第43話「邂逅の果てに」
この町で、四大美女と呼ばれる圧倒的美少女が三人。
彼女達は今、同じテーブル席に腰掛け、そして三者三様の反応を見せている。
そしてその美少女三人は、最終的に答えを求めるように俺の方へ顔を向けてくるのであった。
あわあわと、助けを求める星野さん。
気まずそうに、さっさと何とかしてよと言いたげな楓花。
そして、この状況を楽しむように微笑んでいる柊さん。
そんな、神にも等しい三つのご尊顔が、それぞれ期待するようにこちらを向いてくるというカオスな状況に、俺は背中から変な汗が流れ落ちるのを感じる――。
だが、確かにここは最年長の俺がなんとかすべきだろうと思い、俺は慌てて頭を整理すると慎重に口を開く。
「……えーっと、とりあえず今日のところは、もう相談事はいいかな?」
そう言って俺は、星野さんに向かって目配せをする。
そもそもここにいる目的、それはここで俺と会話をすることで人間リハビリを行うことなのだ。
つまり、今こうして楓花達も交えて会話をしている時点で、星野さんのリハビリは現在進行形で続いているのである。
だから俺は、そのことを逆手に取ることにした。
目的は既に達せられているからこそ、敢えて相談事はもういいよねと話を振ったのだ。
あとは星野さんが受け入れてさえくれれば、今ここへいる理由も有耶無耶にすることが出来る。
結果、星野さんはちゃんと俺の意図を汲み取ってくれたようで、慌ててうんうんと頷いてくれた。
「そうですか、じゃあ今日はこのままご一緒しても?」
「は、はい! 大丈夫ですっ!」
すると柊さんが、まるで事情を分かったうえで話に乗って来てくれたおかげで、この場の微妙な空気は薄らいでいくのであった。
しかし、それでも尚楓花だけは、変わらず腑に落ちないような表情を浮かべている。
きっと、そんな簡単に止めに出来る話だったら、こうしてここへ集まる必要もないでしょとでも言いたいのだろう。
だから俺は、仕方なくここは奥の手を出すことにした。
「ちょ! いきなり何!?」
「いいから」
「な、何がいいのよっ! 恥ずかしいしっ!」
「じゃあやめるか?」
「は、はぁ!? あ、当たり前でしょっ!」
俺の奥の手――それは、頭なでなで。
昔から楓花は頭を撫でられるのが好きなようで、こうしてたまに頭を撫でてやると毎回良い反応をするのだ。
そして今回も、予想通り楓花は顔を真っ赤にして恥ずかしがる。
しかし、口ではこれだけ嫌がってても手を払い除けたりしないのだから、そんなところはちょっと可愛かったりする。
「はいよ」
目的を達成できた俺は、言われた通り頭から手を離してやる。
すると楓花は、ちょっと不満そうな、なんとも言えない表情で俺の事を見つめてくる。
「お二人とも、仲が宜しいんですね」
「うう……」
良いものを見たというように、面白そうに微笑む柊さん。
そして星野さんは、こちらも何やら不満そうな声を漏らしつつ、何とも言えない表情でこちらを見つめてくるのであった。
まぁそんなわけで、何はともあれ星野さんの人間リハビリという目的は秘密にすることが出来たのであった。
◇
それからは、柊さんがうまい具合に話を振ってくれたおかげで、初対面にしては楽しく過ごすことが出来た。
そして気が付けば、外はすっかり日が落ちてしまっていたため、そろそろ帰ろうということで店をあとにした。
もう遅いし、せめて柊さんを駅まで送って行こうと申し出たのだが、お構いなくと断られるとそのまま一人で帰って行ってしまった。
心配になりつつも、駅までそう離れてはいないし道も明るいため、あまり無理に送ろうとするのも迷惑かなと思い見送った。
相変わらず掴めない人だよなと思いつつも、その去り行く後ろ姿もどこか優雅で美しかった――。
こうして、残ったのは俺と楓花と星野さん。
家の方向も一緒だし、俺達も家路に着くことにした。
しかし、隣を歩く楓花はずーっと訝しむような顔をしており、今度は一体何なんだと思い声をかける。
「……どうしたよ?」
「何で、星野さんはずっと一緒に歩いてるのかなって」
「ああ、星野さん近所なんだよ」
「え?」
「家の前の川を挟んで向かいっていうか――あ、ほら。あの大きい黒い屋根の家が、星野さんの家だ」
「は? え、マジ?」
「は、はい」
驚く楓花に、戸惑いながら返事をする星野さん。
実は物凄くご近所だったことに驚く気持ちは、俺もこの間凄く驚いたばかりだからよく分かる。
しかし、楓花のそのリアクションはそれにしてもオーバーというか、どこか挙動不審だった。
そして星野さんは星野さんで、戸惑いながらもそんな楓花の方を見つめており、その表情はどこか負けないという意思が感じられるというか、何やら芯のようなものが感じられるのであった。
まぁそんな、なんやかんや似ているところもある二人。
この二人なら意外と仲良くやっていけそうだなと思いつつ、今日も色々あって疲れたことだし、とりあえず早く家に帰って横になりたい気持ちでいっぱいだった。
「じゃあ、わたしはこっちなので」
「うん、また今度」
「……バイバイ」
それから星野さんとは、近くの橋の所で別れた。
去って行く星野さんを見送った楓花は、ようやく張っていた緊張が解けるようにフゥっと一息つく。
そして、少し疲れたような表情を浮かべながら、怪しむように俺の顔をじっと見てくる。
「な、なんだよ?」
「お兄ちゃんは、あの子のことどう思ってるの?」
どうって、いきなりなんだよ……。
何の話かはよく分からないが、俺はその質問に思ってるままを答える。
「そうだな、良い子だし可愛いよな」
「そ、それはそうかもね。――ま、まぁわたしも割と可愛い方なんだけどね!」
……なんだ? 張り合ってるのか?
「あんな子が彼女なら、男としてきっと鼻が高いだろうなぁ」
「ま、まぁ確かに? でもわたしだって、実は男子からちょっとだけ人気あったりするような気がしなくもない的な?」
「そうそう、あと料理も得意みたいだぞ? 結婚したら、きっと美味しい手料理とか作ってくれるんだろうなぁ」
「りょ、料理はやめてよ!! これから覚えるよチクショウ!!」
はい、張り合いタイム終了。
どうやら楓花的には、料理は素直に負けを認めるしかなかったようだ。
楓花は悔しそうに、バンバンと足を踏み鳴らす。
「何でお前がそんなにキレるんだよ……」
「べ、別にぃ? キレて無いしぃ?」
「なんだよそれ……はぁ、まぁなんだ。楓花の作るカレー、俺は好きだぞ」
「え?」
「だから、楓花の作るカレーは美味しいから、お前の料理も好きだって話だ」
「そ、そっか。うん、好きなんだ――」
急にしおらしくなった楓花は、頬を赤く染めながら嬉しそうに微笑む。
「――じゃあ、明日また作ってあげよっか?」
「ん? ああ、久しぶりだし頼もうかな」
「えへへ、じゃああとでお母さんに言っとくね!」
普段は絶対作ろうとしないのに、そう言って珍しくやる気になる楓花。
そんな珍しくやる気に満ち溢れた楓花の姿は、たしかに星野さんにも負けないぐらい、良い女な気がしなくもないのであった――。
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