第59話「到着」
目的地の別荘は、車で二時間ちょっとかかる距離にあるらしい。
そのため俺達は、これから別荘へ着くまでこうして車に揺られ続けなければならない。
四大美女と同じ車内に男子は俺一人だけ、そんな浮世離れした空間に混ぜられている俺は、少しやり辛さみたいなものを感じてしまう。
「わたし、お菓子買ってきたんです。良かったら良太さんも食べます?」
隣に座る星野さんが、そんな俺を気遣ってかそう言って鞄からお菓子を取り出して差し出してくる。
「お、ありがとう。チョコだ」
「ええ、わたしこのチョコレート大好きなんですよ」
「へぇ、初めて食べるな」
「うふふ、美味しいですよ。良太さんの頬っぺた、落ちちゃうかもです」
そう言って、ふんわりと微笑む星野さん。
え、なにこの可愛い生物は……。
そしてくれたのは、コンビニとかでは見ないようなワンランク上の感じがするチョコレートだった。
まぁ断る理由もない俺は、それじゃあとお言葉に甘えて、貰ったチョコを口へ放り込む。
すると適度に甘いチョコレートの味が口の中に広がり、バターだろうか乳製品の良い香りが鼻を抜ける。
たしかにこれは今まで食べたことないと、俺はそのとても美味しいチョコの味を楽しんだ。
すると、そんなチョコを味わう俺のことを、隣で星野さんは嬉しそうに見つめてくる。
そんな風に、食べているところをまじまじと見られるのは少し恥ずかしかったけれど、この車内では逃げ場もないし仕方がない。
でもまぁ、星野さんのおかげで緊張みたいなものは大分和らいだ。
それに、自然体でニコニコと微笑んでいる星野さんの姿を見られることは、俺としても嬉しいことだった。
こんな風に楽しんでくれているのなら、別に少し見られるぐらい良いかと俺も微笑み返す。
まぁそのうえで一つ問題があるとすれば、そんな微笑み合う俺達のことを、前の席の楓花と如月さんが、じとーっとした目でこっちを見て来ていることである。
「――良太くん、楽しそうね」
「鼻の下伸ばしてる」
「べ、別に伸ばしてないだろ!」
普段楓花が言いそうな言葉を、まさか如月さんから言われるとは思わなかった。
不満そうに一緒にジト目で見てくる二人を見ていると、やっぱり二人はちょっと似た者同士なのであった。
◇
「もうすぐ着くわよ」
暫く山道を走ると、柊さんのお母さんが声をかけてくれた。
どうやらこの山道の先に、目的地である別荘があるようだ。
確かに道中、別荘と思われる一戸建ての家が何軒も立ち並んでいるため、この辺は所謂避暑地ってやつなんだろうなと思いながら、俺は窓から外の景色を眺める。
ちなみに星野さんはというと、ここまでずっとニコニコと楽しそうに俺との会話を楽しんでいた。
そして、何かと後ろを振り向いてくる前の席の二人はというと、そんな無理な体勢で山道揺られたせいもあって、一時間経った辺りで二人とも車酔いでグッタリとしてしまっていた。
最後に助手席の柊さんは、そんな車酔いでダウンする二人を見ながら、楽しそうに笑っているのであった。
「はい、到着!」
そして一軒の家の前で、車が停止する。
白色の木造家屋で、自然に囲まれつつも綺麗な一戸建てだった。
うちよりも一回り大きいのでは? と思える程、それはとても立派な別荘だった。
車から降りた俺達は、早速持ってきた荷物を車から降ろして家の中へと運び込む。
俺は柊さんに指示して貰いながら、唯一の男手として力仕事中心に手伝えることを率先して任される。
そんな俺の働きに、柊さんだけでなくお母さんも喜んでくれていた。
どうやらこの働きのおかげで、柊さんのお母さんにも好印象を与えることに成功した俺は、俄然やる気が湧いてくるのであった。
「ありがとね良太くん、助かるわ」
「いえ、今日はお招き頂きありがとうございます」
「うふふ、良い子ね。それによく見なくても男前よね。わたしももうちょっと若ければ、良太くんとお近づきになりたいぐらいだわ」
「もう、お母さん。良太さんも反応に困るでしょうから、そういう変な冗談言わないで」
文句を言う柊さんと、「あら? 別に冗談じゃないわよ」と上品にコロコロと笑うお母さん。
そんな美人親子のちょっとした言い合いに、俺はアハハと笑って誤魔化すことしか出来なかった。
ただ一つ言えるのは、俺ももうちょっと歳を重ねていて、かつ柊さんのお母さんがフリーなのだとしたら、是非ともこちらからお願いしたい気持ちでいっぱいだった。
それだけ柊さんのお母さんは、滅多に拝めないレベルで美しい大人の女性と言えるだろう。
いつか柊さんも歳を重ねて行けば、このお母さんのように綺麗になっていくんだろうなと思うと、俺はそんな大人になった柊さんの姿も見てみたくなった。
「ごめんなさいね良太さん。うちの母はあれでいて、結構お調子者と申しますか」
「いや、全然大丈夫だよ。むしろそう言って貰えるのは光栄っていうか」
「光栄、なんですか?」
「うん、だってお母さん凄く綺麗だから驚いたよ。親子揃って美人なんだなって」
本当に美人親子だよなと、俺は思ったままを口にする。
すると、そんな俺の言葉を聞いた柊さんはというと、薄っすらと頬を染めながら少し俯き出す。
「――親子揃って美人、ですか」
「うん、すごく美人」
「そうですか、こうして面と向かって良太さんに言われると、少し照れちゃいますね」
嬉しそうに、そう言ってはにかむ柊さんの姿からは、これまで見たことのない可愛らしさまで感じられた。
そのギャップというか何と言うか、美人の中に可愛さも兼ね揃えた柊さんの姿を前にしてしまった俺は、一気に恥ずかしくなって顔が熱くなってくる。
――え、なにこれヤバイかも……。
そんな微笑み一つで、俺は簡単に心を鷲掴みされてしまう。
それと同時に、俺は改めて一つのことを再認識する。
それは、今一緒にいる彼女達は、やっぱり四大美女と呼ばれる特別な美少女達だということ。
そんな彼女達の微笑み一つでこれ程までに惑わされてしまうのだから、これから一緒に一泊なんてして本当に大丈夫なのだろうかと、俺は今更になって不安になってくるのであった――。
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