第40話「密会」
「あ、そうだ悪い。今日も用事があるから一人で帰るよ」
昼休み。
俺は昨日に引き続き、今日も星野さんとの約束があるため、楓花と柊さんの二人へ一緒に帰れないことを伝える。
でもまぁ、最近ではこの二人も一緒に行動する程仲良くなれていることだし、俺が一緒にいる方が不自然なまであるのだ。
しかし楓花は、それまで美味しそうに弁当を食べていた手をピタリと止めると、まるで信じられないものを見るように、ぎょっとした目でこっちを見てくる。
「……は?」
「いや、今日も用事が出来たんだから仕方ないだろ?」
「用事って何?」
「まぁ色々あるんだよ……」
まさか、星野さんの人間リハビリのためだなんて言えない俺は、言葉をはぐらかす。
その結果、状況的にはまるで浮気を問い詰められているような気分にさせられる――。
俺の返事では納得いかない様子の楓花は、尚も信じられないものを見るような表情を浮かべる。
確かに付き合い悪い感じがして申し訳ないのだが、別に俺にだって用事の入ることぐらい今後も普通に起こり得るのだ。
だからこそ、その都度こんな反応をされても正直困る。
別に悪いことをしているわけでもないのだが、何となくバツが悪い気がするのは星野さんも同じ四大美女だからだろうか。
あの場に楓花達も混ざってくれれば、楓花と柊さんの二人が仲良くなれたように、きっと星野さんも……と思わなくもない。
しかし、今回は紹介して欲しいと言われたわけでもなければ、星野さんなりに悩んだ末に俺に相談してくれたことだ。
その件を、やっぱり勝手に俺から漏らすことは出来なかった。
「――ふーん、そう。分かった」
「そ、そうか」
だが楓花はというと、急に折れて受け入れてくれた。
その急すぎる反応には逆に不安しかないのだが、理由の分からない俺はそうかと返事するしかなかった。
まぁでも、朝は一緒に登校しているのだし、帰れる時は一緒に帰るのだ。
こうして徐々に兄離れしてくれれば良いなと思いつつ、俺は無事に放課後の時間を確保出来たのであった。
◇
帰りのホームルーム終了と共に、俺は教室から飛び出した。
阻害要因は楓花達だけではないのだ。
クラスメイトにまた色々と言われても面倒なので、俺が誰に追われているわけでもないが、逃げ出すように教室をあとにする。
その結果、まだ昇降口には誰もおらず、俺はそのまま独走状態で校門を抜けた。
そして時折り背後を警戒しつつ、また今日も約束のカフェへと到着したのであった。
こうしていると、秘密の密会をしているみたいで少しドキドキするのだが、よく考えれば本当に秘密の密会と言えなくもない。
ただ内容は、浮ついているわけでもなんでもなく、星野さんの人間リハビリなのだけれど――。
店内を見回すと、今日はまだ星野さんの姿はなかった。
だから俺は、分かりやすいように昨日と同じ席に腰掛け、星野さんがやってくるのを待つことにした。
注文したコーヒーを飲みながら、ポケットからスマホを取り出して確認すると、丁度星野さんから今日は少し遅れると連絡があった。
俺はごゆっくりとだけ返事をして、一人の時間を楽しむことにした。
こうして一人でコーヒーをする時間なんて、ここ最近はほとんどなかったため意外と有意義だった。
そんな満足感を抱きつつ、それでも手持無沙汰になった俺は再びスマホを手にする。
するとスマホには、また新たなメッセージが一件届いていた。
そして俺は、そのメッセージの送り主を見て驚くことになる――。
『良太さん、今どちらにいらっしゃるのですか?』
それは星野さんでも楓花でもなく、まさかの柊さんからのメッセージだったのだ――。
――え、柊さん!?
一応連絡先は交換しておいたものの、これまで特に連絡を取る事もなかった相手からの突然の連絡に俺は困惑する。
しかも相手はあの柊さんで、何故か俺の行き先を確認しようとしているのだ。
意味が分からなかった。
俺の居場所を気にするなんて、それじゃまるで楓花じゃあるまいし――――そこで俺の脳裏に、一つの可能性が思い浮かぶ。
――これ、もしかしなくても楓花が送らせてるんじゃないか?
何故なら柊さんは、今頃きっと楓花と一緒に帰宅中のはずだからだ。
恐らくだが、自分が送ってもスルーされると思った楓花が、代わりに柊さんに送らせていると考えると物凄くしっくりくる。
――でも、もし仮にそうじゃなかった場合が困るな……。
これがそうではなく、本当に緊急性のあるメッセージだとしたら、俺はやはり無視するわけにはいかなかった。
もしここで無視をしたことで、柊さん、もしくは楓花に何かあったとあっては、後悔先に立たずってやつになってしまう。
まぁそれぐらい緊急性があることならば、メッセージでなく電話で連絡してくる気もするが、一度そんな考えが脳裏に浮かんでしまった以上、俺はやっぱり返事をしないわけにはいかない。
『今、カフェにいます。何かありましたか?』
よし、送信っと――。
これで何かあればすぐに返信がくるだろうし、もし裏に楓花が控えているならば、恐らく次はどこのカフェにいるか辺り聞いてくると思っていると、柊さんからすぐに返信が送られてくる。
『それは、どちらのカフェですか?』
――ん? これはどっちだ……?
予想通り、楓花が控えている場合の想定通りのメッセージが送られてくる。
しかし、いざこうして予想通りのメッセージが届くと、逆に他の可能性も気になってくる。
つまりは、この返事ではまだ俺の抱いている杞憂は解消されなかったのだ。
さて、何て返事をしたらいいのやら……と一人頭を抱えていると、突然声をかけられる。
「あの、風見さん? どうかしされましたか?」
その透き通るような綺麗な声に顔を上げると、そこには星野さんの姿があった。
見上げたら美少女の破壊力――凄まじい。
何度見ても慣れることなどない程の美少女が、少し心配そうにしながらこちらの様子を窺っている。
「ああ、いや、何でもないよ」
「そう、ですか――。あの、用事とかあるのなら、無理にお付き合い頂かなくても大丈夫ですよ?」
「ああ、本当になんでもないから」
まぁいい。いずれにせよ今日は先に星野さんと約束していたのだから、今はこの場だけに集中しよう。
そう俺が頭を整理したところで、再び声をかけられる。
「何でもないとか、酷くない?」
しかしその声は、星野さんの声ではないけれど、俺のよく知っている声だった。
そして顔を上げると、前の席に座る星野さんも同じく驚いたような表情を浮かべている。
――つまりこれは……。
俺は恐る恐る、隣を向く――。
「ここで何をしてるのかな? 良太くん?」
「ごめんなさいね、良太さん」
何故かそこには、腕を組みながら露骨に不機嫌そうな表情を浮かべる楓花と、申し訳無さそうにする柊さんの姿があった――。
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