第34話「理由②」
こうして気が付けば、わたしは人気Vtuberの仲間入りをすることが出来ていた。
毎日信じられない数のリスナーさんに支えられながら、活動の幅はどんどんと広がっていく。
そんなある日、わたしは事務所からのサプライズを受けることとなる。
それは、ついに自分達のVtuberグループから、念願のキャラクターグッズの販売が決定したという嬉しいお知らせ。
それを知った時、わたしは本当に嬉しくて飛び跳ねてしまった。
今でも全国――いいえ、世界中の人達と、配信を通じて交流を持てているのだけれど、そんないつも応援してくれているみんなに、グッズという形で恩返し出来ることが何より嬉しかったのだ。
この活動を始めてから、わたしはずっと夢を見させられ続けているようだ。
そしてその夢は、現在進行形。
自信の無かったわたしがわたしでいられるよう、ずっと背中を押し続けてくれている。
それは同じグループの仲間達、それからいつも応援してくれているみんなのおかげ。
自分に関わってくれているみんなの存在が、何も無かったわたしにとって、今では掛け替えの無い存在となっている――。
そしてついに迎えた、自分達のグッズ販売日。
調べると、自分の住む町にも販売店が一つだけある事が確認出来た。
それを知ったわたしはもう、居ても立ってもいられず、早朝から販売店へと向かう事にした。
既にサンプル品として、自宅へグッズは届けられている。
それでも、実際に売られているところ、そしてどんな人が買って行くのか、どうしてもこの目で見てみたくなってしまったのは仕方のないことだと思う。
そして、該当店舗へとやって来たわたしは、緊張の足取りで販売コーナーへと向かう。
するとそこには、確かに自分達のグッズが沢山並べられていた。
嬉しかった――。
本当に、自分のグッズがお店に並べられているのだ。
これは自分だけの功績ではもちろんない。
それでも、これまでずっと取り組んできた自分の活動が、初めて目に見える形となって肯定されているような気持ちになれた。
もっと近くで見たい――。
そう思ったわたしは、自然と足が動き出す。
そして、自分のキャラクターのアクリルキーホルダーへとそっと手を伸ばす――、
「「あっ」」
しかし、伸ばした手と触れ合う、もう一つの手――。
驚いて声をあげると、同じく驚いたような声が自分の声とシンクロする。
しかもその声は、男性のものだった。
配信上では平気でも、現実で異性の人と関わる事への恐怖が沸き上がってくる――。
わたしは恐る恐る、手が触れてしまった相手の姿を確認する。
するとそこには、同じく驚いた表情を浮かべる、同い年ぐらいの男の子の姿があった――。
そこでわたしは、重要なことに気が付く。
今わたしと手が触れたという事は、もしかしてこの彼も、わたしの――桜きらりのグッズへ手を伸ばしていたということ。
つまり、この目の前の男性こそが、わたしの記念すべきリアルで見るリスナーさん第一号ということになる……。
そう思い、わたしは勇気をだして改めて彼の方へと目を向ける。
――こんな人も、配信を観てくれてるんだ……。
それがわたしの、彼に対する第一印象だった。
背は結構高くて、顔もはっきり言ってしまえばとても整っている。
人を容姿で判断することは嫌いだが、それでもそんな彼が自分のグッズへ手を伸ばしているという事が正直意外だった。
「す、すいません! どうぞ!」
「あ、いえ、こちらこそ……」
「いえいえ、どうぞ」
「いえ、本当に大丈夫ですので……」
慌てて譲ってくれようとする彼。
しかし、コミュ障のわたしも慌てて譲り合う事で、話が全然進まなくなってしまう。
それにわたしは、この特徴ある声で桜きらりだとバレるわけにもいかないため、小声となり相当聞こえづらかったに違いない。
――あぁもう、全部ダメダメだ……。
自己嫌悪が積み重なる。
ただでさえ異性と話すのが苦手なのに、もしかしたら自分のファンかもしれない相手とこうして直接話すことになるなんて、全くもって心の準備が出来ていなかった。
だからこそ、なのだろう。
次の彼の一言で、すっかり浮かれてしまっていたわたしの気持ちは、一気に沈んでしまうこととなる。
「――きらりちゃん?」
彼はわたしの声を聞いて、少し驚いたような様子でそう呟いたのである――。
その瞬間、わたしはやっぱり来るんじゃなかったと、この場にいる事を酷く後悔するのであった。
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