第41話「修羅場?」
「な、なんでここにっ!?」
突然の二人の登場に驚いた俺は、思わずそんな言葉を口にしてしまう。
まるで浮気を問い詰められる瞬間のようなこの状況に、楓花の表情は更に険しくなる。
怒る楓花の隣には、申し訳無さそうな柊さん。
ということは、やっぱり先程のメッセージは楓花からの差し金だろう。
俺はやっぱりなと思いつつも、まだカフェにいることしか伝えていないはずなのにここを特定されたことに驚く。
やっぱり楓花は、エスパーに違いない……。
「何でもいいでしょ。質問に質問を返さないで」
そして怒れる妹は、容赦なかった。
これではやはり、浮気現場がバレた瞬間のようだ。
しかし、冷静に考えれば俺にだって言い分は二つある。
一つは、俺は一人でここへ来たはずなのに、こうして後を付けて来たことへの不満。
それからもう一つは、仮に俺と星野さんが只ならぬ関係だとしても、俺達は兄妹なのだ。
だから、こんな風に問い詰められる筋合いなどないはずなのだが……そんなこと、今のこの状況で言えるはずもなかった。
何故ならば、前を向けばそこには、状況の不味さを察した星野さんの青ざめた表情があるからだ。
その表情が尚更、この状況をややこしくしているのであった。
「――えっと、風見さんこれは……」
俺と楓花達を交互に見ながら、そう言って困惑した様子でわなわなと震える星野さん。
これではもう、完全に浮気相手ポジションである。
結果、その星野さんの取ったリアクションによって、また更に楓花の目の色が変わったことを確認した俺は、こうなった以上一度話を整理させて貰うことにした。
「あーもう、星野さん。こちらが妹の楓花と、そのお友達の柊さんです。それから楓花と柊さん。こちらは星野さん。色々あって最近知り合ったんだけど、諸事情があって今はここで人生相談に乗っていただけ」
俺は三人に対して、早口で端的に説明する。
そもそもとして、全てが誤解で何も悪いことなどしていないのだ。
するとそんな説明に、星野さんはすぐに納得してくれたようだった。
それは、前もって俺に妹がいることを教えていたことと、きっと二人の容姿から、同じ四大美女と呼ばれる存在なのだろうとすぐに察しがついたのだろう。
ということで、三分の一はこれでオッケー……なはず。
しかし楓花は、やっぱり今の説明でも納得はしない。
「……じゃあ、わたし達を置いていく程の相談って何よ?」
「いや、星野さんの前でそんな言い方はしないでくれよ。相談があるのは本当なんだから」
「うっ――ま、まぁ確かに、今の言い方はちょっと良くなかったかもしれないけどさ……、わたし達に秘密にしてる感じが、やっぱり怪しいじゃん!」
要するに、俺が二人に秘密にしながら、ここで星野さん会っていたことに対する不信感を口にする楓花。
そう言われてしまうと、確かにそういう見え方もするかと納得する自分がいた。
ただそれは、自称対人Fランクの星野さんに要らぬ迷惑をかけないための配慮だったのだけれど。
それに、誰とどこにいたのか逐一報告し合う兄妹の方が多分特殊だろうし、このギャップは俺と楓花の価値観の問題だろう。
けれど、それはそれとして、楓花は俺のことをこうして心配してくれているのだ。
であれば客観的に見て、ここは俺が楓花に対して不誠実だったと見る方が妥当だろうと、俺は足りなかった言葉を付け足すことにした。
「――そうだな、それはすまんかった。星野さんの相談事を、俺から勝手に口にすることは出来なかったんだ。でもまさか、楓花がそこまで心配してくれてるとは思わなかった。ごめんな?」
これは、疚しいことがあるか否かの話ではない。
俺の楓花達へ対する配慮不足だったことが問題の本質なのだと、ここは素直に謝るしかなかった。
すると、謝る俺を前にようやく少し落ち着きを取り戻したのか、楓花の姿勢が少し和らぐ。
「……ま、まぁ何もなくて、本当に相談に乗ってただけなら別に……」
「ああ、それは保証する」
「ふ、ふーん」
分かってくれたのかは分からないが、星野さん本人を前にして保証する俺に、楓花はそれ以上の言葉を飲み込んでくれた。
まだ完全に納得はしていないものの、本人を前にこんな言葉は吐けるはずがないと合理的に判断してくれたのだろう。
こうして、一番の問題だった楓花にも一応納得して貰えた。
あとは、事の成り行きをただ見守っていた最後の一人、柊さんがその口を開いた。
「良太さん――いえ、ここは星野さんですね。その相談事というのは、わたし達が同席していたら不味い内容でしょうか?」
にっこりと優しい笑みを浮かべながら、俺ではなく星野さんへ声をかける柊さん。
その微笑みを前に、星野さんは思わずぼーっと見惚れてしまっているのが見て分かった。
どうやら同じ四大美女でも、四大美女の絶対的な微笑みは有効なようだ――。
「――え? あっ! えっと、そんなことは別に……大丈夫ですけど……」
「そうですか。では、わたし達もお店に入ってきた手前、ここで何か注文をしないとお店の迷惑になってしまいます。ですから、もし問題が無ければご一緒させて頂いても宜しいでしょうか?」
「は、はい! そうですよね! わたしは大丈夫です、けど――?」
柊さんの言葉はご尤もだった。
注文もせずにお店を利用するのは、お店に対して良くない。
確認するようにこちらを窺ってくる星野さんに俺は頷くと、それを肯定と受け取った柊さんは「ありがとうございます」と一言告げ、そのまま楓花を連れて注文へと向かった。
こうして、楓花と柊さんの二人に何故か居場所がバレてしまった結果、今日の人生相談――もとい人間リハビリに、二人も混ざることになってしまったのであった――。
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