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妹注意報!うちの妹は、干物ときどき天使!?  作者: こりんさん@クラきょどコミック5巻12/9発売!


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第48話「現実」

 四大美女――。


 それは、この町にある東西南北の名が付く中学に、それぞれ一人ずつ存在するとされる四人の美少女の総称。


 彼女達は、他の者とは比べ物に程の圧倒的なまでの美貌を持ち、それぞれ女神、聖女、大和撫子、そして大天使と呼ばれる、同年代の人間ならばその存在を知らない者などいないとまで言われる特別な存在――。


 そんな彼女達が今年、中学を卒業して高校へと進学をしてきたという。

 そして驚くことに、彼女達の内の一人が、なんとうちの高校へ入学してきたというのだ。


 その情報を聞き付けたわたしは、早速その四大美女とやらを実際に一目見てみることにした。

 何故わたしがそんなことをするのかというと、理由は一つ。


 ――わたしの方が絶対に可愛いから。


 何故そう思えるのかというと、それはわたしには確固たる自信と実績があるから。

 そして噂とは、往々にして一人歩きしてしまうものなのだ。

 四大美女と言っても、所詮は同じ町に住む普通の女の子。わたしとは違う。


 そう確信しながら、わたしは一年生の教室へと向かった。


 わたしは、ローカル雑誌ではあるけれど、そこでの読者モデルになったのを皮切りに、今ではローカルテレビ番組への出演、そしてそこから広がった人脈を使って今後はついに全国誌へのデビューも内定している。


 つまりは、わたしこそがこの町――いいえ、この県でも同年代の中では名実共に一番の存在。

 そんなわたしも、今年から三年生になった。

 つまり、二つ下の代の子達は、わたしという存在をまだあまり知らないだけ。


 ――四大美女なんて大したことなんてないんだ。このわたし、来栖望(くるすのぞみ)こそが一番だってことを、直々に全員分からせてやるっ!


 ついにこの日がやってきたことに、内心のワクワクが止まらない。

 今日でついに、その四大美女だなんて馬鹿げた二つ名も終わりを迎えるのだと思うだけで、わたしは今にも笑ってしまいそうになりながら一年生の教室へと向かった。


 その証拠に、道中で初めてわたしの姿を見る一年生達は、当然わたしの姿に見惚れていることが分かった。

 所謂わたしは、学園のマドンナ的存在。

 それがわたしへ向けられる当然の反応だし、一年生も例に漏れないことを確認出来て気持ちが良かった。


 ――えっと、確か一年二組とか言ってたっけ?


 朝のホームルーム前のこの時間なら、多分もう教室にいるはず。

 ついにご対面の時間がやってきたのだと、わたしはワクワクしながらその一年二組の教室へ到着した――。


 開かれた扉から、そっと教室内の様子を窺う。

 中には、今日からこの高校へやってきたということもあり、恐らく同じ中学出身の人達でそれぞれ輪を作っている一年生達の初々しい姿があった。


 そんな様子に懐かしい気持ちになりながらも、一体この中の誰が噂の四大美女なのかと目で探した。


 ――たしかに可愛い子はちらほらいるけれど……まぁ、こうして改まって探さなきゃ分からないって時点で、結局噂は噂なのよね。


 元々尾ひれがついているだけだとは思っていたが、やっぱり世の中そんなものである。

 ただ綺麗な子がいれば、なんやかんや周囲に持ち上げられるというだけで、それが本当に美人ならそもそも()()なんて言われたりしないのだ。


 そう、一番は一人いれば十分なのだから。


 そう思ったわたしは、やっぱり期待外れだったなと思い偵察を止めた。

 正直、少しは自分に匹敵する、もしくは本当に上を行くような存在がいるのかもしれないという期待もあった。

 けれど結局、蓋を開けてみれば噂はただの噂だった。

 そのことが自分の目で確認出来ただけでもまぁ良しとしようと、ガッカリしたわたしは自分の教室へ戻ることにした。


 すると突然、先程まで覗いていた一年二組の教室が背後で急に騒がしくなった。

 聞えてくるのは「おぉ」だの「マジかよ」だの、そのどれもが驚きの声だった。

 振り返ると、一瞬誰か教室へ入って行く姿が目に入ったから、多分その人物がその騒ぎの原因と思われる。


 一体何事だろうと、もう四大美女のことはどうでも良くなっていたものの、その異常事態に若干の興味が湧いたわたしは、戻ってもう一度一年二組の教室を覗いてみることにした。



「――は?」



 そしてわたしは、思わずそんな間抜けな声を漏らしてしまう――。

 何故なら、今自分の視界に映り込んでいるその信じられない光景に、驚きを隠すことが出来なかったから――。


「嘘、でしょ……。あんなの、わたしどころか、これまで雑誌や番組で共演した芸能人だってまるで……」


 まるで、敵わないじゃない……。


 その存在を一目見ただけで、圧倒的な負けを痛感してしまう――。

 そしてわたしは、これが偵察だということも忘れて、教室の入り口前で固まってしまう――。


 すると、そんなわたしの視線に気が付いた彼女は、ゆっくりとわたしの元へと近付いてくる。


「――先輩? どうかされましたか?」

「――あ、いや」

「先輩? ――あっ、先輩、もしかして来栖望さんですよね? テレビや雑誌で何度か拝見したことがあります。同じ学校だったのですねすごい!」

「――そ、そう。ありがとう」

「いえ、これからよろしくお願いしますね先輩。それでは」


 そう言って彼女は、すぐにまた自分の席へと戻って行った。

 しかし去り際の彼女の表情を、わたしは見逃さなかった。


 ――完全に、わたしのことを見下した目をしていた。


 そう、彼女はわたしが自分のことを偵察に来ていることぐらい、完全にお見通しだったのだろう。

 その上で、彼女はわざわざわたしに声をかけてきたのだ。

 まるで実物の自分はどうでしたか? とでも言うように――。


 ――あんなの、敵うわけないじゃない……。


 わたしの自信は、そこで完全に砕け散っていた。

 何を思い上がっていたんだろうと、急に恥ずかしくなったわたしは慌ててその場から立ち去る。


 言われなくても分かる、彼女がその四大美女の一人だ。

 根本的に、あれは別次元の存在だった。



 ――東中の女神様。



 彼女はその二つ名の通り、まるで女神のように他に類を見ない美貌を持った特別な存在だった――。


 そしてわたしは、恐ろしいことに気が付いてしまう。

 あの彼女をもってして、《《四大》》美女と呼ばれているのだということに――。


 もし本当に、彼女と同格の美女が他に三人も存在するのだとしたら、それはもう、何の誇張も抜きに神々の争いでも巻き起こっているようなものだ。


 そんな、あまりにも浮世離れし過ぎた現実に、わたしはショックを通り越して、最早笑えて来てしまうのであった――。




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