第82話「集結」
如月さんの通う、東高の校門前に到着した。
校門のところには、大きく『第33回 東高祭』という看板が掲げられており、それだけでも既にお祭り感満載といった感じだった。
「よし、じゃあ入ろうか。――みんな、とりあえず俺から離れないようにね」
いざこうして文化祭へやってくると、やっぱり不安になる。
既に周囲の視線は三人に集まっており、一体どっちが出し物か分からないといった状況だ。
とりあえず、ここで誰か一人でもはぐれたら絶対に危ないだろうという危機感を抱きつつ、俺は改めて三人にそう忠告しておく。
「離れないっての」
「じゃ、じゃあ良太さんの、と、隣いいでしょうか……?」
「ええ、大丈夫ですよ」
すると三人とも、二つ返事で従ってくれる。
楓花はしつこいなという感じで返事をし、星野さんは俺の服の裾を掴む。
そして柊さんも、一歩俺に近付くと、嬉しそうに微笑みかけてくるのであった。
そんな状況に、一瞬にして俺の心拍数が上がってしまいつつも、ここまで来て引き返すわけにもいかないため東高の中へと入ることにした。
「入場券を確認させてくだ――えぇ!?」
受付の女子生徒が、三人の姿を見て驚きの声をあげる。
三人のことを交互に見ながら、口元に手を当てて絶句する。
そしてその反応はすぐに周囲へ伝染し、受付係と思われるそこに居合わせた人達全員が驚くのであった――。
それも無理はなく、相手はこの町の四大美女と呼ばれる圧倒的な美少女達。
普通に生活をしていて見ることなどない彼女達の姿に、全員視線を釘付けにさせられてしまっているのであった。
そんなわけで、案の定ここへ来てから注目を浴びてしまったため、俺達は急いで入場手続きを済ませて立ち去ることにした。
◇
「え!? ひ、柊さん!?」
「星野さん!?」
「か、か、風見さん!?」
文化祭で賑わった廊下を歩く。
しかし、どこへ行っても注目を浴びる三人。
すれ違い様に、恐らく彼女達と同じ中学だった人達が、同じような反応を見せながら驚く。
そして、他にも二人の四大美女がいることに気付き、更に驚くところまでがセットだった。
そんな状況はさながら、アイドルが現れた時のようだった。
いや、アイドルと違い、彼女達は純粋にその容姿のみで注目を集めているわけだから、アイドル以上の注目度と言えるだろう――。
「あ、いた。こっちです」
そんな俺達に向かって、唯一平然と声をかけてくる女性が一人――如月さんだった。
聞いていた一年Cクラスの方へやってきたのだが、恐らく俺達が分かりやすいように外で待っていてくれた如月さん。
おかげで、如月さんの周りには軽い人だかりが出来ており分かりやすかった。
こうして、この高校で初めてそろった四大美女。
その姿に、居合わせた人は全員驚きを隠せない様子だった。
「よ、四大美女が揃っている!?」
「で、でもやはり、我らが愛華様の方が――」
「言い切れるか?」
「いや、もう分からん! 何が起きているんだ!?」
そんな、謎の話し合いまで聞こえてくる。
そして注目は、四大美女だけでなく当然俺にも向けられる。
コソコソと、あれが噂のエンペラーじゃないかと聞こえてくることから、物凄い居辛さを感じてしまう……。
「こっちへどうぞ」
それを察してくれたのか、如月さんはすぐに自分のクラスの喫茶店へと誘ってくれた。
店内は開店まもなく、また入場制限を設けていることから落ち着いていた。
しかし、教室内にいる人達も四大美女を前に驚いてしまっているのは、最早言うまでもないだろう。
とりあえず、案内してくれた席へと座る。
そしてすぐに、接客の仕事へ向かった如月さんの背中を俺は目で追った。
――なんていうか、今日の如月さんいつもと違うな……。
まず違うのが、如月さんは今回の喫茶店のために和服を着ている。
如月さんのその特徴的な銀髪に、赤みがかった綺麗な瞳。
そんな日本人離れした容姿は、意外と和服がしっくりくるほど似合っている。
そのせいもあって、さっきはあれほど周囲に人だかりが出来てしまっていたぐらいに。
でも、原因はそれだけでなかった。
何故なら、今日の如月さんはお化粧をしているからだ。
元々整った、お化粧など不要と思われるそのご尊顔。
しかし、それでもお化粧を施すことにより、その美しさは更に増していた――。
最初見たときに、俺は声にこそ出さなかったが、その美しさに驚いてしまったのは言うまでもない。
そんな美少女に、今日はこうしてこの文化祭にお呼ばれしているのだと思うだけでも、つい舞い上がってしまうほどに――。
「これ、メニューです」
トタトタと駆け寄ってきた如月さんが、喫茶店のメニューを見せてくれる。
それはいかにも文化祭らしい、手書きの簡単なメニュー表だった。
それでも、こうして文化祭で提供する側に回るのがきっと楽しいのだろう。
如月さんは、その美しい顔を俺の方に向けながら、それは良い表情でニコニコと微笑んでくれていた。
普段は無表情なことが多い如月さんだけに、そうして微笑んでいる表情はギャップというか、より見惚れてしまうような魅力に溢れている。
その証拠に、同じく教室に居合わせた人達は、そんな如月さんの姿にぼーっと見惚れてしまっているのが分かった。
店員さんもお客さんも、みんな如月さんの微笑みに釘付けになっている。
そんな、微笑むだけでこの場の中心となる如月さんに注文を伝えると、如月さんは嬉しそうにまたトタトタと、厨房の方へ向かっていくのであった。




