第61話「一番は」
時計を見ると、早いものでもう十四時半を回っていた。
昼過ぎからBBQを楽しんでいる俺達は、色々食べては会話を楽しみながら一緒の時間を過ごしている。
BBQとはやはり偉大で、開放的な空間で一緒に同じものを食べているせいか、いつもの喫茶店以上にリラックスした状態で交流を深めることが出来ており、全員以前より打ち解けているように思えるのはきっと気のせいではないだろう。
まぁ元々四人は同じ高校一年生で、しかも四大美女なんて呼ばれている同じ境遇を背負った仲なのだから尚更なのだろう。
普段休日は干物している楓花でさえも、今日は楽しそうに普通の女子高生のように振舞っているのだ、そんな四人の仲睦まじい様子に俺は満足しながら、やっぱりBBQは偉大だなと一人感心しつつ残った肉をモグモグと食すのであった。
「みんな良い子ね。それに全員、麗華に負けないぐらい可愛いわね」
「あはは、そうかもしれないですね」
「うふふ、それで良太くんは、この中でどの子が好みなの?」
一人少し離れたところに座っていると、隣に柊さんのお母さんがやってきた。
そして楽しむ四人を一緒に眺めながら、一人昼からワインを嗜んでいたお母さんは大分踏み込んだことを聞いてくる。
もう二時間以上お酒を飲んでいるため、頬は薄っすらと赤く染まり、既に酔っぱらっている様子だった。
すると、こちらの会話が聞こえたのだろうか、さっきまで楽しそうに談笑していた四人が、全員同時にクワッとこちらを振り返る。
「こ、好みってそんな……」
「あらぁ? 年頃の男の子なんですもの。こんなに可愛い子が揃っていたら、気になる子の一人や二人――いいえ、三人や四人――いえいえ、全員気になったりするんじゃないかしら?」
「そ、それは――」
それは、その通りと言えばその通りだし、違うと言えば違った。
これには俺の考えとか気持ちが多分に含まれるから、口外はしたくないところだ。
それにきっと、どっちを答えてもこの会話に聞き耳を立てている四人に聞かれたら気まずいのは確かだ。
だから困った俺は、この場凌ぎの必殺技を繰り出すことにした――。
「そりゃもちろん、みんな可愛らしいですけどね。――でも僕、年上も割と好きなんですよ。だから、今ここで強いて言うのであれば、僕はお母さんみたいな大人な女性が良いなって思いますよ」
「あら? あらあらまぁまぁ! やだもう、可愛らしいわね息子にしたいわ!」
必殺、リップサービス――。
まぁただ、これは本当にお母さんは柊さんに似て物凄い美人なため、あながちというか、全くもって嘘でも無いのだが……。
そんな俺の回答に、酔ったお母さんは満足そうに喜んでくれた。
そして聞き耳を立てていた四人はというと、四人それぞれ何とも言えない反応を見せていたのだが、俺は敢えてそれには触れないでおくことにした。
ちなみに、それから俺は酔ったお母さんの相手をずっとさせられた。
でも、大人の女性に時折り頭を撫でられたりするのは悪い気はしないし、唯一歳も性別も違う俺は、こうしていることで四人の邪魔をしないで済むから丁度良かった。
そう、これはあくまで四人のためなのであって、私利私欲ではないのだ。
そんな状況に、柊さんはごめんなさいねと言いつつも、実の母親に絡まれる俺を見て楽しんでいる様子だった。
そして星野さんと如月さんも、酔っ払いに絡まれる俺を見てクスクスと笑ってくれていた。
そして最後に楓花はというと、四人で一緒にテーブルを囲いながらも、やっぱり一人だけ不満そうに眼を細めながら、俺のことをじっと睨んでくるのであった――。
◇
そして夕方、もう流石にお腹いっぱいになった俺達は、暗くなる前にそろそろあと片付けをすることにした。
ちなみにお母さんは、よっぽど俺を気に入ってくれたのかそれからもお酒が進み、結果一人お先にソファーでスヤスヤ眠りについてしまっている。
それでも、俺達のためにこんなにも食材を用意してくれた上、ここまで運転もしてくれたのだ。
だからこそ、お母さんも楽しんでくれたようなので良かったし、片付けは自分達だけで済ませることにした。
こうして、柊さん主導のもと、俺達は手分けをしてあと片付けを進めて行くのであった。
あと片付けでも、勿論火の周りは俺の仕事となる。
とは言っても、もうほとんど灰になってしまった炭を火消し壺へ移すだけの、簡単なお仕事なのだけれど。
柊さんと星野さんは二人仲良く洗い物をし、それから如月さんは残った食材を綺麗に取りまとめて冷蔵庫へ閉まったりしていた。
その結果、やはり一人残った楓花さんはというと、やっぱりせっせと炭を移す俺の横に突っ立っていた。
そしてまた不満そうな表情を浮かべながら、俺に向かって疑うような視線をじーっと向けてくるのであった。
「――良太くん、年上好きなの?」
「ん? ああ、さっきのお母さんのやつ? まぁそうだな、いいよな」
もう忘れかけていたネタをぶり返してくる楓花。
だから俺は、素直にそうだと答えた。
正直綺麗な人にされる頭なでなでは、中々に良いものだった。
「ふーん、そう」
「何だよ、今日ずっと不満そうにしやがって」
「別にそんなことないし」
「あるだろ」
「ないし」
「まぁ何でもいいけど、お前も仕事しろ。そこのテーブル拭くとかやることあるだろ」
「言われなくても分かってるし!」
何故か逆ギレした楓花は、そう言って布巾を手にすると、水で絞りに洗面台の方へと向かう。
あいつが何をそんなにツンツンしているのかは謎だが、せっかくのBBQなのに勿体ないなという気持ちになってくる。
――もしかしたら、あまり構ってやれてないから拗ねてるのかもな……。
そう思った俺は、せっかく今日はこうして遥々別荘まで遊びに来ていることだし、仕方ないからもう少し構ってやることにした。
「炭の処理終わったから、俺も手伝うよ」
「な、なによいきなり」
すぐに炭の片づけを終えた俺は、余っていた布巾を片手に急いで楓花のあとを追って洗面台へとやってきた。
そして楓花の隣で一緒に布巾を絞りながら話しかける。
「楓花、楽しんでるか?」
「た、楽しいよ? みんなといるのは好きだし」
「そうか、なら良かった」
恥ずかしそうにしながらも、素直に楽しいと答える楓花。
それが何だか嬉しくなった俺は、楓花の頭を優しく撫でてやる。
「ちょ、手! 濡れてるじゃん!」
「あー、すまん。駄目だったか?」
「――だ、駄目ってわけじゃ、ないけど……」
文句を言う楓花だが、その表情はちょっと嬉しそうにしていた。
本当に分かりやすい奴だなと思いつつも、やっぱりこんなでも俺にとってはたった一人の大切で可愛い妹なのである。
「…………やっと、構ってくれた」
そして、そんな言葉をぽつりと呟く楓花――。
やはり楓花は、ちょっぴり寂しがっていたのかもしれないな。
ほんのりと頬を赤らめながら、嬉しそうに微笑む楓花のその横顔。
それは付けられた二つ名のとおり、たしかに天使のように可愛らしく見えるのであった――。
そんな楓花はというと、それから俺が布巾を絞り終えるまでの間、俺のTシャツの裾を指でちょこんと摘まみながら隣にくっ付いて離れないのであった。
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