第62話「ババ抜き」
あと片付けを終え、すっかり日も暮れた頃。
昼から続いたBBQですっかり胃が満たされた俺達は、とりあえずみんなでリビングに集まってトランプを楽しむことにした。
ちなみに柊さんのお母さんはというと、少し眠ったらすぐに完全復活して、一人作業があるとのことで自室へ籠ってしまっている。
なので、残された四大美女の四人プラス俺の五人で、ババ抜きをすることとなった。
「せっかくですから、罰ゲームも決めませんか?」
カードを配りながら、楽しそうに柊さんがそんな提案をしてくる
「罰ゲームって、何するの?」
「んー、そうですね。――では、ビリの方が一番の方の言うことを一つ聞くっていうのはどうでしょう?」
「賛成」
「異議なし」
「や、やりましょう!」
微笑む柊さんの提案に、何故か他の三人は即答で賛成する。
全員、自分が負けることなんて微塵も考えていないのだろうか。
まさか四人がこんなにもギャンブラーだったとは思わず、少し驚いたが断る理由も無いため賛成しておいた。
こうして、罰ゲームをかけたババ抜き対決がスタートするのであった。
◇
順番をジャンケンで決めた結果、楓花、柊さん、星野さん、俺、如月さんの順で引いていくこととなった。
みんな勝ちたい気持ちが強いようで、一枚一枚引くのに気合いが入っててちょっと面白かった。
そんな意外と負けん気の強い四人に囲まれながらも、俺は気楽な気持ちで星野さんからカードを引いていく。
すると、カードを引く度に揃っていくため、俺の手札はどんどん減っていく。
こういうのは、意外と無欲な人程上手く行ったりするものなのだ。
「うう、良太さんが引く度に減っていきます……」
「ちょっと! もう少し頑張りなさいよ!」
そんな状況に弱音を吐く星野さんに、敵ながら激を飛ばす楓花。
そして残りの二人も、楓花の意見にうんうんと頷いていた。
――どうやらこいつら、とりあえず俺にはあがらせたくないみたいだな。
だったら俺は、この勝負尚更負けるわけにはいかなかった。
ここは何としても一番であがって、お返しに四人の内誰かに恥ずかしいことでもやって貰おうじゃないかと企んだ俺は、ここから集中することにした。
そして、ついに俺の手札が残り一枚となる。
俺の次に数が少ないのが柊さんの三枚だから、未だ結構余裕がある状態でのリーチとなった。
「良太くん、今何のカード持ってるの?」
「は? 言うわけないだろ」
「――大人げないわ」
俺の手札を聞き出そうとする楓花に、大人げない認定してくる如月さん。
全くもって理不尽な話だが、そんなものは一旦置いておいて、俺はこの勝負に勝つことだけを考える。
そして、俺の番が回ってくる。
星野さんの手札は残り五枚で、もしかしたらこれが最後の一回になるかもしれないため、その五枚の上にゆっくりと手を動かしながら星野さんの反応を窺う。
すると、左から二枚目の上に手を持っていくと、星野さんは露骨に嬉しそうな反応を見せる。
そしてそのまま隣のカードへ手を動かすと、これまた露骨に残念そうな顔をするのであった。
――駄目だこの子、素直すぎる……!
そんな、漫画のように分かりやすい星野さんに憐れみを感じつつも、俺は負けるわけにはいかないため一番右のカードを引いた。
「……マジかよ、上がりだ」
すると、そのカードは俺の手持ちのカードと同じ数字だったため、まさかのストレートで上がることが出来たのであった。
「不正だ!」
「不正」
「あらまぁ」
「ふえぇ」
見事上がった俺に対して、四人それぞれ違った反応を見せる。
しかし、何を言われても俺は不正なんかしていないし、上がりは上がりだ。
だから俺は、そんな敗者の四人に向かって、もっとゲームを面白くするため一言予告ことにした。
「――さーて、あとはとびきりの罰ゲーム考えとかないとな」
我ながら嫌らしく微笑みながら、四人に予告する。
すると四人は、怯えるように顔色を変えてババ抜きへと戻る。
是が非でも自分がビリになるものかと、四人ともそれは分かりやすく焦っている様子を、俺は楽しく眺めながら戦況を見守る。
しかし、ババ抜きが進むに連れて、やっぱり分かりやすさが弱点となる星野さん。
無表情な如月さんが、憐みの笑みを浮かべながら星野さんからカードを引くと、俺の次に上がり、その次に柊さんが続いた。
つまり、最後は星野さんと楓花の一騎打ちとなった。
楓花は最後の一枚で、星野さんは残り二枚。
つまり、ジョーカー含め残り一組までもつれ込んだこの戦いも、次の楓花の引き次第で勝負が決まる。
楓花が左のカードにそっと手を伸ばすと、星野さんは難しい表情を浮かべる。
そして次に、楓花がそっと右のカードへ手を動かすと、若干口角が上がる星野さん。
「フッフッフ、この勝負貰ったぁ!!」
そんな星野さんの変化を見逃さなかった楓花は、そう言って左のカードを引き抜いた。
「ああ!!」
そして星野さんは悲しみの声を上げると共に、項垂れてしまう。
「ってことで、星野さんの負けね!」
「うぅ……、罰ゲームは何でしょう……」
すっかり落胆してしまった星野さんは、力なく罰ゲームは何かと聞いてくる。
そんな、負けるべくして負けた星野さんを見ていると、さすがに可愛そうになってきてしまった俺は、あまりに不憫だし罰ゲームのハードルを下げてあげることにした。
「んー、じゃあ肩でも揉んで貰おうかな?」
「え?」
「肩揉み、宜しくね」
俺がそう罰ゲームを告げると、自分の肩をトントンと叩いて見せる。
すると星野さんは、キョトンとした表情を浮かべる。
その想定と違うリアクションに戸惑っていると、ようやく言われたことを理解したのか、星野さんは何故か嬉しそうな笑みを浮かべるのであった。
「そ、そんなのでいいんですか?」
「いいよ、宜しくね」
「むしろこれって――いえ、では失礼しますっ!」
こうして俺は、それからみっちり星野さんに肩を揉んで貰った。
超絶美少女に、やたら丁寧に肩を揉んで貰うという特別なご褒美を、しっかりと味わうことが出来たのであった。
「良太さーん、どこか凝ってるところはありませんかー?」
「んー、じゃあもう少し右肩の付け根の辺りを」
「うふふ、はい! 喜んでっ♪」
「あー、そこそこ! 気持ちいい~」
罰ゲームだというのに、心なしか嬉しそうに肩を揉んでくれる星野さん。
根が良い星野さんは、これが罰ゲームだということを忘れてしまっているみたいだった。
それにしても、もしこうして星野さんに肩を揉ませていることが学校のみんなに知られでもしたら、それは絶対に不味いことになるに違いないだろうな。
それぐらい、これは特別なことなのだ。
肩に触れる星野さんの手の感触を意識するだけで、俺は内心ドキドキさせられっぱなしなのであった。
しかし謎なのが、残りの三人が何故かちょっと不満そうに、肩を揉まれる俺のことを見てくるのであった。
――まぁ、星野さんに肩を揉まれてるんだから当然か。
そんな誰しもが羨むこの状況を、俺は殿様感覚でたんまりと堪能させて貰ったのであった。




