第15話「解決策」
柊さんからのまさかのお願い事に、驚いた俺は何て返事をしていいのか分からず固まってしまう。
そして隣の楓花はというと、まるでこの世の終わりのような絶望の表情を浮かべながら、何故か俺と一緒に固まってしまっているのであった。
「――え、えーっと。とりあえず、理由だけでも聞かせて貰ってもいいかな?」
なんとか気を取り直した俺は、まずはなんでそんな話になってしまうのかを確認する事にした。
事情は分かったが、それでなんで俺が彼氏役をする必要があるのか、その辺が全くもって謎だったからだ。
「ええ、そうですよね。まず、事の始まりについてなのですが、あれは皆さんと一緒に帰るようになった次の日のことです。お昼休みに、わたしはその男の子に急に呼び出されまして、それから告白をされたんです。でもわたしは、その男の子の事をよく知らないですし、元々お受けするつもりもありませんでしたので、丁重にお断りさせて頂いたのです。……ですが、それからです。授業中にこちらをじっと見てきたり、懲りずに何度も遊びや食事に誘ってくるようになりまして。それに今だって――」
うんざりした様子で、柊さんがそっと目配せをする。
その視線の先を辿ると、そこには一年生だと思われる男子が一人、俺達から距離をとってはいるものの、こっちの様子を窺うように立っているのが見えた。
恐らくあの彼が、柊さんの言う男子なのだろう。
見た目はさわやかイケメンという感じで、普通にしていれば何も不自由無くモテそうな奴だ。
だからこそ、まさか自分が断られる事が受け入れられないのだろうか。
そして俺は、そんなストーカー紛いな男子に対して、上手い対処法なんて残念ながら持ち合わせてもいなかった。
「ですから、わたしと良太さんが付き合っている事にして、仲の良いところを見せつけたら、彼もきっと諦めてくれるんじゃないかなと思いまして……」
なるほど、それで俺が彼氏役、か――。
ただ、その動機は分かっても、すんなりそうですかと受け入れる事は出来なかった。
だってそうでしょう、たとえこの一件のための嘘であっても、俺が柊さんと付き合うということは、全校生徒の前でそう振舞わないといけなくなるという事だ。
クラスの男子達、いや、全校……いやいや、もっと言えばこの町中の男子が俺のことを許すはずがなかった。
だからそんなの、少し考えただけでも正直頭がクラクラしてきてしまう……。
でも、現在進行形で柊さんが困っているのも確かなわけで、それは俺としても何とかしてやりたいなという気持ちもある。
だからこそどうしたらいいのか本気で迷っていると、そんな俺達の会話を一通り聞いていた楓花が突然割り込んできた。
「ダメ!! いくら麗華ちゃんでも、それはやっぱりダメ!!」
なんと楓花は、嘘でも俺と柊さんが付き合うという事を全力で否定してきたのである。
そりゃ、妹としては友達と兄が嘘でも付き合うのは気持ち悪いっていうか、良い気はしないのは何となく分からないでもない。
でも、楓花がここまで拒絶してくるとは正直思わなかった。
それは柊さんも同じようで、そんな全否定する楓花の勢いを前に少し驚いていた。
「で、でもそれなら、どうするんだよ?」
「は? そんなの決まってるじゃん! わたしがあの子と話をつけてくるっ!」
そう言うと楓花は、一度自分の頬っぺたを両手でバシッと叩いて気合を入れる。
すると、さっきまでのお怒りモードはどこへ行ったのか、まるで別人のようにニッコリと可憐に微笑む。
そう、なんと楓花は、自分に喝を入れることで自ら大天使モードへと一瞬で切り替えたのである――。
その微笑みを前に、俺はもちろん、同じく四大美女である柊さんまでも、思わず目を奪われてしまう――。
本気を出した楓花は、成る程たしかにみんなが噂するのも納得出来てしまう程、まさしく大天使そのものなのであった――。
それから大天使様は、そのままこちらの様子を窺っている彼のもとへとゆっくりと近付くと、それからニッコリと微笑みながら話しかける。
「貴方は、麗華ちゃんの事が好きなの?」
何を言うのかと思えば、なんと彼に対して単刀直入に、柊さんのことが好きなのかと問いかけるのであった。
当然、柊さんが好きだからこそストーカー紛いな行動をしている彼は、緊張からかその口をパクパクと動かすものの、上手く言葉を発せられない様子だった。
だが、それも無理は無かった。
突然やってきた、完全に大天使モードに切り替えている楓花を目の前にして、きっと彼はもうどうしていいか分からなくなってしまっているのだろう。
その顔は真っ赤に染まっていて、誰がどう見ても楓花に見惚れてしまっているのが一目で分かった。
それは彼だけではなく、たまたま通りかかった男子達、そしてなんなら女子達までも、そんな楓花の様子に思わず立ち止まって見惚れてしまっている程、今の楓花から発せられるオーラは計り知れないものがあった――。
――いやいや、無敵かよ……。
俺は我が妹ながら、そんな笑顔一つで完全に辺り一帯を制圧してしまった楓花の姿に、ただただ驚くことしか出来なかった。
「で、どうなのかな?」
「――いや、それは、その、別にそういうわけじゃないっていうか――」
微笑みながら、顔を近付けて質問する楓花を前に、なんと彼は答えをはぐらかしたのである。
今の話は当然柊さんにも聞こえているというのに、彼がそう答えてしまった理由はたった一つだろう。
彼はこの瞬間、楓花にも惚れてしまったのだ――。
そう、彼は楓花の天使のような微笑みを目の前に、あろう事かそれだけで心変わりを起こしてしまったのである。
ストーカー紛いな事までしていたのに、楓花の前で別の誰かに気があるなんて言えなくなるなんて、何と脆い事か――。
そう思いつつも、反面無理も無いなと思う自分もいた。
この町に来てから俺は、干物状態の楓花しか見てこなかったから知らなかったのだ。
本気を出した楓花が、まさかここまでの存在だとは――。
そして楓花はというと、彼からその答えが聞けた事に満足したのか、可憐に微笑みながら一回頷くと、最後に一言だけ彼に告げる。
「そうなんだね。じゃあもう、柊さんの迷惑になる事はしたらダメだよ?」
「し、しないよ……」
彼からその答えを引き出すと、満足した様子で楓花はこちらに戻ってきた。
そして、先程までの大天使モードは解かれ、またいつもの楓花に戻るとドヤ顔で微笑む。
「これでいいよね? だから、さっきの話は無しでヨロシク♪」
そんな、力業で問題をあっという間に解決してしまう楓花を前に、俺も柊さんも何も言えずコクコクと頷く事しか出来なかった――。
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