第49話「女神様」
わたしの名前は、如月愛花。
中学時代は、『東中の女神様』という二つ名で呼ばれており、この町に存在する四大美女の一人として広く知られていたりする。
そんなわたしも、四月から高校生になった。
しかしこの高校生活、一言で言うならわたしは毎日退屈をしている。
新たな環境に少しだけ期待していたのだけれど、蓋を開けてみれば中学と同じ。
周囲の人間は誰しもがわたしを敬い、そしてわたしに尽くすよう振舞いだす――。
別にそれは、悪いことではないのだろう。むしろ恵まれていることだとも言える。
でもそれは、あくまで客観的な話。
わたしはただ、普通を求めているだけ。
そしてあわよくば、少しでもいいから日常生活の中に刺激が欲しい――。
しかし結果は、中学の頃と何も変わらない――ううん、それどころか、環境が入れ替わってしまった分悪化しているのであった。
その証拠に、入学したその日、わたしは教室を覗く一人の先輩の姿に気が付いた。
その人は、わたしでもよく知っているこの町の有名人。
そんな有名人の彼女が、わたしのことを見ながら固まっているのだ。
それが何故かなんて、わざわざ言葉にされなくても分かる。
こういうのは、もう何度も経験してきたことだから。
だからわたしは、敢えてその先輩のもとへ近付き声をかけてあげる。
すると先輩は、先輩だというのにわたしに怖気づいているような反応を見せる。
――やっぱりね。
だからわたしは、失望と共に釘を刺す。
こういうことが続いても面倒だから。
もうわたしには関わらないでと、先輩に対して敢えて嫌な態度をとって見せる。
人に何て思われても構わないわたしは、こうすることで大抵の人は近づいて来なくなることを知っているから。
こうしてわたしは、わたしの平穏と秩序を守ってきた。
それはこれからも、きっと変わらないだろう。
けれど、そんなわたしを取り巻く環境にも、少しの変化が生じるのであった――。
それは、高校へ入学して暫く経ったある日のこと。
わたしは妙な噂を耳にする。
何でも、四大美女を一人でまとめあげている男が現れたらしい。
周囲は彼のことをエンペラーと噂し、わたしもその彼に取り込まれているのではないかという噂が流れているようだ。
しかし生憎、わたしはそんな存在と面識などない。
全く関係のない話だし、仮に知っていたとしても有り得ないことだった。
だってこのわたしが特定の男性相手に、靡くようなことなどあるはずがないのだから。
自分でもよく分かっているのだ、自分は人よりも冷めている人間だと。
基本的にわたしは、全く他人に興味がない。
興味はないけれど、他人からの興味は一方的に向けられることから、わたしのこの歪んだ性格は更に悪化しているだろう。
しかし、そんなことはどうでもいい。
何故なら、結果こそが全てなのだから。
だからわたしは、そんな歪んだ自分のこともちゃんと受け入れている。
そういう意味では、わたしはこの四大美女と呼ばれることに対しても、それ程嫌悪感みたいなものは抱いていない。
これも一つの結果であり、わたしが周囲に対して特別だという証なのだから。
わたしは他人に対して、謙遜なんてしない。
この容姿は、自分の唯一の武器だと思っている。
打算的な言い方をすれば、非常に便利なのだ。
この他人に対してとことん興味のない、人とはずれた振舞いや感覚も、この容姿のおかげで全てが無条件に受け入れられているのだから。
「ねぇ、小松くん。ちょっと良いかしら?」
「へ、あ、愛花様!? な、ななな、何でしょう!?」
「ごめんなさいね、ちょっと聞きたいことがあるのだけれど、少しいいかしら?」
「も、勿論っ!! な、何でもどうぞっ!!」
その証拠に、ほら。
わたしに話しかけられただけで、顔を真っ赤にして喜ぶ男の子。
――本当に、チョロい。
顔には出さないが、心の中で冷笑する。
わたしに声をかけられただけで、こんな風に舞い上がってしまうクラスメイトの姿の、何と情けないことか――。
こうしてわたしは、クラスでも事情通な彼に、四大美女、それからそのエンペラーと呼ばれる人物について簡単に情報を教えて貰った。
――なるほど、あの高校ね。
そこは、今通っている高校からは結構離れた距離にある、うちの高校と同じく進学校として有名な高校だった。
これまでわたしは、他の四大美女に対して全く興味がなかった。
けれど、そのエンペラーと呼ばれる存在の登場により、若干の興味が湧いてきたのだ。
若干でも、何かに興味を抱けること自体が、わたしにとってはとても貴重なこと。
だからわたしは、実際にこの目で見てみることにした。
他の四大美女と呼ばれる人達、そしてそのエンペラーと呼ばれる存在が、一体どんな人なのかを――。
世の中には、思い立ったが吉日という言葉がある。
これはわたしの中で、案外大切な考え方だと思っている。
何故なら、明日の自分はまた興味を失ってしまっている可能性が非常に高いから。
せっかくこうして、今のわたしは興味を抱けているのだ。
であれば、その気持ちが働いているうちに行動すべきなのである。
だからわたしは、その日の放課後。
早速その高校へと自ら出向いてみることにしたのであった。
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