第24話「目覚め」
日曜日。
今日はのんびりと家で過ごそうと決めていた俺は、早く起きる理由もないためいつもよりたっぷり遅い時間に目を覚ます。
まぁそれも、昨晩はVtuberの耐久配信に見入ってしまったこともあり、眠りについたのが朝四時前になってしまったのが原因なのだけれど。
その結果、こうして午前の十一時に起きるという、最早朝ではなく昼までぐっすりと眠ってしまっていたというわけだ。
そんなわけで、気を付けたいのが昨日の夜更かしを引きずって、今晩も夜更かししてしまうパターンだ。
今日も深夜まで眠れなくなって、結局そのまま月曜日から寝不足なんて事になりかねないため、とりあえず起きなくてはと一先ず顔を洗ってくる事にした。
「あ、起きた」
しかし、ベッドから上半身を起こすと、何故か俺の部屋には漫画を読んでいる楓花の姿があるのであった。
いつものジャージを着て、我が物顔でお菓子を食べながら漫画を読む楓花。
「あ、起きたじゃなくて、なんでいるんだよ?」
「んー、漫画読みたかったから?」
「いや、俺寝てただろ」
「うん」
「うんじゃなくて……、普通な? 寝てる人の部屋の電気つけて、漫画を読まないと思うぞ?」
「いやいや、何言ってるの? わたしのおかげで起きれたんじゃん」
全然納得は出来ないが、そう言われるとそんな気がしなくもない俺は、何故かぐうの音が出なくなってしまう。
「――いや待て、だったらすぐに俺を起こしてくれよ」
「えー、だって」
「だってなんだよ?」
「いや、お兄ちゃん幸せそうな顔をしながら寝てたから、起こしちゃ可哀そうかなーと思って」
そう言って、楓花は面白そうな笑みを浮かべながら自分のスマホの画面を見せてくる。
するとそこには、腹を出しながら本当に幸せそうな顔をして眠る俺の姿が、バッチリと映し出されていた。
「おいお前! 何勝手に撮ってんだよっ!」
「えー、可愛いじゃん」
「可愛くない! いいから消せ!」
「はいはい、消しますよー」
そう言って、スマホをいじって画像を消す楓花。
でもきっと、今のは消すフリをしただけだろう。
その証拠に、ニヤニヤと変な笑みを浮かべており、絶対俺の画像を面白がって保存しているに違いない。
まぁそんな楓花に構ってても仕方ないので、とりあえずさっさと顔を洗ってくる事にした。
「え? どこ行くの?」
「どこって、顔洗ってくるんだよ」
「ふーん、いってらっしゃーい」
そう言って、さも自分の部屋のように手をひらひらと振って見送る楓花。
どうやら楓花は、俺の部屋から出て行くつもりなんて微塵も無いようで、俺が顔を洗いに行くだけだと知るとすぐに興味を無くした。
いやいや、ここは俺の部屋だぞと思いながらも、構ってても仕方ないと俺はさっさと洗面台へ向かう。
こうして階段を下りようとしたその時、部屋にスマホを置いてきた事を思い出す。
――部屋には楓花がいるし、もし勝手にスマホをいじられたしても面倒だな……。
そう思った俺は、気にし過ぎかもしれないがスマホを取りに部屋へ戻ることにした。
ガチャリ――。
俺が部屋へ戻ると、何故かさっきまで座っていたはずの楓花の姿が見当たらなかった。
部屋を出て、恐らく一分も立っていない。
それなのに姿の見えない楓花に一瞬焦ったものの、よく見ると明らかにベッドの上の布団が丸く膨らんでいる事に気付いた。
「……おいお前、何してんだ?」
俺はその膨らみに近付きながら声をかけるが、その膨らみはゴソゴソと動くだけで応答は無かった。
「おい、答えろってんだ」
仕方なく俺は、布団を掴んで剥がしてやる。
するとそこには、案の定布団の中で丸まっていた楓花の姿があった。
恥ずかしいがっているのか、何故か楓花の頬は赤く染まっており、全くもって何がしたいのか謎だった。
「で、何してんだよ?」
「――さ、寒かったのでつい」
そうか、寒かったのか。なら仕方ないな――とはならないけどな。
そんな意味不明な楓花は、それからゆっくりと立ち上がると、まるで何事も無かったかのように再びクッションに座り漫画を手にする。
「――で、顔洗いに行ったんじゃないの?」
「あぁ、スマホ忘れたからな――。というかお前、マジで何してたんだ?」
「だから寒かったからって――」
「あー、そうか。俺の残った温もりを感じたかったんだな?」
俺はちょっとおちょくるつもりで、そう言って楓花の事を揶揄ってみた。
きっとこう言えば、楓花ならそんな訳あるかと怒るに違いないと思ってちょっと意地悪をしてみた。
しかし楓花は、何故かその顔を見る見る赤く染めていく――。
「は、はぁ!? そんなわけ!」
「いやお前、顔真っ赤だぞ?」
「ちがっ! これは熱いだけだし!」
「お前、さっきは寒いって言ったろ」
「もうっ!! うるさいっ!! 馬鹿兄貴っ!!」
顔を真っ赤にしながら楓花は、怒って部屋から出て行ってしまった。
そして恥ずかしがっているのだろうか、隣の部屋からはバタバタと騒音が聞こえてくる。
こうして、よく分からないが楓花に完全勝利を収めた俺は、可愛いところもあるよなという謎の満足感と共に、今度こそ顔を洗ってくる事にしたのであった。
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