第25話「昼ご飯と自棄」
「ご飯出来たわよー、降りてらっしゃーい」
その声に、時計を見れば既に十二時半を少し回っており、気が付けばお昼時だった。
一人でVtuberの配信を観ていたのだが、本当に時間泥棒だな……。
そういえばお腹も空いたなと、ご飯を食べるため一階へ降りると、そこにはソファーで横になって寛いでいる楓花の姿があった。
昼ご飯前だというのに、ポテチを食べながらアニメを観てケラケラと笑っており、今朝の事はもう綺麗さっぱり忘れた様子で、今日も今日とて干物していた。
しかし、父さんも母さんもそんな楓花の様子を気にする素振りも見せないため、親も親でちょっとは気にしてやれと言いたいところだ。
そう、うちの両親はとにかく楓花にはいつも甘々で、基本的に楓花が何をしてても怒らず、代わりに「今日も楓花は可愛いなぁ」と甘やかす溺愛っぷりだ。
そのせいもあって、楓花はこうして見事なまでの干物女に仕上がってしまっているわけであり、ここはそんな両親に代わって俺が楓花を注意するしかないのであった。
「おい楓花、ご飯前にお菓子を食べるな」
「……うるさいなぁ、今アニメ観てるからそういうのは後にして」
「お前なぁ……」
しかし、結局俺が何を言っても楓花には全く響かないため、毎回こうして無駄に終わるのであった。
俺はいつもの席に座り、母さんの作ったご飯を頂く事にする。
今日のご飯は炒飯で、母さんの作る炒飯は絶妙な味わいをしており、俺の好物の一つだったりする。
さすがに作って貰った料理を無視する程ダメ人間ではない楓花は、観ていたアニメを中断して席に着くと、今日も家族団欒で昼ご飯を食べることとなった。
「ほら見ろ、お菓子なんか食べてるから食べられなくなるんだよ」
「もう、お兄ちゃんうるさい! わたしは食べたい時に、食べたいものを食べるために生まれてきたのっ!」
「おい、せっかく母さんが作ってくれてるのにそんな事言うなよ」
「うっ……もうっ! 食べるわよ! 食べてやるわよ!」
案の定、お菓子を食べていたせいでお腹が空いていないのか、食べるペースが何時にも増して遅い楓花。
しかし、自棄になった楓花はお皿を手に持つと、そのままレンゲで残った炒飯を胃に流し込みだす。
見るからに辛そうな表情を浮かべながら炒飯を食べる楓花は、さながらフードファイターのようであった。
――えっと、何だっけ? 『西中の大天使様』だっけ?
こんな大食い選手権のように炒飯を食べる楓花を見たら、学校のみんなはどう思うんだろうな……なんて思いつつ、俺はそんな一生懸命炒飯を食べる楓花の事を生温かく見守った。
「……た、食べたぁ……うぇぷ」
「あら、無理して食べなくても良かったのに。でも、ちゃんと全部食べてくれてありがとね」
「おぉ、ちゃんと食べれてえらいぞー! ハッハッハッ!」
真っ青な顔をしながらも、ちゃんと意地で完食した楓花のことを、母さんと父さんは手放しに褒め称える。
相変らず楓花には甘々だが、まぁ残さず食べた事は確かに偉いから、ここは何も言わないでおくことにした。
「――ねぇ、食べたんだけど?」
「え? ああ、そうだな」
「ああ、そうだな、じゃなくて、食べたんだけど?」
「おう、美味しかったか?」
「――もう! もっと言う事あるでしょ!?」
よく分からないが、そう言って不満そうに頬っぺたをぷっくりと膨らませる楓花。
もしかしてこいつ、父さん母さんと同じように、俺にも完食した事を褒めて欲しいのだろうか――。
だとしたら、全くもって知ったこっちゃない。
勝手にご飯前にお菓子を食べてお腹が膨れていただけなのに、何故そんな自業自得な楓花を俺が褒めなきゃならんのだ?
……と思うのだが、もう面倒臭いので合わせてやる事にした。
無視してもしつこいだろうし、楓花を諭したところでどうせ無駄に終わるだけだから。
「はいはい、よく食べました。偉い偉い」
「いや、そうじゃなくて」
「なんだよ?」
「さっきお菓子を食べてるからご飯食べれないって言ったこと、謝るべきだと思うんだよね! わたしに不可能は無いから!」
「ん? あぁ、まぁそうだな。悪かった」
「気持ちが籠ってない!」
「籠めてないからな」
そんな俺の返事に、やっぱり不満そうにぷっくりと膨れる楓花。
でももういいのか、楓花は「ご馳走様!」と言ってそのまま二階へと上がって行ってしまった。
俺はやれやれと思いながら、嵐が去った食卓で残りの炒飯を全部食べた。
「ご馳走様、今日も美味しかったよ」
「ありがとう。でも良太くん? 楓花ちゃんには、もうちょっと優しくしてあげなきゃダメよ?」
「いや、今のは楓花が悪いでしょ」
「良い悪いじゃないのよ。楓花ちゃんは良太くんの事が大好きなんだから、あんまりいじめるといじけちゃうわよ」
そう言ってふんわりと微笑む母さん。
まぁ本当は色々言いたいところしかないのだが、たしかにあんまり言ってやるのも可愛そうかなと思った俺は、「はいはい、分かったよ」とだけ返事をして自分に部屋へ戻ることにした。
◇
自分の部屋に戻ると、そこには最早当たり前のように楓花がいた。
そして、さっき無理して炒飯を食べたのが祟ったのか、グロッキーな顔をしながら勝手に人のベッドで横になっていた。
――いや、寝るなら自分の部屋で寝ろよ……。
そう思いながらも、まぁ辛そうだしとりあえず横にならせておいてやる事にした俺は、呆れつつもそんな楓花に声をかける。
「やっぱキツいんじゃねーか」
「いつ吐いてもいいように、緊急避難してきた――う゛っ」
「う゛っじゃねーよ! 人のベッドで吐くなよ!?」
「ちょっともう無理、休ませて――」
もう喋るのもしんどいのか、楓花は力なくそう口にすると、そのまま気が付いたら寝息を立てだした。
全くしょうがないなと思いながらも、俺はそんな楓花の眼鏡を外して上から布団をかけてやる。
本当に、こうして黙って寝ていれば天使のようなんだけどな――。
そう思いながら、しばらく楓花の天使な寝顔を眺めていると、楓花は急に辛そうな表情を浮かべたかと思うとぼそっと寝言を口にする。
「もう……勘弁してください……炒飯の……妖精さん……」
「いや、どんな夢だよ」
でもやっぱり、楓花は楓花だった。
そんな訳の分からない寝言を言う楓花に、俺はもう笑うしかなかった。
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