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5・森にいます


 町の外れ、白いレンガの道が木々の間に続いている。


周りに民家が無いため、街灯も他家の明かりもない。


ワルワさんの家に着く頃には辺りは真っ暗になっていた。


「それじゃあ、また連絡するからの」


家に着くと、ワルワさんは何か札のような物を護衛たちに渡していた。


「はい。 ではまた」


護衛たちの契約はここまでらしく、町中へと戻って行く。


その時、バムくんが、


「オラ、家がここから近いんで何かあったらすぐ駆け付けやす」


と、こっそり耳打ちして行った。


ふむ。 出来ればそんなことがないよう祈るよ。




 とにかく家の中に入る。


外壁が厚いのか、玄関は扉が二重になっていた。


「疲れたじゃろ。 早く寝たほうが良い」


短い廊下の奥、こじんまりとした室内は柱や壁は木で、ガラスが嵌まった小さな窓がいくつかある。


テーブルや椅子も木製で質素だが丈夫そう。


俺はとりあえず必要最低限のことだけを訊く。


「こっちが台所、水はここを押せば出るぞ。


あの扉は勝手口で外に出られる。


御手洗いはこっち。


空き部屋は三階じゃ」


ワルワさんの自室は二階らしい。


詳しい説明は明日にして、すぐ部屋へと案内された。




 六畳ほどの部屋にカーテンの無い小さな窓が二つ。


勉強用らしい机と椅子。 空っぽの本棚と腰ぐらいの高さのタンス。


ベッドに暖かそうな寝具が置いてあるのを見ると、早くダイブして眠りたくなった。


「まあ待て。 ほれ」


ワルワさんが口の中でブツブツと何か呟くと、俺の周りにフワッと風が起き、優しい匂いに包まれた。 


清潔になる魔法を使ってくれたんだと分かる。


「あ、ありがとうございます」


さっきの食堂に入る前にも一度、服の汚れをキレイにしてもらったけど、今回は風呂に入ったように髪や肌がサッパリした。


「この部屋はお前さんに貸すゆえ、中にあるものは自由に使いなされ。


あのタンスにある服は寝巻き代わりにでもするといい」


「はい、助かります」


「では」とワルワさんが部屋を出て行くと、俺はさっそくベッドに寝転ぶ。


あ、明かりをどうやって消すのか聞き忘れた、と思っているうちに意識が遠くなる。




 目が醒めると……すでに外が明るい。


部屋を見回すと、窓の隙間から日光が差し込んでいる。


窓ガラスの外側に木の雨戸のようなものがあり、カーテンの代わりに日差しを遮っていた。


内側の窓を手前に開き、木の扉を外に向かって開くと顔を突き出して周りを見る。


ここは森の中のようで、周辺に民家は見当たらない。


「眩しい」


鳥の声、葉ずれの騒めき、そして美味しそうな匂いが飛び込んで来た。




「起きたか、サナリくん。 もう昼だぞ」


ワルワさんの笑い声が窓の下から聞こえた。


顔を下に向けると真下に一階の窓があり、そこがちょうど台所のようだった。


「え?、昼って。 すみません、寝坊だ!」


俺は慌てて一階に向かう。


 居間というか、一階には一部屋しかない。


調理台に食卓、暖炉の前にはふかふかのソファと低いテーブルもある広い部屋だ。


「がはは、気にしなくていいぞ。 もっとゆっくり寝てても良いくらいだ。


昨日は大変じゃったしな」


「あー、あはは」


釣られて俺も笑うが、今日からしばらく世話になる予定だから、そういうわけにはいかない。


何か手伝わないと。




「そう慌てなさんな。 まずは腹ごしらえじゃ」


「はい」


ナンのように薄くて丸いパンが皿に乗っている。


あとはミルクにお茶、ハチミツかな?。 


甘い匂いのジャムは果物が形を残している。


薄く切ったハムと干し魚。


何だかチグハグな食事だけど、もしかしたら俺のせいかな。


何が食べられるか分からないから、とりあえず全部用意したって感じだ。


何だか申し訳ない。


「いただきます」


俺は両手を合わせてからパンを手に取る。


ワルワさんは微笑みながら俺の様子を見ていた。


 俺は食材や作り方を聞きながら食べる。


ミルクも俺を助けてくれた親子の牧場から届くそうだ。


家畜の名前を聞いたけど、牛なのか山羊なのかは判別出来ない。


でも味は濃い牛乳っぽいな。


これなら飲める。


知ってる味で安心した。


あの親子にもいつかお礼に行きたいな。




 食後は二人で家の外に出る。


「ここは町の外れで森の入り口にあるんじゃ。


狩りや隣の国へ行く者は大抵、この先にある街道を通る」

 

俺が目覚めた草原は町の反対側になるそうで、あっちは牧場や畑が広がっていて、そこそこ民家もあるらしい。


「運が良かったな。 もしサナリくんが目覚めたのがこの森だったら、獣や魔獣に襲われておったぞ」


この世界は空気中に魔力の元になる魔素というものがあって、それが濃い場所には魔獣や凶暴な獣が棲んでいるという。


「へ?。


だったら、ワルワさんは何故、そんな危険な場所に住んでるんですか」


「ワシは魔法の研究をしておる。


そのため、森の狩人たちから魔獣を買い取ったり、新しい魔法の実験をしたりするのでな。


近くに人が住んでいないほうが都合が良いのじゃ」


ワルワさんは、研究のために長年この町に滞在している高名な学者らしい。


なるほどな。


でも危ないことに変わりない。




「まあ対策は色々としておるよ。 見てごらん」


そう言って家を振り返る。


「うわっ」


改めて見るとワルワさんの家は、民家というより小さな砦。


四階建てで屋上からは遠くを監視したり、弓矢で攻撃したりも出来るそうだ。


「家の内側は木造じゃが、外壁は頑丈な石造りになっておる。


壁が厚いのは魔法や魔道具を色々と仕込んであるからじゃ」


外壁と内壁の間に空間があり、木造の家と石造りの塀で二重になっている感じらしい。


「この町の建物には、みな地下室があってな。


魔獣が森から溢れ出そうになると警報が鳴る。


そうしたら、自宅の地下室に避難することになっておるんじゃ」   


この家にも実験場を兼ねた広い地下室があるそうで。


へぇ、シェルターか。


俺は、ワルワさんをはじめ、この町の住民は逞しいなと思った。



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