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異世界で家を買いました  作者: 葉月奈津・男
『恵』編
1/404

ミーレス 召喚

25/6/22。

ごちゃごちゃしていた文面を読みやすく。

ところどころ、に訂正を。

書き直しました。

 

 召喚


 うん、それ以外には考えられない。

 ほんのついさっきまで、オレは友人宅でマンガを読んでいたのだ。


 それなのに、暗転が起きたかと思うと、ここにいた。

 たぶん、自然石を加工した四角い石を積み上げて作られたのだろうと思われるドーム状の建物だと思う。


 思う、というのは暗すぎてよく見えないからだ。

 窓もないらしいこの建物の中央にある唯一の光源が、ドームの真ん中でまっすぐに立つロウソク一本という状況では、ほとんど何も見えないも同然だった。


 結構広いらしいのだ。

 ロウソクの明かりがかろうじて届いている程度の広さ、壁と天井がぼんやりと見える程度の灯り、これで何がわかるのかという話だ。


 まあ、実はわかりやすいものがロウソク以外にもあるにはある。

 ただ・・・。


「魔法陣かぁ・・・」

 そう、足元にあるのは六角形と、まったく意味の分からない楔形文字で形成された、ファンタジー好きでなくても一目でわかる図。

 それが床一面に描かれていて、なおかつ仄かに光っていた。


 ライトノベルか!

 思わずツッコんだ。

 っていうか・・・魔法陣で召喚っていまどき古すぎないか?


「でも、それがリアルだから!」

 どっかの芸人みたいに叫んでみる。


「びっくりした!?」

 おおっと、こっちのセリフだ、と言いたくなるが事実として先に叫んだのはオレなのでとりあえず謝っておこう。


「悪いな、翔平」

「いきなり叫ばないでくれよ、晴夏。死ぬかと思ったぞ」

 松野翔平。


 さっきまで居た友人の部屋、その主だ。

 で、遅まきながら自己紹介をするとオレは、川辺晴夏。

 女みたいな名前だが、男だ。


 両親も祖父母も、寄ってたかって女の子が生まれると思い込んでいて女の子の名前しか考えていなかったらしい。しかも、なにを考えていたのかオレ用の服やら小物に全部その名前を書き込んでいた。

 産まれてみて、男だと分かって失策に気が付いたが、あとの祭り。

 そのまま、オレの名前は晴夏で決まったのだそうな。


 8歳の時に自分の名前の由来について調べるという宿題があって確認しての答えがそれ。

 絶句した。

 ツッコミどころがありすぎて言葉も出なかったのだ。


 いまどき、産まれる何週間も前から性別は調べられるのに、医師から性別を聞きますかと問われるのに。

 完全にスルー。


 乳幼児の服に名前を書き込む理由があるか?

 施設に預けるわけでもないのに。

 どうせ家族が面倒みるだけなんだから、名前を書く必要はないし、書いたからと言ってそのとおりに名前を付けなくてはならないということはない。

 だというのに、「名前書いちゃっているし、はるかのままでいいよな」という親父の一言ではるかと名付けられたのだそうな。

 ただ、幸いなことに漢字で書かれていなかったからと、まるっきり女の子な遥香ではなく、男の子でもありかなーっと晴夏にしたという。


 なに考えてんだよ!

 いや、まて。

 ・・・こんな状況で思い出すのが自分の名前episodeか?


 冷静なつもりだが、実はかなり動揺しているらしい。

 魔法陣による異世界召喚なんて、ありふれた設定ではあるが、自分の身に降りかかるとさすがに受け入れるのは簡単ではないようだ。


「誰か来る」

 頭を抱えていると、翔平がぽつりと言った。

 確かに、足音がする。


 ギィッ!

 かすかに何かが軋る音がして、光が差し込んできた。


 窓はなくてもドアはあったらしい。

 暗すぎて気が付かなかったのだ。

 暗さに慣れた目では光の中が全部白く輝いてしまい、なにも見えない。


 だが、一応人の輪郭はかろうじて見えた。

 下半身が変に膨らんでいるのはスカートを穿いているからだろうか。

 女性?

 と思うが、決めつけてはならない。

 スェーデンだったかオランダだったかでは兵士の正装にスカートがあったはずだ。


 カタン・・・。

 なにかが落ちた音がした。

 そして、ようやく顔とかが見えるくらいに目が慣れてきていたというのに、人影は身を翻して駆け去っていった。

 何か叫んでいたようだが、よく聞き取れなかった。


「逃げた・・・なにしに来たんだろ?」

「たぶん、オレたちがいるのを見て驚いたんだろ。んで、誰かを呼びに行った」

 落ちた物を指し示す。


 ロウソクだ。

 ドーム中央で光源となっているロウソクと同じものだ。

 さっきの人物は、ロウソクが消えないように交換に来たのだろう。

 どこかの修験場と、とある教会には灯を絶やしてはならないとしてずっと続く似たしきたりがあったりするが、これもそういうものなのではないだろうか。

 魔法陣なんてものが常時あるような場所だし。


「ああ、そういうことか」

 説明してやると翔平も納得してくれた。


「どういう状況かな?」

「そうだなぁ・・・」

 聞かれて、ちょっと考えてみる。


「とりあえず、『切羽詰まって呼び出された』わけではなさそうだ」

 召喚魔法によるものなら、魔法陣の周りは疲れきった魔導師か神官といった人がいるはずだが見当たらない。


「オレたちが来ることは、期待されてはいないことで、予想もされていなかったみたいだしな」

 期待されていたのなら、オレたちが現れるのを待つ者が部屋にいるのが当然だろう。

 宗教的な理由とか『見ているヤカンの湯は沸かない』的な理屈で外にいるという可能性はあるが、さっきの人影の反応を見るとそういうことでもなさそうだ。


 予想していたら、驚いたにしても逃げたりはしないだろう。

 なにかしら手順が決められてあって、担当する人物に連絡するかたわら、もう少しマシな部屋に案内ぐらいするはずだと思う。


 だから、こちらの世界の人々にとっても突発的な出来事なのだろうと考えられる。

 お互い迷惑な話だ。


 そんなことを考えていると、明らかに神官か司祭などの聖職者。

 白い法衣に身を包んだ初老の男性が、扉の向こうに現れた。

 そうとう慌ててきたようで、息が切れ切れだ。


「ふ、二人?」

 しかも、なにやら激しく驚いている。


 いや、驚いているのはこちらもだ。

 深遠な意味があるのか、はたまた単なる偶然か。

 ガッツリ日本語が使われている。


「あー。二人だとなにか問題が?」

 なんであれ、会話が成立するのなら話も早い。

 気になったことはどんどん聞いていこう。


「勇者様が複数で御出になられた例はありませぬ」

 おおっと。

 なにやら聞いたことのある言葉が出ましたよ。

 やっぱり、そういう系のお話ですか。


「申し遅れました。わたくし、当教会の司教を勤めております、ラディンと申します」

「松野翔平」

「川辺晴夏 」

 簡単に自己紹介を済ませると、こんなところではなんなので、と移動することになった。

 移動しながら聞いたことによると、この世界は三層構造になっているそうだ。


 すなわち、『神国』、『人国』、『魔国』。

 人国を間に挟んで空の上に神のいる神国、地下深くに魔国がある構造だ。どういう理屈でそんな状態が維持できるのかと思ってしまうが、神が普通に存在している世界に物理法則を持ち出すのもナンセンスだろう。

 事実として受け入れる。

 異世界に転移している時点で、常識と非常識の垣根なんてないも同然だし。


 ただ、なんで三層になっているかの理由は説明してもらえた。

 ひどくまわりくどい表現を要約すると、もともとは一つの世界に神々と人間や他の生き物が住んでいたのが、ある時を境に分離したのだとか。


 で、ある時というのは神々の間に意見の対立が起きた時なのだという。

 その対立がなにによるものなのか、少なくとも人間たちには伝わって、残されて? いないそうだ。



 やがて、オレたちは会議室のような広い部屋に通された。

 中にはすでに三人の人間が待っていた。


 揃いの白い法衣、顔にも白いヴェールがかかっていて、年齢も性別も判然としない。

 長テーブルを横にして、向こう側に座っている。

 その人たちは、オレたちが部屋に入ると一斉に立ち上がった。


「あ、えと、どうも、よろしくお願いします」

 脊髄反射で頭を下げて、とりあえず翔平ともども自己紹介もしておく。

 法衣の人々――たぶん司教とか司祭とかいう人たちだろう――のほうから息を呑むような音がした。

 だが、それだけだ。

 無言のまま、オレたちが席に着くのを待っている。


 しかたがないので、とりあえず座った。

 クッションのない木の椅子、ひやりとした感触に気持ちが引き締まるような気がする。


「ようこそ、お出でくださいました」

 立ったときと同様、一斉に着席した司教だか司祭だかの中で真ん中にいるのが挨拶してきた。


「聖神教会教会長のエレアスと申します」

 かすかに震えを帯びた声は高齢の女性のもののようだ。

 顔を隠しているのはイスラム教のような戒律があるからだろうか。


「なににいたしましても、勇者様方の御光臨、お慶び申し上げます」

 さっきから口を開けば、このセリフ。

 自己紹介中もずっと言っていた。

 いくらなんでもしつこすぎる。

 それに・・・。


「オレたちが望んだわけではないけどね」

 口調に苦みを滲ませる。来たくて来たわけではないことは言っておいたほうがいい。

 だが、無意味だったようだ。


「存じております。神々が創りたる魔法陣が、無作為に異世界から人を喚ぶものであることは、広く知られておりますので」

 などと、サラッと流されてしまった。


「アンケートか!」

 思わずツッコんだ。

 自制がギリギリで利いたので口のなかだけだ。

 翔平にも聞こえたかどうか。

『無作為』。つまり誰彼かまわずってことだ。


「そ、そのかわり召喚された方には、勇者の資格と力が与えられることになっております」

 眉をひそめたオレが、不機嫌なことに気付いたのか、エレアスは言い分けがましく言い添えた。


 ああ、やっぱりそういう話か、と思った。

 王道パターン。

 ちょっとした脱力感でため息が出た。


「これを」

 教会長が促すと、彼女の左右に座っていた二人が、それぞれ銀色のカード状のものを差し出してくる。


「これは?」

 反射的に手を出しそうになった翔平に腕を横から水平に伸ばして止め、教会長に問いかけた。


「照魔鏡と呼ばれる魔法道具になります。持ち主の魔力に反応して、様々な情報を確認できる便利なものです」

 いわゆるマジックアイテムの類いであるらしい。


「かつてはもっと大きく重い鏡でしたが、今はカード状になりましたので持ち歩きが容易になりました。最近では金銭のやり取りも可能だとか聞き及びます」

 身分証とカードマネーを兼ねた便利アイテムというわけだ。

 確かに便利なのだろう。


「高いものなんじゃないですか?」

 そんな便利なものがタダとは限らない。

 なにせ仕組みが科学ではなく魔法だ。


「一般的な日用品です。まっさらなカードの発行は無料です。ただし、手持ちのカードを無くした場合の再発行には高額な手数料がかかるそうですが」

「再発行は可能なんだ? 盗まれたらどうなるんです?」

「持ち主の体に、カードの情報が魔力で保持されるので再発行は問題ないそうです。わたしには仕組みがわかりませんが、本人以外が使用することはできないそうですから盗まれるようなことは起こらないと思われます」

 自動バックアップ、生体認証システムでセキュリティも万全てことか。


 受け取ってもいい、受け取らないと始まらないもののようだ。

 翔平を止めていた腕を戻して受け取った。

 翔平もそうしている。


 手に持つと、銀色のカードは微かに輝いて金色になった。

 見ていると表面にさざなみが広がり、続いて文字が浮かび上がってくる。


 炙り出しかと思ってしまうが、文字はしっかりくっきりとしたものだ。

 おまけにやっぱり日本語だった。

 言葉ばかりか文字までも・・・と思ったが考え直す。

 見聞きしていると日本語だが、脳内変換されているだけで、本当は違うのかもしれない。

 カードに表示されたのは、


『ハルカ・カワベ。異世界人。十五歳。未定。不定。』

 だった。


 なにか四角くマスクされているような部分があったので、何気なく指でなぞったら¥0と出た。

 名前。種族。年齢。たぶん職種。居所。チャージされている金額。というところだろう。

 触っただけで入っている金額がわかるのを除けば、まんま身分証だ。


「痛いなぁ」

 自分のカードをまじまじ観察していると、翔平が何とも言えない微妙な声音で呟くのが聞こえてきた。


 指を切りでもしたのだろうか?

 そうではないらしい。


 カードの表面を口元に笑みを浮かべてじっと見ている。

 横から覗き込んでみて、理由がわかった。


『神に聖別されし者ショーヘイ・マツノ。十五歳。勇者。不定。』


「うわ・・・」

 思わず声が出た。

 確かに、これは痛い。


「行く先々で勇者を名乗らなきゃならないのか、大変だな」

 思わず笑ってしまった。他人事、と。


「オマエだってそうだろうが!」

 ムッとした顔で言い返してくるが、残念。

 オレは違う。


 ニタニタ笑いながらカードを突きだして見せた。

 カードを見詰める翔平の顔が、真顔になる。


「なんでだよ」

 魂が抜けたような顔で呻く。


「なんで、オマエが勇者じゃないんだよ?!」

 今度は叫びだした。


「お、おい。落ち着け」

 びっくりしながら抑えに入る。

 こんな反応は予想していなかった。


「だって、おかしいだろ?! 俺が勇者なら・・・オマエは英雄とかだろ?! なんだよ、未定って」

「はあ?! なんで?!」

 なんでオレが英雄なんだよ? ていうか、コイツ。

 自分よりもオレが上だと思っているのか?


「俺、俺は・・・俺は、オマエがいなかったら、なにもできねぇよ」

 いや、オレ、コイツのママじゃねぇし。

 なんでそうなる?

 とか思っていたら、急に震えだしてすらいる。

 なんか、マジらしい。


「いやいやいや。ちょっと待て。落ち着け」

 しかたないのでまずは落ち着かせる。


「オレのこと持ち上げすぎだろ。オマエ、オレより成績いいし、人付き合いもうまいじゃないか」

「全部、オマエのおかげだ。俺が一人でやれてたわけじゃねぇよ」

 んな、バカな。

 呆れてしまうが、翔平は本気でそう思っているらしい。


「えーと、うん。まずは深呼吸だ。やってみろ」

 言ってやると素直に実行した。


 大きく吐かせて、深く吸うよう促す。

 深呼吸というと吸うほうが重要だと思われがちだが、吐くほうを意識するのが正しい。

 ちゃんと息を吐きだせば、身体は放っておいても深く吸うものだ。

 何度か深呼吸を繰り返させる。



「落ち着いたか?」

 そろそろ頃合いだろう、と声を掛けた。

 翔平は前髪を払う仕草をやってみせ、フンと鼻を鳴らした。


「俺としたことが、いささか血迷った発言をしてしまった」

 誰が俺、だ。

 まったく、いいかげんにしてほしい。


「異世界に転移した、なんて体験をさせられたんだ。しかたないさ」

 一応、フォローは入れておく。


「失礼ですが。ハルカ様は勇者ではないのですか?」

 教会長が聞いてきた。


「そのようです」

 カードを見せてやる。

 翔平もだ。

 教会長が二枚のカードを見比べた。


「ありがとうございます」

 礼を言って、教会長はカードをしまうよう手で促してくる。

 オレたちは、とりあえずカードをポケットにしまい込んだ。

 なにかある、そんな雰囲気が漂っているのだ。


「申し訳ありません」

 教会長が突然頭を下げてきた。


「どうか、しましたか?」

 頭を下げたまま言いにくそうにしているので、言いやすいように水を向けてみた。


「勇者様には、すぐにでも帝都に行っていただかなくてはなりません。最高魔導師様直々に今後のことについてお話しがあります」

 ああ、なるほど。

 今のやり取りを見ていたら、そりゃ言いにくいだろうな。

 この先の展開が読めたオレは、教会長に同情した。


「オレは行けないわけだ?」

 教会長は静かに頷いた。


「帝都まではお連れできますが、帝宮には入れないかと」

 予想通り。


「だ、そうだ。ま、がんばれ」

 翔平の肩を叩いて、言ってやる。


「面倒くさそうだな」

 刹那、不安そうな目をしたものの、翔平は軽く肩をすくめて笑って見せた。

 普段の自分を取り戻せたようだ。

 これなら、大丈夫だろう。


 それにしても、帝都か。

 ということは、この国は皇帝がいる帝政国家だ。

 王政なら王都。民主制なら首都だからな。


「帝都には、いつ出発ですか?」

 明日の朝だろうか、それとも二、三日後か?

 こうしているうちに準備が進められていて、明日早くにかもしれない。


 そういえば、ここに案内してくれた男の姿がない。

 帝都までの距離がどれくらいあるのかわからないが、飛行機なんてないだろうから数ヵ月単位の旅程ということもあり得る。


「勇者様さえよろしければ、今すぐにでも」

 え?

 さすがに、この答えは予想外だ。

 しかし・・・。




「なるほど」

 会議室を出て、案内された場所に立ったところで、オレは自分の思考力のなさを痛感させられた。

 確かに、この世界に飛行機はなかった。

 必要ないのだ。

 何故なら。


「どこでも壁掛け、か」

 どこかで、パパラパッパパー、とお馴染みの音が鳴ったような気がする。


 石を積み重ねた壁に囲まれた小さな部屋は、一見してなにもない殺風景なものだった。

 とは言っても、なにもないわけでもない。


 奥の壁際、その左右に一対の置物がある。

 見た感じ、高さが一メートルほどの砂時計だ。

 8の字型のガラス容器を木枠が囲み、ガラス容器では淡いオレンジ色をした蛍光色の液体が上下動を緩やかに繰り返している。


 そこに運ばれてきたのが、魔法陣の描かれたタペストリーだ。

 正式名称『移動のタペストリー』。

 筒状に巻かれていたものが壁に掛けられ、ゆっくりとだが発光し始めた。


 世界と世界を繋ぐ転移魔法があるのだ。

 街と街を繋ぐ魔法陣も、そりゃあるだろう。

 重力を振りきって物を飛ばすよりも、空間をねじ曲げる方が効率もいいのだろう。

 飛ばすとなると何時間も重力と闘わなくてはならないが、空間をねじ曲げるのは長くても数分でいい。


 いちいち掛け直すのは防犯のためか?

 違うな。

 たぶん行き先ごとに魔法陣が異なるのだ。


「この向こうにはなにがあるのですか?」

 仕組みを聞き倒したい欲求に駈られるが、聞いたところで役には立つまい。

 かわりにごくごく日常的な質問を投げてみる。


「帝都の教会本部に繋がります」

 なるほど。

 本部と各地方支部を繋ぐものなのか。


「街から街へ移動するには、全て教会を通すことになるのですか?」

 もしそうなら、教会はそうとうな権力組織なのではないだろうか。


「そうではありません。一般的には商人ギルドを通るのが普通です」

 違うらしい。

 それにしても、やはりギルドがあるのか。


「ですが、街によっては商人ギルドがない街もあります。行き先と目的、その人の立場で使うルートは変わることになります」

 商人ギルドがない街がある。


 なぜ? と思ったが、すぐに気付いた。

 中世くらいの文化水準では、地方には自給自足の街もあるだろう。

 買い付けるような特産がなく主に物々交換で成り立っているような街では、商人ギルドをつくる意味も旨味もないということだ。

 他にも、宗教的には聖地で重要な教会があるが、街と呼べるほど人が住んでいない街。

 軍事拠点で人が大勢いるが、街ではないとか。

 そういう場合は教会ルート、軍隊ルートを使うことになる。


「なるほど」

 準備が整い。

 移動が始まった。

 タペストリーに向かって歩くだけだ。


 一瞬、辺りが暗くなり、音も消える。

 そして、すぐに復帰する。



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