第52話「四人目」
委員会の対応で遅れた俺は、先に待つ楓花達のもとへ合流するべくいつものカフェへ向かう。
俺抜きで大丈夫かなぁと少し不安になりつつ校門を抜けると、一人の女の子の姿が視界に飛び込んでくる。
普通ならば、俺も気にせず素通りするだろう。
しかし俺は、その女の子の容姿を見て気が付いたら足を止めていた。
何故なら、その子の容姿があまりにも特別だったのだ。
白銀のストレートヘアーに、少し赤みがかった瞳。
その容姿は最早この世のものとは思えないような、神秘的さすら感じられる特別な女の子。
――これはもしかしなくても、もしかするよなぁ……。
流石にもう、そこで俺も察してしまう。
この子はきっと、楓花達と同じ存在なのだと――。
大和撫子、大天使、そして聖女様とくれば、残りは女神様。
改めてその子に目を向けると、なるほど確かに、この世のものとは思えない神秘的な感じから、女神という例えが本当にしっくりくる。
東中の女神様――。
それがあの子の二つ名だと、その容姿から既に分かってしまうのであった。
そんな急に現れた野生の女神様だが、見ればずっと無表情を浮かべている。
そして彼女は、何故かうちの高校の校門の方を一人じっと見つめているのである。
その意味は全く分からなかったが、ただ見ているだけでも彼女からは圧倒的な存在感が感じられた。
そして彼女は、無表情ながらも小さく溜め息をつく。
それから何かを諦めるように、その場を立ち去ろうとするのである。
彼女は、絶対に何か用があってここまで一人でやってきたは明らかだった。
だから、そのことに気付いてしまった俺は、性格上そのまま無視することは出来なかった。
「あ、あのー、うちの高校に何か用でした?」
「いえ、何でもないです。お気遣いなく」
思わず声をかけると、彼女は少しだけ驚くように後ろを振り返る。
しかし、すぐに少し呆れるように何でもないと言う。
恐らく、いきなり知らない男に声をかけられたことを警戒しているのだろう。
相変わらず表情には出ないのだが、警戒されているような気配みたいなものは感じられた。
だから俺は、自分は純粋に何か用事がありそうな彼女のことが気になって声をかけただけというとを伝える。
「そうか、でもその制服って東校のでしょ? 結構距離があるし、何か用があってここまで来たならって思ったんだけど」
だから用があったのなら、自分を利用してくれていいんだよと伝える。
すると彼女は、やっぱり少しだけ訝しむような表情を浮かべていたのだけれど、すぐに思い直すようにその口を開いた。
「でしたら、一つお伺いしても宜しいでしょうか?」
「うん、何かな?」
「この学校に、風見楓花さんと柊麗華さんという方が通っていると思うのですが、お二人は部活とかに所属されていたりするのでしょうか?」
俺の想定通り、やはり彼女の目的は楓花と柊さんのようだ。
「……あー、いや、二人とも帰宅部だよ。何か用でもあった?」
「え? いえ、そういうわけでもないのですが、一目お会いしてみたいなと思いまして」
「そっか、じゃあ二人とも行き先知ってるから、ついてくる?」
「――え?」
驚く彼女。
たしかに、この町で四大美女と呼ばれる二人のことなのだ。
その二人を当たり前のように語ったことに対して、彼女が驚くのも無理はないというか自然な反応と言えるだろう。
だから俺は、丁度これから合流する予定であることを説明する。
「俺だけ委員会の仕事で遅れちゃったんだけどさ、このあと二人――いや、三人と合流する予定なんだ」
「そ、そうなんですか」
「うん、だから用事があるならついてきたら良いし、あとはあなたの判断に任せるよ」
伝えることだけは伝えた。
だから俺は、あとは彼女の意志に任せようと、みんなが待っているいつものカフェへと向かって歩き出す。
すると彼女は、迷うような素振りを見せつつも、俺の二メートルぐらい後ろを付いてくるのであった。
やはり警戒しているのだろうが、本当に付いてくるとは思っていなかった俺は少し驚く。
それと同時に、こんな美少女が後ろを付いてくる状況に、少しやり辛さみたいなものを感じてしまう……。
「貴方は、わたしを見ても何とも思わないのですか?」
「――まさか。美人過ぎてとても驚いてる真っ最中だよ」
そんなはずがない。今でもドキドキして仕方がなかった。
でも俺は、そんな警戒する彼女を少しでも安心させようと、正直に答えつつ後ろを振り向いて笑って見せた。
すると無表情だった彼女は、少しだけ驚くような表情を浮かべる。
何を驚いているのかはよく分からないが、彼女からの質問が続く。
「――では、貴方は『東中の女神様』はご存じですか?」
「もちろん知ってるよ、会ったことはないけどね。――いや、今日が初対面になるのかな?」
意図は分からないが、彼女こそその『東中の女神様』だろう。
だから俺は、また素直に思っているままを答える。
すると彼女は、また驚くような表情を浮かべると、その頬を少し赤らめているのが分かった。
白い肌なだけに、その変化はすぐに分かる。
そして再び黙ってしまった彼女だが、付いてくるつもりなことに変わりは無いようなので、そのまま一緒にカフェへと向かうことにした。
ただ、ここでいきなり彼女を連れて行ってもみんなを驚かせてしまうだろうと思い、俺は歩きながらグループチャットで彼女を連れて行くことをみんなにメッセージで伝える。
楓花以外から返事が来たことを確認すると、俺は再び後ろを振り向く。
改めて見ると、やはり物凄い美少女だった。
そして俺は、自分がとんでもないことをこれからしようとしていることに気が付く。
カフェには、四大美女と呼ばれる三人が既に待っている。
そして今、俺の後ろには四大美女の最後の一人がついて来ているのだ。
つまり、初めてこの町の四大美女が四人で顔を合わせることになるのだ。
それはまさしく、前代未聞の出来事と言えるだろう。
それをこんな、何の変哲もないチェーン店のカフェで決行しようとしているのだから、我ながら意味不明だ。
でも、ついに四人が顔を合わせるのだ。
その時、一体どうなってしまうのか正直楽しみになっている自分がいるのであった。
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