第27話「一緒に」
「なぁ良太」
「なんだ? 晋平」
「どうやら俺は勘違いしていたようだ。夢は夢であるからこそ、夢でいられるんだなって――」
昼休み。
今日も俺は、晋平と一緒に弁当を食べているのだが、晋平は神妙な面持ちでそんなポエムのような事を突然語り出す。
何故、突然そんなポエムのような事を語り出したのかというと、それにはもちろん理由がある。
今より少し前、俺達がいつも通り弁当を食べているところへ、突然楓花と柊さんの二人がやってきたからだ。
「やっほー! 良太くん弁当食べよー!」
「お邪魔します」
まさかの四大美女が、二人連れ添っての御出座しである。
その完全に不意打ちである二人の登場に、目の前でお茶を飲んでいた晋平は驚いてちょっと吹き出してしまっていた。
当然他のクラスメイト、そしてここへ来るまでに集めてきたのであろう背後霊達が注目する中、二人はそのまま教室へ入って来たかと思うと、そのまま空いている俺と晋平の隣の席へとそれぞれ座った。
俺の隣には楓花、そして晋平の隣には柊さんが座ったため、晋平は突然の四大美女との隣り合わせという謎の状況に、すぐにパニック状態に陥ってしまう。
そして、晋平が何とか気を取り直したかと思ったところで、口にしたのがさっきの謎ポエムである。
つまり、晋平の言いたい事はこうだろう。
みんな四大美女には憧れを抱き、出来る事ならお近づきになりたいと思っている。
だが、いざこうして本当に近付いてしまうと、自分がどうして良いか分からなくなり困ってしまうだけだったと。
四大美女の二人を同時に前にした晋平はというと、変な汗を垂らしながら、一切隣を見る事が出来ない様子で、代わりに俺の顔ばかりをじっと見つめてくるのであった。
「――晋平、そんなに俺の顔を見つめられると食べ辛いんだが」
「し、仕方ないだろっ!?」
「――え、なに? 良太くんの友達だと思ってたけど、そういうこと?」
「お前は変な事言うな」
何やら変な勘違いをしている楓花の頭に向かって、ツッコミがてら俺はいつも通りチョップをくらわしてやった。
すると教室内外に集まった野次馬達が、一斉にざわつきだす――。
そう、たとえ俺が楓花の兄であるとはいえ、彼らはあの四大美女相手にチョップをした俺に驚いているようだった。
普段からクールでミステリアスで近寄り難く、大天使様とまで呼ばれる楓花に対して、俺が突然チョップをした――とでも見えているのだろう。
しかしこの程度で驚くのなら、普段の俺達兄妹のスキンシップを見たら、きっと泡吹いて倒れるんじゃないだろうか……。
そう思うと、普段どれだけ楓花は猫被ってるんだよとちょっと笑えてきた。
「本当に、お二人は仲がよろしいですよね」
「ん? まぁ、楓花がいつもこんな調子だからな」
「な、何よー? 文句あるわけ?」
「大ありだっての」
「ふふ、やっぱり仲がよろしいようで」
俺達兄妹のやり取りがそんなに可笑しいのか、柊さんはクスクスと笑い出す。
そして、そんな会話を広げる俺達三人を見ながら、ひとり蚊帳の外だった晋平がぼそっと呟く。
「……なんか、すげーな」
「どうした?」
「いや、ついこの間まで四大美女なんて知らなかったお前が、気付いたらその二人とこうして仲良くしてるんだからさ」
「ああ、まぁ、そうかもな」
「そうかもなってなんだよ」
そう言って、ようやく晋平はいつも通り笑ってくれた。
そしてそれは、たしかに晋平の言う通りだと思った。
今のこの状況もそうだが、俺の立ち位置は客観的に見たら特別だろうから。
当事者である自分は、さすがにこの状況にも少しずつ慣れてきている。
しかし、そんな風に俺がこの環境に順応すればするほど、それは凄い事であり、だからこそ晋平も感心をしているのだろう。
「まぁ、晋平もそのうち慣れるさ」
「――いや、俺はいいさ。俺は俺に見合った生き方ってもんがあるからな」
そう言って先に弁当を食べ終えた晋平は、楓花と柊さんに向かって「それじゃ、あとはごゆっくり」と一言残して自分の席へと行ってしまった。
「気を使わせてしまったのでしょうか」
「いや、そんな事無いさ。だから気にしないでいいよ」
「そうそう、気にしない気にしない」
いやお前が言うなと言い返そうとすると、楓花はそう言いながら俺の弁当から勝手に唐揚げを一つ摘まんで、そのままパクリと一口で食べやがった。
「おい、俺の唐揚げ!」
「まぁまぁ、トレードだよトレード」
「トレード?」
楓花はそう言いながら、代わりに自分の弁当からトマトとパセリを俺の弁当に寄越してきた。
「――おい、これはどういうつもりだ?」
「前も言ったでしょ? パセリは栄養豊富だから、むしろアドだよアド」
楓花は得意げな顔をしながら、まるでこの間の仕返しだというようにニヤリと笑みを浮かべる。
しかし、もうそんな楓花にここで怒ったところで、俺の唐揚げは戻ってこないのだと諦めると、今回は仕方なくそのパセリとトマトを食べてやる事にした。
しかし、ただで食べてやるつもりも無かった――。
「はいはい、分かったよ。ただこれだけだと味気無いから貰ってくぞ」
そう言って俺は、素早く楓花の弁当から勝手にミートボールを箸で摘まむと、そのままパセリと一緒に口の中へと放り込んだ。
「ああ! わたしのミートボール!」
楓花は絶望の表情を浮かべながら、まるで信じられないものを見るように俺の事を凝視してくる。
そう、俺は楓花がミートボールが好物な事を知っており、楽しみを最後までとっておいている事を知っているからこそ、仕返しに取ってやったのだ。
何故そんな残酷な事をするかって?
それは、楓花にとってのミートボールが、俺にとっては唐揚げだからだ。
目には目を、歯には歯を。好物には好物をだ――!
こうして、しっかりと食べ物の恨みは恐ろしいという事を妹に分からせた俺は、ショックを受けている楓花を見て満足する。
しかし、そのショックはどうやら俺の思った以上のものだったようで、すっかりしょげてしまっている楓花を見ていると罪悪感が沸き上がってくる……。
「あ、あの、楓花さん? 良かったら、わたしのミートボール食べます?」
「……え、いいの?」
「はい、どうぞ」
「……うん、ありがとう」
見兼ねた柊さんが、自分の弁当からミートボールを楓花へ差す。
すると、そのミートボールが余程美味しかったのか、見る見るうちに楓花は元気を取り戻す。
そして完全復活した楓花は、ドヤ顔でを浮かべながら俺の方を振り向く。
「ふんっ! 残念だったわね!」
まるで完全勝利したかのように、楓花は俺に勝ち誇ってくるのであった。
残念なのはお前だと言いたい気持ちをぐっと堪えながら、ここは全部柊さんのおかげだなと思いながら俺は折れる事にした。
「――はいはい、良かったな。美味しかったか?」
「うん! 美味しかった! ありがとう麗華ちゃん!」
「はい、どういたしまして」
怒っていた気持ちはどこへやら、満面の笑みを浮かべながら素直にお礼を告げる楓花が面白かったのだろう、柊さんは面白そうにコロコロと笑い出す。
こうして微笑み合う四大美女二人の姿は、そのあまりの美しさで周囲の人達を尊死寸前にさせてしまうのであった。
――まさかこの満面の笑みが、ミートボールを貰っただけだなんて誰も思わないだろうなぁ……。
そんなわけで、今日も全力で間抜けをしている楓花を前に、俺も一緒に笑ってしまうのであった。
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