第26話「手紙」
月曜日。
また今週も始まってしまった平日にうんざりしながらも、今日もちゃんと早起きしてきた楓花と共に学校へと向かう。
最初はやっぱり兄妹で登校なんて恥ずかしかったし、周囲の視線とかも気になっていたのだが、今では楓花と登校するのもそこまで気にならなくなっている自分がいた。
我ながら、慣れというのは本当に恐ろしいものだと思う……。
そして何より、俺はこうして妹と一緒に登校してる間は、多分彼女が出来ることは無いんだろうなと思うと、自然と諦めのため息が零れ出てしまうのであった。
「はぁー」
「ん? どうしたの?」
「――何でもねぇよ」
「そう? 溜め息ばっかりついてると、幸せ逃げちゃうよ?」
「そうかい。そう言うお前は何だか幸せそうだな」
「え? ま、まぁね! わたしはいつも絶好調だからねっ!」
「そいつは羨ましいこった」
何がそんなに楽しいのかは分からないが、今日も朝からニコニコと幸せそうに微笑む楓花を見ていると、まぁこれはこれで良いかと思えた。
朝は弱いはずだし、週の始まりなんて一番嫌いそうな性格をしている楓花でも、これだけ楽しそうにしてるのだ。物は考えようなのかもしれないな。
こうして今日も、そんな何故か朝から楽しそうな楓花と共に学校へ向かうのであった。
◇
昇降口で楓花と別れた俺は、自分の下駄箱へと向かう。
しかしその途中で、何故か下駄箱前で棒立ちしている柊さんの姿が目に入った。
「ん? 柊さん?」
「あ、良太さん。おはようございます……」
「おはよう、どうかした?」
「――えぇ、実は下駄箱に……」
そう言うと、柊さんは困ったようなうんざりしたような表情を浮かべながら、下駄箱から一つの手紙を取り出した。
それは、誰がどう見ても下駄箱にラブレターだった。
本当にそんなベタな事する人いるんだとちょっと驚いたが、そんな現場に立ち会ってしまった俺はたかが一つ年上だとしても答え何て持ち合わせちゃいない。
「なるほど……それでどうするの?」
「――とりあえず、目は通します」
「そ、そうか」
その一言で、柊さんは全てを物語っているようだった――。
これも当然、初めてではないのだろう。
手紙を見ながら困った表情を浮かべる柊さんを見ていると、四大美女なんて呼ばれて注目されるのも、やっぱりこういう苦労とかあるよなと同情する。
だからこそ柊さんは、この高校で同じ境遇の楓花がいる事を知り、自分からあれ程積極的に仲良くなりたいと思ってくれたのだろう。
でも、そこで俺は思い至る。
柊さんがこうなら、楓花だって同じなんじゃないだろうか? と。
するとそこへ、丁度上履きに履き替えた楓花が通りがかり、そして俺達が話している事に気が付く。
「あれ? ――二人とも、そこで何してるの?」
楓花は柊さんが手紙を手にしている事に気が付き、それから俺と柊さんを交互に見ながら訝しむような表情を浮かべる。
「ああ、ちょっと手紙について話してたんだ」
俺が事情を説明すると、何故か楓花は大天使様の面影も無いような、物凄いショックを受けたような顔をしながら驚いていた。
何でそんな驚くんだと思っていると、隣の柊さんはそんな俺達兄妹の事を見ながら、面白そうにクスクスと笑い出す。
「楓花さん、違うんです。このお手紙はわたしの下駄箱に入れられていたもので、良太さんがわたしにくれたものじゃないですよ?」
柊さんの説明で、ようやく楓花のリアクションがおかしかった理由が分かった。
なるほど、楓花は柊さんが手にしている手紙を、俺が渡したものと勘違いしていたのか。
――いやいや、仮に告白するにしても、こんな朝っぱらからこんな所で告白する奴がいるかよっ!
「あ、ああ、なるほどね! 別に、わ、分かってたけどさ、そっか麗華ちゃん手紙入ってたんだ困るよねぇー!」
勘違いの図星を突かれたのか、慌てて楓花は誤魔化すように話題を変える。
そしてその口ぶりからして、どうやら楓花のところにも手紙が届けられる事はやっぱりあるようだ。
「こういう時、楓花さんはどうしてるんです?」
「え? 一応読んでるけど、それだけだよ」
「呼び出しとかには応じないんですか?」
「うん、全部無視だね。ちょっと可哀そうだなとは思うけど、わたしと話したければ、やっぱり直接話しかけてくれないと。――まぁそれならそれで、一言断るだけなんだけどね」
「なるほど! 参考になります!」
お互いの苦労を分かち合うように、笑い合う楓花と柊さん。
俺はそんな、特別な存在だからこその共通の悩みを分かち合う二人の姿に満足する。
でもね、普通は下駄箱に手紙なんて入ってないんだよと言いたいところなのだが、この二人の常識では、こうして下駄箱に手紙を入れられてしまう事が普通なのだろう――。
それにしても、こうして二人が笑い合っているだけで絵になるというか何と言うか、通りかかった人達はやっぱり立ち止まり二人の姿に見惚れてしまっているのであった。
「あとは、キャラ付けも大事なんだよ」
「キャラ付け?」
「そう、わたしはね、そういう手紙とかで呼び出されても一切応じない女って周りに思われる事で、勝手に手紙を入れられるリスクを未然に回避しているのだよ」
「ああ、なるほど! だから楓花さんのところには、手紙が来ないのですね!」
「そういうことよ! おかげで今じゃ、二週に一通ってところよ!」
「え、すごいっ!」
ドヤ顔で胸を張る楓花に、純粋に感心した様子の柊さん。
そんな、やっぱり世間の感覚からは大きくずれてしまっている二人の会話は、最早聞いているだけでちょっと面白かった。
俺は心の中で、「いや、それでも手紙来るんやないかい!」と楓花にツッコミを入れつつ、二人に別れを告げて自分の下駄箱へと向かうのであった。
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