第54話「やる気」
四大美女――。
それは、この町にある東西南北それぞれの中学に一人ずつ存在するとされる、圧倒的美女達の総称。
圧倒的なまでに恵まれたその容姿から、一人一人が二つ名を持っており、それぞれ女神、聖女、大和撫子、そして大天使と呼ばれている。
そして今、そんな彼女達が一つのテーブルを囲み合って座っている。
傍から見れば、どこかのアイドルグループのミーティングか何かにでも見えたりするのだろうか……いや、アイドルでもこんな美少女は滅多に見かけないだろう。
もし彼女達がアイドルグループでも組めば、それこそ誇張抜きに天下を取れるに違いないだろう。
そんな、それぞれタイプの違う美少女が四人集まれば、当然周囲からの注目も自然と集まってしまう。
幸い端の席に座っているため、周囲と距離こそ保たれているのだが、居合わせたお客さんや店員さんまでも、一体彼女達は何者で、ここで何をしようというのかとても気になる様子で、こちらをチラチラと見てきているのであった。
では、そんな四大美女がここに集まって、実際に何をしているのかと言えば――それは何てことない、自己紹介である。
如月さんの自己紹介は済んだが、如月さんに対して三人はまだ自己紹介をしていないのだ。
だから柊さんの提案で、まずは自分達も自己紹介しようということになったのである。
俺は自己紹介する彼女達の姿を、一つ隣のテーブル席から眺める。
緊張した様子の星野さん、嬉しそうに微笑んでいる柊さん、相変わらず無表情なようで、星野さん同様緊張の色が滲み出ている如月さん。
そして、やっぱり不満なのかムスッと膨れながら、こっちばかり見てくる楓花――。
そんな三者三様ならぬ、四者四様の様子に、俺は少し笑えて来てしまう。
確かに全員、その容姿こそとんでもない美少女ではあるものの、こうしていると普通の女の子なのだ。
彼女達はただ、似た者同士惹かれ合っているのだ。
こうして今日のところは、そのまま柊さんを中心に会話を楽しんでお開きとなった。
元々の目的は、星野さんの人間リハビリだったわけだけれど、今になって思えばそれは星野さんに限った話ではなかった。
こうして四人共、肩を並べて自然体で仲を深め合っている姿に、俺はなんとも言えない満足感を覚える。
そんな、今日も良い一日だったなと思いながら帰宅していると、星野さんと分かれたところで背中をゲシゲシと叩いてくる人物が一人。
「バカ! アホ! 女好き!」
「女好きって、お前なぁ……」
「良太くんは何? ホストクラブかなんかなのかなぁ?」
「ホストって、何の話だよまったく」
「この、無自覚ハーレム主人公めっ!」
そう言って、楓花はずっと俺の背中をゲシゲシと叩いてくるのであった。
ホストだの無自覚ハーレム主人公だの好き放題言ってくれる楓花だけは、最後までどこかご機嫌斜めだった。
だからこうして、人がいなくなったところでその感情を俺に爆発させてきているのだろう。
それほどまでに、俺が如月さんを連れて来たことがお気に召さない様子だった。
「なぁ、楓花」
「何よ」
「俺はさ、色々心配してたんだよ」
「心配?」
「そう、こっちに引っ越してきてもう一年以上経つけどさ、お前はちゃんと上手くやれてるのかなって」
「は? 何も問題なんて無いけど」
「でも、俺は柊さんが現れるまで、お前が一度も友達といるところを見たことがなかったぞ?」
「そ、それは別に……」
「まぁでも、それはもういいんだ。今は同じ学校に柊さん、それから最近では星野さんとも一緒にいるもんな」
「……な、何が言いたいのよ」
「俺は少し心配してただけに、それが嬉しいんだよ。だから如月さんも、楓花とならきっと仲良くなれるんじゃないかって思ったんだ」
そう、俺の一番の目的はとてもシンプルだった。
俺は楓花が、なんやかんやみんなと仲良くやれていることがただ嬉しいのだ。
帰りに友達と一緒に寄り道をする、そんな普通の女子高生っぽいことをしている楓花を見ているだけで、良かったなと思えるのだから――。
そしてそれは、楓花に限らず柊さんと星野さん、それから今日知り合った如月さんに対しても同じ気持ちを抱いている。
みんなが仲良く、普通の関係で普通の女の子として楽しく過ごすことが出来るのならば、俺が多少エンペラーだの何だの呼ばれるぐらいどうってことないのだ。――多少はね。
「みんなといるの、なんだかんだ楽しいだろ?」
「ま、まぁそれはそうだけど」
「そうか、なら良かった」
恥ずかしいのか、そっぽ向きながらも否定はしない楓花。
だから俺は、嬉しくなってそんな楓花の頭を優しく撫でてやる。
「あとはこれで、兄離れもしてくれたら満足なんだけどなぁ」
「うん、それは無理」
「お前なぁ……」
「わたし、絶対負けないからね――!」
そう言って、気合を入れるように鼻息をフンスと鳴らす楓花。
いやいや、ここで負けないって何の話しだよ……。
相変わらず謎だけれど、どうやら全然兄離れはするつもりはない様子の楓花。
それで良いのかと思いつつも、すっかりやる気になった楓花はちょっと可愛くて、よく分からないが今はまぁそれで良しとすることにした。
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