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3・領主館にいます


 翌朝、昨日のワルワさんがやって来て、


「とりあえず、ご領主に挨拶をせねばならん」


と言うので、一緒に領主館に向かうことになった。


服は、俺がここに来た時に着ていたものを返してくれたのでそれを着る。


きちんと洗濯されていたようだ。


下着やハンカチまで洗われている。


 担ぎ込まれた時、すぐに洗浄の魔法を掛けたと聞いた。


だけど、まあ、念には念を入れたいのだろう。


領主様に会うことになった俺は、お湯を張った大きな桶に入らされ、石鹸は無かったけど布でゴシゴシと身体を洗われた。


これがこの町では庶民の風呂ということになるのかな。


で、最後にお婆さんが俺に向かって何か呟いて、俺の身体全体がふんわりと暖かくなり、髪が乾く。


これは気持ち良い、クセになりそう。




 そして俺は、ワルワさんと昨日と同じ三人の護衛と一緒に救護院を出る。


窓から見る景色とは違う、生の町の息づかい。


匂いが違う、行き交う人の顔や服装が違う。


言葉は分かるのに内容までは分からない。


改めて知らない所に来たんだと実感する。


そんなことをぼんやり考えながら、俺はただ着いて行く。


「ここじゃよ」


小さな町にしては大きな建物だった。


領主の館なんだから当たり前か。




 玄関近くの殺風景な部屋で待たされる。


だよなあ。


得体の知れない相手との対面だし警戒されても仕方ないと思う。


俺はワルワさんと二人で長椅子に座り、その後ろに三人の護衛が並んでいる。


 しばらくして、ワルワさんと同じくらいの年齢で細身の男性が入って来た。


きっちりとした服を着ていて、秘書とか事務員っぽい感じの青年を連れている。


立ち上がって挨拶しようとしたが、背後から強い力で肩を押さえられた。


不用意に動くな、という感じ。


「ようこそ、旅の方?、で良いのかな」


なんとなくだけど、この男性はワルワさんに気を使っていると感じた。


俺もワルワさんを見る。


もしかしてこのお爺さんって偉い人?。


「ワシが見たところ、かなり遠い所から来られた方のようじゃ。


この町も、この国のことも何も知らないらしい」


「ふむ」


ワルワさんの説明を聞きながら、向かいに座った男性がジロジロと俺を観察する。




 俺は元いた世界でも国の外に出たことはなかったから、他国の人間を見ても物珍しく見てるだけだった。


自分がそんな立場になるなんて思ってもみなかった。


分かってるさ。


俺は客なんかじゃなく、どちらかといえば身元不明の浮浪者に近い。


救護院のお婆さんが優しくしてくれたからって、この町の皆が俺を歓迎してるわけじゃないんだって。


「それを証明するのがこれじゃ」


ワルワさんが何かを渡していた。


あ、あれ、俺がバムくんに書いてもらってた紙じゃないか。


俺は思わず後ろを振り返った。


バムくんがエヘッと笑う。


いや、彼が悪いわけじゃない。


だって彼は「自分では分からないから誰かに訊いてみる」と言っていた。


それがワルワさんだっただけだ。


そしてワルワさんは、相手が俺をやはり不審者としか見ていないと分かったから、俺が何も知らないのだという証明にそれを使ったんだ。




 じっとその紙を見ていた男性が手元から顔を上げて俺を見た。


「良いでしょう。 旦那様にご都合を伺ってまいります」


あれ、この人が領主様じゃないのか。


男性が立ち去り、俺たちは部屋に残される。


 俺は小さな声でワルワさんに訊ねた。


「あのお、あの人は領主様ではない?」


「ああ。 ありゃあ家令、使用人頭じゃな」


つまり、使用人の中で一番偉い人ってことか。


なるほど。


それなら俺に対して厳しそうなのは納得かな。


危険なモノを領主様に会わせる訳にはいかないもんね。


だけど、あの質問用の紙、返してくれなかったなあ。




 どれだけ待たされたのか、だいぶ経ってから案内されたのは、さっきとは違う豪華な広い部屋だった。


品の良い調度品、大きな窓にはガラス、そして白くて薄い布のカーテン。


壁にも天井にも高級そうな模様が描かれていた。


「はー」


思わずため息が出る。


「どうぞ、こちらにお座りください」


いつの間にか現れた家令の老人が俺に対して丁寧に指示する。


俺は、さっきとは雲泥の差の扱いに戸惑いながら、勧められた椅子に座った。


高級なビロードみたいな手触り。


フカフカである。




 キョロキョロしていたら扉が開き、


「お待たせいたしました」


と、若い女性の声がした。


ワルワさんの護衛たちがビシッと整列し、ピタリと動きを止める。


俺とワルワさんも立ち上がり、軽く腰を曲げて礼をとった。


「領主の娘でケイトリンと申します。


申し訳ございませんが父は今、出掛けておりますの」


あれ?。


家令さんはそんなこと言ってなかったのに。


 まだ若い、女性というより少女に近い。


何故、娘が出て来たのかと俺が首を傾げると「コホン」と、家令の爺さんに睨まれる。


あー、はいはい。 余計な動きはしないよ。


 お嬢さんが向かいの席に座り、立ち上がっていた俺たちも座り直す。


メイドさんらしき女性たちが二人でお茶とお菓子を並べると出て行った。




 このお茶は飲んでも良いんだろうか。


隣でワルワさんがズズッとお茶を啜り、大丈夫だと目配せしてきた。


一口飲んでみる。


「ん?、これ番茶っぽいなあ」


救護院で飲んだ緑茶ではなく、茶色だったから紅茶かと思ったけど違った。


 紅茶も緑茶も同じ茶葉から作ると聞いたことがある。


違いは発酵というか、加工の仕方だったはず。


緑茶の茶葉が固くなったものを煮ると茶色のお茶になる。

 

地域によってはそれを番茶という。


ここではどういう扱いなのか分からないけど、一般的には緑茶より安いものだ。


それが出てくるってことはつまり、俺は歓迎されてないってことだろ。



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