第46話「そして気が付く」※柊視点
「あーもう、星野さん。こちらが妹の楓花と、そのお友達の柊さんです。それから楓花と柊さん。こちらは星野さん。色々あって最近知り合ったんだけど、諸事情があって今はここで人生相談に乗っていただけ」
痺れを切らした様子で、良太さんは早口でわたし達へ事情を説明してくれる。
その説明に、おどおどとした様子だけれど納得した様子の星野さんと、未だ腑に落ちていない様子の楓花さん。
そこにわたしまで居合わせてしまっているのだから、良太さんからしたらきっとやり辛い状況でしょう。
そして案の定、相談って何の話なのかと食い下がる楓花さん。
それでもここは、謝罪も交えながら良太さんが上手く話を運んだことで、楓花さんも渋々ながら納得する形となった。
「良太さん――いえ、ここは星野さんですね。その相談事というのは、わたし達が同席していたら不味い内容でしょうか?」
だからわたしも、ここが良いタイミングだろうと思い、そんな良太さんへ助け舟を送る。
そもそもここへ、勝手にやって来てしまったわたし達にだって少なからず非はあるのだから。
「――え? あっ! えっと、そんなことは別に……大丈夫ですけど……」
「そうですか。では、わたし達もお店に入ってきた手前、ここで何か注文をしないとお店の迷惑になってしまいます。ですから、もし問題が無ければご一緒させて頂いても宜しいでしょうか?」
「は、はい! そうですよね! わたしは大丈夫です、けど――?」
けれどわたしは、別々でこのお店を利用するつもりはなかった。
それは、楓花さんの考えを尊重してというわけではない。
わたしは純粋に、今良太さんの連れている星野さんという女の子に興味があったからだ。
そんなわたしの提案を、星野さんと良太さんは受け入れてくれた。
少し申し訳なさを感じつつも、それでもここで話すことが出来なければ、きっとこの先彼女と話せるような機会は中々訪れないだろうと思ったから――。
こうしてわたし達も、良太さん達の席に相席させて貰うことになったのでした。
◇
「えっと、もし違ったら申し訳ありません。――星野さんって、もしかして星野桜さんですか?」
「え? は、はい! そ、そういう貴女は――柊麗華さん、ですよね?」
ある程度確信をもってフルネームを聞いてみると、やっぱり星野桜さん本人だった。
そして驚くことに、どうやら星野さんもわたしのことを知っているようだった。
その容姿から察しは付いていたのだけれど、お互い様だった模様。
それが少し嬉しかったわたしは、思わず笑みが零れてしまうと、星野さんも一緒に恥ずかしそうに微笑んでくれた。
その微笑みは本当に可愛らしくて、日本人離れした容姿は西洋のお人形さんのようで、こうして向き合っているだけで吸い込まれるような魅力に溢れていた。
南中の聖女様――。
誰が付けたのか、楓花さんといい星野さんといい、正直しっくりくるその二つ名。
であれば、自分も大和撫子だなんて恐れ多い二つ名を付けられているのだけれど、他人から見れば自分も彼女達と同じように――と考えたところで、恥ずかしくなってきたから考えるのを止めた。
輝くようにサラサラとした綺麗な金髪に、楓花さん以上にはっきりとした碧眼。
肌はマシュマロのようにぷっくりとしつつ透き通るような白さで、背筋は真っすぐ凛とした佇まいはただただ美しい。
それは、テーブルを挟んで前の席に座った楓花さんと比べても、二人に甲乙なんて付けられるはずもなく、紛れもなく彼女達はこの町の四大美女と呼ばれる特別な存在なのだと分からされる。
こうして、星野さんとも無事に打ち解けることが出来たわたし達は、それから時間の許される限り会話を楽しむことが出来た。
話によると、どうやら星野さんは普段から一人行動することがほとんどらしい。
その理由は深く聞かなくても何となく分かった。何故なら、やっぱりわたし達は同じだから。
そんな同じ境遇の似た者同士、仲を深めるのに時間は必要なかった。
わたし達が世間話をしていると、目の前では良太さんと楓花さんの二人は、今日も仲良く兄妹喧嘩をしている。
そんな二人に出会えて、わたしは本当に良かったなと改めて実感する。
中学までのわたしであれば、今こんな風にお友達に囲まれて笑って過ごすことが出来るなんて、想像もつかなかったことだから――。
二人のおかげで、自分自身変わってきていることを実感する。
だからこそ、今日知り合えた似た者同士の星野さんにも、出来れば同じようになって欲しいと思えた。
でも、きっとそれはわたしが思うより先に、既に始まっていることなのだろう。
何故なら星野さんもまた、こうして良太さんと知り合っているのだから。
もしかしたら、わたし達四大美女と呼ばれる存在は、良太さんという存在に惹かれるように出来ているのかもしれない――。
なんて、そんな非科学的なことを思ってしまう程、気が付けばわたし達の中心にはいつも良太さんという存在がいるのであった。
――楓花さんのエスパーじゃないけれど、こういう引かれる力って本当にあるのかも。だってその証拠に……。
そう思い、わたしはそっと隣を向く。
するとそこには、兄妹喧嘩をする良太さんと楓花さんのことを、少し恨めしそうな表情を浮かべながら見つめている星野さんの姿があった。
最初はただ、そういう喧嘩の出来る兄妹がいることを羨ましく思っているだけかと思った。
けれど、その表情はそういう感情によるものではないことに気が付く。
それを言葉にするのなら――嫉妬心。
星野さんの良太さんを見つめる表情からは、そんな特別な感情が薄っすらと窺えるのであった――。
こうして、最終的には四人で仲良く談笑をして、今日と言う日のお茶会は終了したのでした。
◇
「あ、柊さん、駅まで送って行こうか?」
「いえ、お構いなく」
お店を出ると、良太さんから送っていこうかと声をかけてくれた。
わたしはそんな、良太さんからの有難い申し出をお断りしつつ、一人で駅へ向かって歩き出す。
――送って行こうか、ですか。ふふ。
駅へ向かって一人歩きながら、さっき言われた言葉を思い出す。
これまでの人生において、男性の方から純粋な善意でそんなことを言われたのは初めてだった。
元々は星野さんとの用事があり、そして楓花さんもご一緒している状況でも、これから駅へと向かって逆方向へ一人帰らなければならないわたしのことを、真っ先に気遣ってくれる。
そんな良太さんの純粋な優しさが嬉しくて、わたしは一人歩きながらつい頬が緩んできてしまう。
そしてわたしは、自分の中で一つの感情が生まれつつあることを自覚する――。
――さてさて、これから一体どうなってしまうのでしょうね。
楓花さん、そして星野さん。
今はまだ適切な距離を保っているけれど、変化が訪れるのもきっと時間の問題でしょうと、その当事者でいられることに少しワクワクしてしまっている自分がいるのであった――。
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