第28話「お茶」
放課後。
俺は今日も、楓花、そして柊さんという最早お馴染みの豪華面子と共に、一緒に帰宅する。
帰り際、石川さんが何か話しかけてこようとしてきたのだが、そこへ楓花達が現れた事で「やっぱ何でもない、ごめんね!」と言って部活へと向かって行ってしまったのが、俺はちょっと気がかりだった。
何か用事でもあったのだろうかと思いつつ、今日も楽しそうに何やら会話をしている四大美女二人の背中を眺めながら、俺は一歩後ろを一人歩いていた。
こうして見ると、柊さんの綺麗な黒髪のストレートヘアーに、楓花のフワフワとした茶色いセミロングヘア―。
二人とも、その後ろ姿だけでも美少女オーラが漂っており、その名の通り天使と大和撫子が楽しそうに会話をしているようにすら見えてくるから凄い。
――この二人は、一体何をそんなに楽しそうに話してるんだか。
そんな事を考えていると、突然後ろを振り向いた楓花に声をかけられる。
「ねぇ、良太くんもそう思うでしょ?」
「ん? すまん、聞いてなかった」
「もうっ! だーかーらー! 緑茶とほうじ茶なら、ほうじ茶のが美味しいよねって話!」
「は? 何の話だよ」
何事かと思えば、楓花は緑茶とほうじ茶どっちがいいかなんていう、正直どっちでもいいような謎の質問をぶつけてきたのであった。
一体何の会話をしていたら、女子高生二人の間からそんな二択が生まれるのかは知らないが、心底どうでも良い二択に対して俺は仕方なく答えてやる。
「まぁ、どっちかって言ったら緑茶だな」
たしかにほうじ茶も美味しいのだが、やっぱりどちらかと言えば緑茶の方が飲む機会も多いため、俺は素直にそう答えた。
すると、柊さんはうんうんと頷きながら満足そうに微笑み、対して楓花はというと、まるで信じられないものを見るような目で俺の事を見ていた。
「良太さんもこう言っているので、多数決で緑茶の勝利ですね」
「うう、お兄ちゃんのバカ……」
どうやら今の俺の一言で、二人の勝敗が決したようである。
話しから察するに、柊さんが緑茶派で、楓花がほうじ茶派だったのだろう。
だがあまりにも下らないその争いは、俺からしてみればやっぱり心底どうでも良かった。
全く、四大美女が揃って何の話しをしているのかと思えば、どっちのお茶の方が美味しいかを言い争っていたのである。
昼のミートボールの件といい、楓花が絡むとどうにも緩いというか下らない事ばかり起きるのであった。
こうして駅で柊さんと別れ、それから俺は楓花と二人で家に向かっていつもの帰り道を歩く。
しかし、楓花はさっき俺が緑茶と答えたのがよっぽど納得いかないのか、道中ずっと不機嫌そうにしているのであった。
「あのー、楓花さん? そろそろ機嫌直して貰えませんかね?」
「ふん! 知らない!」
「――あのなぁ、たかがお茶の好みぐらいでそんなに怒る事じゃないだろ」
「――そういう話じゃないし」
そう言って、不満そうにそっぽを向く楓花。
じゃあどんな話だよと、俺は一向に機嫌を直す様子の無い楓花に、ただただ呆れる事しか出来なかった。
そんな時、丁度前方に自動販売機が目に入る。
だから俺は、その自動販売機に並べられている飲み物のラインナップを確認した上で、楓花に声をかける。
「おい楓花、なんか飲むか?」
「え?」
「好きなの買ってやるよ。俺はそうだなぁ――これにするか」
そう言って俺は、お金を入れてほうじ茶のペットボトルのボタンを押した。
「楓花がほうじ茶の話をするから、俺も久々に飲みたくなったじゃねーか。――うん、まぁほうじ茶も普通に美味しいな。やっぱり引き分けってとこかな」
「――もう、なにそれ。それじゃ勝負にならないんだけど」
ちょっとわざとらしかったかもしれないが、俺がほうじ茶を買って飲んで見せた事で、ようやく楓花も機嫌を取り戻してくれたようだった。
「じゃあ、わたしはこれ」
そして、機嫌を直した楓花がそう言って指さした先にあったのは、ほうじ茶でも緑茶でもなく――コーラだった。
「お前、この流れでコーラかよ……」
「いいじゃん別に! ほら、お茶持っててあげるから早く買ってよ!」
「お前なぁ」
楓花の態度に呆れながらも、俺は言われた通り楓花にお茶を渡して財布から小銭を取り出して自販機に入れる。
そして自分でボタンを押せと楓花の方を振り向くと、なんと楓花は勝手に俺のお茶を飲んでいるのであった。
「あ、お前勝手に!」
「もう、別にいいでしょ? 減るもんじゃないし」
「いや、どう見ても減ってるだろ――ったく、ほらよ、金入れたから好きなの早く押せ」
そう言って楓花からごっそり減ったお茶を返して貰うと、楓花は嬉しそうに宣言通りコーラのボタンを押した。
「いやぁ、えらいすんまへんなぁ良太はんー」
「何キャラだよ、ったく――」
本当に、楓花の相手をしていると疲れるなと思いながら、俺は喋って乾いた口をほうじ茶で潤わせる。
「――あっ」
「ん? なんだよ?」
「べ、別にー? じゃあ、帰るよ良太くん」
少し頬を赤らめた楓花は、そう言うとコーラを買ってやった俺を置いてさっさと歩き出す。
こうして今日も俺は、最後まで相変わらず自由な楓花に、ただただ振り回されるのであった。
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