第19話「自惚れ」
※別視点になります。
俺の名前は杉田龍平。今年から俺は高校一年生になる。
つまりは新生活。身の回りの環境は全て変わり始まったこの高校生活、きっと他の皆は夢や希望なんかに溢れているのかもしれない。
しかし、今の俺の気持ちはと言えば、全くもって晴れないのであった。
何故なら、俺が一目ぼれしたあの子とはもう、同じ学校では無くなってしまったから――。
俺は物心ついた頃から、とにかく女の子にモテてきた。
毎年バレンタインには沢山のチョコを貰えたり、クラスの女の子から告白される事だって何度かあった。
そんな俺も中学へ上がると、急激に背が伸びた事も相まって、更に異性からモテるようになっていた。
昔は告白された人数を数えていたりもしたが、指で数えられる数を超えた辺りから、そんな事を数える事すらも馬鹿馬鹿しくなってしまう程度に。
まぁそんな、自分で言うのもなんだが、どんな女の子が相手でも落とす自信のあった俺にとって、一つだけ不満な事があったのだ。
それは、うちの中学だけ美女がいなかったという事だ。
正確に言えば、うちの学校にも普通に可愛い子は沢山いる。
この町では、俺達の年代は奇跡の世代なんて呼ばれており、確かに他の学年に比べて可愛い子の数は多いように思えた。
けれど、他の中学にはいて、うちの中学にだけいないものがあるのだ。
それが、三大美女の存在だ――。
他の中学には、聖女だの大和撫子だのと呼ばれる、圧倒的な美少女が一人ずつ存在しているというのに、うちの中学にだけそのクラスの美少女が存在しなかったのである。
だから俺は、そのことだけが唯一の不満だった。
でも同時に俺は、こうも考えていた。
――三大美女って、それ本当かよ?
そう、俺はその三大美女なんて存在を、初めは正直全く信じてなどいなかったのだ。
皆はそう言うけれど、噂なんてものは大体尾ひれがつくものなのだ。
だから実際に会ってみれば、どうせ実は大したことが無くて、別にうちの学校にいる美少女と比較しても大差なんて無いだろうと高を括っていたのだ。
だから俺は、俺の通う西中以外の北中、東中、そして南中へ行き、まずはこの目でその三大美女とやらを、しっかりと一人ずつ品定めする事にした。
そしていけそうなら、みんなが崇めているその美少女達を、いつもの通りそのまま口説いてやればいいとさえ思っていた。
こうして俺は、うちの中学がたまたま早く下校出来る日を狙って、まずは隣の北中へ行き三大美女と呼ばれるうちの一人の姿をこの目で確認する事にしたのであった。
◇
北中の校門前へとやってきた。
するとどうだろう。校門前に俺が立っているだけで、通りかかる北中の女子達がキャーキャーと騒ぎだす。
そんな女子達の反応を見て、結局どこも同じだなと落胆する。
初対面でもこの反応なのだ。俺は余裕と他の男子達への優越感を感じつつ、お目当ての三大美女が出てくるのを待つ事にした。
そして、暫く待っているとついにその時がやってくる――。
別に、あれが三大美女だと誰かに説明されたわけではない。
それでも、遠く見える一人の女の子がその三大美女だと分かったのかと言うと、確かに一人だけその身に纏うオーラがまるで違って見えたからである。
そして面白い事に、そんな彼女の後をついて行くかのように、何名かの男子達が彼女の後ろを歩いている姿まで確認出来た。
だが、そんな漫画みたいな光景を見せられた俺はというと、内心ではガッカリしてしまっていた。
何故なら、実際にその三大美女を前にしてみても、これなら別になんとかなるだろうとしか思わなかったのだ。
たしかに美人ではあるが、あの子がこの町の三大美女だというのなら、俺はさしずめ三大美男子だ。
つまりは、性別が違うだけで俺とあの子は同格。
どちらも浮世離れした存在として、普通に仲良く出来ると思っていた。
しかし、すぐに俺はその考えが甘すぎた事を痛感させられる――。
徐々に校門へ近付き、次第にはっきりと見えてきたその女の子の美しさは、遠目で確認していた俺の予想なんて軽く超えて来たのである――。
綺麗な黒髪を靡かせながら、凛とした佇まいで優雅に校門へ向かって歩いてくるその美少女は、なるほど確かに大和撫子という言葉がしっくりくる程美しかった。
――俺はあんな美少女に、これから話しかけようとしてたのか!?
そう思うだけで、己惚れていた自分が途端に恥ずかしくなってくる。
俺のモテると、彼女のモテるとでは、きっと根本的なレベルで違うのだと一目で分からされてしまう……。
だから俺は、そのまま校門から出ていく彼女の後ろ姿を、情けなくもただ茫然と見送る事しか出来なかった……。
これが三大美女なのかと、何も知らなかった俺はこの一瞬で全てを分からされたのであった――。




