人がひしめいている。


「いつも、こんなに賑やかなんですか?」

 驚いて聞くと、マティさんは真っ青な顔で立ち尽くしていた。


「えっと、マティさん?」

 肩を軽くゆすってみる。


 ・・・・・・しん・・・・・・。

 その瞬間、音が消えた。


「え?」

 振り向くと、ギルド内のすべての人の目がオレに向けられていた。


「な、に・・・?」

 悪寒が背中を駆け上がった。

 人の波が押し寄せてくる。


 壁を! いや、逃げよう。ランダムジャンプだ!

 混乱しつつも、脳裏でエレフセリアの座標を打ち込んで、飛ぼうとした。

 そのとき。


「黙れ!」

 一喝した人がいる。


 途端に、波が止まった。

 ほっとして声の主を探すと、オレたちのすぐ後ろにいた。

 さっきの女性だ。


 マティさんのご親族であらせられるお姉様だ。

 何かすさまじい威圧感がある。


「失態ですよ。マティ」

 人波もオレも無視して、叱責を始めている。

 身内の問題は後にしてほしいのだが・・・。


「申し訳ありません。商人ギルドギルド長代理」

 マティさんが真っ青な顔で頭を下げた。


 ギルド長代理?

 そんなの書いてあったか?

 さっき確認したはずのタグをもう一度見る。


 『フリディア・オレィユ。市民。47歳。商人』


 うん。

 肩書がない。

 ないのでは仕方がない。


 深度を下げた。

 雑多な情報であふれるので必要なところだけを抜粋していく。


 『現商人ギルドギルド長ケファトリ・オレィユの娘。マティ・オレィユの母方の叔母。次期商人ギルドギルド長候補』


 なるほど。

 次のギルド長なのだ。


 で、現ギルド長の娘という立場もあって、代理の称号を冠されているということだ。

 正式なものではないので、タグの表層情報には載っていなかったと。

 影の支配者、といったところだろうか。


「取引先の秘密を、こうも簡単に広めてしまうとはなんたることですか!?」

 ああ、そういうことか。


 この騒ぎはオレが原因なのだ。

『異世界人』のオレが。


 訪問に先立って、相手方かここの商人ギルドにか、オレのことと訪問目的を知らせた。

 そのことが、他の人間にも伝わった結果がこの騒ぎ、と。

 『異世界人』御用達の店、というのはそんなに価値があるものなのだろうか?


「申し訳ありません。商人ギルドギルド長代理」

 マティさんは先ほどの言葉をそのまま繰り返した。

 反論も言い訳も許されず、ひたすら謝罪するしかない相手、なのだろう。


 オレの通っていた学校にもそういう教師がいたのでわかる。

 事情を聞いてくれれば、怒られる理由がないとわかってもらえるはずのことで一時間も正座させられたまま「すみませんでした」を繰り返したものだ。

 一時間ほどしてクラス担任の教師が様子を見に来て事情を聞いてくれたので解放されたのだが、「だったら最初っから言え!」と怒鳴られたのには本気で殺意が沸いた。

「テメェが聞かなかったんだろうが!」、と。


「あなたには姉の娘ということで、特に目をかけてきましたが失態が目に余ります。あなたにはギルドの仕事、向いていないのではなくて?」

 不愉快な教師のことはどうでもいい。

 たぶん二度と会うこともないのだし。

 だけど、マティさんに対するこの人のパワハラ発言は看過していいものかどうか。


 ・・・・・・うーん。

 フォローを入れてあげたいが、横から口出ししたところで一喝されて終わりのような気が、ひしひしとする。

 と、人波の後ろに、一人の男性が汗をだらだら流して立っているのが目に入った。


 血の気の失せた顔で・・・両手を合わせて拝むような様子すら見せている。

 あまりやりたくはないのだが・・・。

 相手が男なので罪悪感は低い。タグを展開していく。


「ああ」

 声が漏れた。

 この、男性はギルドの職員だ。

 そして、この騒ぎを広めた人物。


 オレのことを『異世界人』と吹聴したわけではなく、「バララト支部副支部長がとんでもなく重要な客を連れてくる。その客と取引ができれば大儲け間違いなしだ」と噂をばらまいて、人を集めた。

 この、叔母様に命じられて。


「姉の娘だから目をかけて」ではなく、「目の敵にしていた」が正しいようだ。

 とはいえ、オレにはタグでそれがわかるが、他の人間に伝える手立てはない。

 この場で事実を暴露したところで、否定されれば終わりだ。

 どうしたものか。


 言葉の応酬で勝てる相手ではないな。

 叔母様を見ながら、言葉で説得という選択肢は捨てた。


 あの教師と同じだ。

 そもそも、人の話が耳に入らない人間に何を言ったところで意味はない。


 助けを待つ?

 どんな奇跡を待つつもりだよ。

 この叔母様を黙らせるほどの人物がたまたま来る可能性は低い。低すぎる。


 マティさんをさらって逃げるか?

 ダメだろ。

 オレはいいが、マティさんの今後に致命的な傷を残すぞ。


 ・・・これしかないか。

 いくつか方策を考えてみて、消していったあとに残った唯一の結論。

 気の進まない、その一手。


 体の角度を少し変えて、オレの後ろに立ったままだったミーレスとシャラーラに視線を投げる。

 二人はすぐに気が付いて、オレの指示を待つ態勢になった。

 見た目は動いていないが、オレが何か指示すればすぐ動けるよう心の準備をしたのは目を見ればわかる。


『オレは倒れるが、仮病だから心配するな。なるべく、あのキツイ女性とは離れるようにしてくれ』

 伝声で指示を出して、オレは目を閉じた。


 自分の設定値に手を加えていく。

 脳への酸素供給量を一時的に、そう数秒だけ減らす。


 柔道の締め技とかで一瞬気を失う――落ちる――現象が起きる程度に。

 そして・・・意識が暗転する。



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