第50話「確信」
――困ったわね。
わたしは他校の校門前で、一人頭を悩ませる。
――よく考えてみれば、どの学校も終業時間は大体同じなのだから、それからここへ来てももう遅いじゃない。
完全に盲点だった。
まさかこんな落とし穴があるとは――。
時計を見ると、うちの学校を出て三十分以上経過している。
それだけ時間をかけてわざわざここまで来たというのに、既に校門付近には人気はなく、多分もうみんな下校してしまった後のようだった。
――出直すしかないかしら。
勉強は得意だけれど、どうにもこういうところが抜けているのは自分でもよく自覚している。
でもまぁ、失敗してしまったものは仕方ない。
次回はその辺のタイミングも考慮しなければと思いつつ、今日のところは大人しく引き下がることにした。
「あ、あのー、うちの高校に何か用でした?」
すると、そんなわたしに向かって突然声がかけられる。
しかもその声は、男性のものだった。
わたし相手に自ら声をかけてくる男の人だなんて、珍しい――。
そう思いながら、わたしはその声のする方を振り返る。
するとそこには、この高校のものと思われる制服を着た面識のない男の子がいた。
見た目は――まぁ、世間一般で言うイケメンの部類に入る感じだろうか。
他人に興味のないわたしとしては、心底どうでも良い話なのだけれど。
きっと彼も、自分のその容姿に自信があるのだろう。
だからこうして、わたし相手でも臆せず声をかけてきているのだろう。
でもそれにしたって、自分相手にこうして普通に声をかけてくるこの男の子のことが、わたしは少しだけ気になってしまう。
「いえ、何でもないです。お気遣いなく」
「そうか、でもその制服って東校のでしょ? 結構距離があるし、何か用があってここまで来たならって思ったんだけど」
――何? やっぱりナンパかしら?
確かに遠かったし、作戦だって失敗しているのだけれど、純粋な善意なんて有り得ない。
きっと彼は、こうしてわたしに付け入ろうとしているに違いない。
――いや、でも今はむしろ好都合では?
このまま帰ろうとしていたところ、せっかくこの学校の生徒から声をかけてきたのだ。
であれば、ここは彼の言葉に乗って利用させて貰うのがいいだろう。
「でしたら、一つお伺いしても宜しいでしょうか?」
「うん、何かな?」
「この学校に、風見楓花さんと柊麗華さんという方が通っていると思うのですが、お二人は部活とかに所属されていたりするのでしょうか?」
「……あー、いや、二人とも帰宅部だよ。何か用でもあった?」
「え? いえ、そういうわけでもないのですが、一目お会いしてみたいなと思いまして」
「そっか、じゃあ二人とも行き先知ってるから、ついてくる?」
「――え?」
「俺だけ委員会の仕事で遅れちゃったんだけどさ、このあと二人――いや、三人と合流する予定なんだ」
「そ、そうなんですか」
「うん、だから用事があるならついてきたら良いし、あとはあなたの判断に任せるよ」
そう言って、彼は本当にわたしに判断を任す感じで一人歩き出す。
――え、何これ?
わたしは、そんな初めて受ける扱いに少し困惑する。
こんな初対面の人の言うことを信用して良いのかどうか、わたしには分からない。
それに何より、わたしを前にしているというのに、やっぱり彼の振舞いがあまりにも普通過ぎるのだ。
これまで求められるばかりだったわたしは、そんな自然に選択肢を与えてくる彼に対して増々興味が湧いてくる。
――こんな扱い、初めてだわ!
そう思ったわたしは、まぁ何かあればすぐに逃げればいいだろうと思い、とりあえず少し距離を置いて警戒しながら、彼の後ろをついていくことにした。
「貴方は、わたしを見ても何とも思わないのですか?」
「――まさか。美人過ぎてとても驚いてる真っ最中だよ」
歩きながら、わたしはさり気なくわたしの感想を聞いてみる。
すると彼からは、意外な返事が返ってきた。
でも、その言葉の割にはやっぱり落ち着き過ぎているというか、わたしは彼にペースを乱されてしまう。
だからこそ、わたしの彼に対する興味はどんどんと深まっていく――。
「――では、貴方は『東中の女神様』はご存じですか?」
「もちろん知ってるよ、会ったことはないけどね。――いや、今日が初対面になるのかな?」
そう言って彼は、微笑みながら後ろを振り返る。
その返事と仕草に、思わずわたしはちょっとだけドキッとしてしまう。
――な、なんなの!?
だからわたしは、咄嗟に警戒を高める。
よく分からないが、彼は少し危険かもしれない。
わたしが『東中の女神様』と呼ばれる本人だと気付いていながら、こんな風に余裕な反応をされたことなんて、記憶している限りこれまで一度もなかった。
だからこそ、こういう場合どう対処したら良いのかなんて、残念ながらわたしのこれまで積み重ねてきた辞書にはなかった。
でも、同時にわたしの中で一つの確信が生まれる。
それは、最初はナンパの類かと思ったけれど、恐らく彼の言うことは全て真実だということ。
だから、このまま彼について行けば、本当に他の四大美女が待っているに違いないだろうと――。
そう確信したわたしは、今日初対面の男の子に若干翻弄されながらも、このままその四大美女が待つという目的地へ同行させて貰うのであった――。
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