第56話「始動」
最近のわたしは、毎日が楽しい――。
それは元々、趣味の延長で始めたVtuber活動でも得られていた感情なのだけれど、最近それとは違う楽しみが生まれているのであった。
これまでわたしには、友達という友達なんて一人もいなかった。
けれど今では、学校終わりに集まってお喋りを楽しむ友達と呼べる存在が出来た。
そんな友達と過ごすことが出来る時間は、今のわたしにとって、とっても大切な時間となっている。
ただ集まってお話をするだけなのに、毎回時間を忘れて話し込んでしまう。
それは配信の時と同じで、きっとそこには楽しいという感情があるからこそ、いつまでも飽きることなく続けてしまうのだろう。
同じく四大美女と呼ばれる彼女達とは、やはり共通点が多かった。
そんな同じ境遇の彼女達だからこそ、お互いに求めるものも似ていたのかもしれない。
でも、そんなわたし達はつい最近まで、近いようで遠い存在だった。
そんなわたし達が何故、今は一緒にいるのかと言えば、それはわたし達を結び付けてくれた男の子――良太さんのおかげだった。
わたしにとって、良太さんは恩人だ。
配信活動にも理解はあるし、最初期から応援してくれている大切なリスナーの一人でもある。
それに良太さんは、一人だったわたしにお友達を作るキッカケまでくれたのだ。
それを恩人と呼ばずして何と呼ぶのか。
そんな良太さんは、わたしの目から見てもかっこいい一つ歳上の先輩。
でも良太さんの魅力は、そんな容姿だけではない。
本当に優しいし、こじれてしまっているわたしにとって、唯一まともに話すことが出来る同年代の男の子なのだ。
それは大切なリスナーの一人だと分かったから、普通に話すことが出来ている。
最初はそう思っていた。
でも良太さんという人物は、それだけではなかった。
いつも周囲に目を配ってくれているし、困っていれば何も言わなくても自然に助けてくれる。
それでいて場を盛り上げてくれるし、何よりわたし達に対して普通に接してくれるというのが一番大きいのだと思う。
だからわたしは、勇気を出して会話の練習相手だなんて無理なお願いだってしてしまった。
それでも良太さんは、そんなお願いすらも快く引き受けてくれた。
その優しさのおかげで、今のみんなとお話するキッカケに繋がったし、友達になることだって出来た。
そのことに、わたしはいつも感謝している。
でも、感謝するのと同じぐらい、少し寂しくもあった。
――たまには二人きりで、お話したいなぁ……。
そう、わたしは友達と過ごす時間に満足しているのに、気が付けば良太さんと二人きりで話す時間も欲してしまっているのだ。
その感情に気付いてからは、二人きりでお話したいなという気持ちが日に日に強まっていくのであった。
「……あーあ、わたしも同じ学校だったらなぁ」
ベッドの上で一人横になりながら、ついそんな言葉が漏れてしまう。
もしも同じ学校だったらと考えていると、あっという間に時間が過ぎてしまっていた。
だから今日のところは、何だか配信する気も起きなくてお休みさせて貰うことにした。
いつもはこの時間、配信してるんだよなぁと若干の申し訳なさを抱きつつ、わたしは横になったままスマホの画面を眺める。
画面には、同じVtuberグループで、良くコラボもする竹中のギャルゲー配信が流れている。
一生懸命ギャルゲーをプレイする竹中は、今回もしっかり気持ち悪くて面白かった。
今度しっかりといじってやろうと思う。
まぁそれはそれとして、わたしはゲームに出てくる女の子キャラ達の可愛さに目を引かれた。
――もし、この金髪のキャラがわたしで、相手の男の子が良太さんだったら……。
そんな妄想をしてみると、途端に顔が熱くなってくる。
――わ、わわわ! わたし何考えちゃってるの、もうっ!!
完全に無自覚で、そんな妄想をしてしまっている自分がいた。
でもやっぱり、もっと良太さんと仲良くなってみたいなという気持ちがあるのは本当だった。
だからこそ、次に会う時はもっと積極的に良太さんに話を振ってみようと決心する。
こうしてそれからのわたしは、Vtuber活動の話題を中心に、良太さんが好きそうな話題を考えているだけで、やっぱりあっという間に時間が過ぎてしまっていたのであった。
◇
「あ、愛花さんっ! お、おはようございますっ!」
「おはよう」
今日も朝から、わたしを見るなり近寄ってくる男の子達。
そしてわたしが一言挨拶を返しただけで、彼らはとても嬉しそうに騒ぎながら去っていく。
わたしにとって、これが日常。
良く言えば、わたしはみんなの憧れの的なのだろう。
けれどわたしは、そんな周囲の人達には最初から期待しないし無関心。
だからこうして、わたしの元へ男の子達が近付いてくることに対しても、何の感情も湧いてこないのであった。
挨拶をされれば返すし、告白をされればお断りする。
無関心なわたしにとって、それが結論だった。
彼らに対して何の興味もなければ、特別な感情も湧いてこないわたしは、ただそうして一方的に向けられる好意を受け流すだけだった。
教室へ入ると、今日も朝のホームルームが始まるまでわたしの周りに出来る人だかり。
普段は全く気にせず適当に相手をするだけなのだけれど、今日のわたしにとっては少しだけ邪魔に思えた。
何故なら、今は一人で考えごとをしたいから。
普段は無関心なこのわたしに、昨日はたった一日で沢山の関心が生まれたのだ。
実際に会った他の四大美女の子達は、全員が驚くほどの美少女だった。
最初はただ、その姿を見られれば良いと思っていた。
だから会えれば目的は達せられて満足する――はずだった。
けれどわたしは、満足出来なかった。
わたしの中で生まれた僅かな関心は、達せられるどころか膨らんでいく一方だった。
それだけ、四大美女と呼ばれる存在は予想の斜め上をいっていた。
そんな彼女達と過ごす時間は、初対面だというのにとても有意義なものだった。
それはきっと、わたし達はどこか似ているから。
だからこそ、繋がり合う部分があったのだと思う。
でも、わたしは彼女達以上に関心を抱いている相手がいた。
それは、エンペラーと呼ばれる男の子。
一人で四大美女を束ねると噂されていた彼に会うことこそ、わたしの本来の目的だった。
けれど彼も、同じだった。
実際に会ってみた結果、わたしの関心は更に強まってしまったのだ――。
初対面の時から、彼はずっとわたしに対して普通に接してくれた。
顔に感情が出にくいわたしだけれど、困っているわたしに気付いてくれて、わざわざ出向いたけれど無駄足で終わるところだったわたしを助けてくれたのだ。
そんな彼に対して、わたしの関心は深まっていた。
初めて対等に接してくれる同年代の異性の存在は、わたしにとってそれ程までに関心を抱ける相手だった。
そしてわたしの中で、新たな関心が生まれる――彼にもわたしに、関心を持って欲しいと。
わたしはスマホを手に取り、メッセージの履歴を開く。
『如月さんも、来れる時はまた一緒にお話しましょう』
表示したのは、四大美女と彼――良太さんの五人で作ったグループチャット。
そこで良太さんは、あの輪にわたしのことを誘ってくれたのだ。
だからわたしは、距離こそあるけれど参加できる時は参加させて貰うことにした。
これで晴れて、四大美女と呼ばれる子達が良太さんの元へ集まることになる。
最初はわたしは、そんなエンペラーと呼ばれている人の元に加わるつもりなんて微塵もなかった。
だから周囲の噂に対しても、馬鹿馬鹿しいとすら思っていた。
けれど今では、そんな周囲の視線なんてどうでも良くなっていた。
それよりもわたしは、初めて関心を抱ける相手に出会えたことの方がよっぽど貴重。
だから今のわたしは、わたしが加わることで周囲を驚かす方が面白いと思っているぐらいだ。
そしてもっと面白いのは――グループチャットではなく、彼から直接メッセージを貰うこと。
それが次の関心になったわたしは、次に会う時は自分にもっと関心を持って貰おうと考えるだけで、これまでずっと無色だった毎日にほんのりと彩りが生まれるのであった――。
すいません、更新滞ってました!!
宜しくお願いします!!




