第13話「好き嫌い」
色々あったけれど、今日も何とか無事に帰宅することが出来た。
やっと一息ついた俺は、いつも通り部屋着に着替えて部屋でのんびりしたあと、母さんに呼ばれて晩御飯を食べる事になった。
我が家のルールの一つ、『家族四人で揃ってご飯を食べること』。
だから今日も、家族四人揃って一つのテーブルを囲んで食事を取る。
ちなみに今日の晩御飯は、楓花の好物であるハンバーグ。
おかげで楓花はすっかりご機嫌なご様子だった。
美味しそうにハンバーグを頬張りながら、添えられたポテトやニンジンも一緒に幸せそうにモグモグと食べていた。
もちろん、今日も楓花はいつものジャージを着込んだ干物スタイルだ。
そんな今の楓花からは、四大美女の面影は全く見当たらず、代わりにと言ってはなんだが、ゆるキャラ的な可愛さがあった。
横目で観察していると、楓花は規則正しくハンバーグ→ポテト→ニンジンのローテーションで口へ運んでいた。
しかし、そのローテーションの中に、さり気なく一緒に添えられているパセリを箸で掴むと、流れるようにそのパセリを俺の皿の上へと置いてくるのであった。
「おい、楓花。お前なぁ……」
「待って! 言いたい事は分かるけど、お兄ちゃん知ってる?」
「なんだよ?」
「良い? パセリってね、物凄く栄養価高いんだよ? だからね、沢山食べた方が絶対身体に良いんだよ」
これでもかっていうぐらいのドヤ顔を浮かべながら、得意げにパセリのウンチクを説明する楓花に、俺は呆れながら言葉を返す。
「……だったら自分で食えよ」
そんなに栄養価が豊富なら、普段からお菓子ばっかり食べてる自分が食べろって話だ。
「わ、わたしはね? お兄ちゃんにはもっと元気になって欲しいの」
「そうか、奇遇だな。俺だって、お前に元気になって欲しいから返すよ」
そう言って俺は、押し付けられたパセリを楓花の皿へと返す。
やっぱり、好き嫌いは良くないからな。
すると楓花は、頬をぷっくりと膨らましながら、不満そうな鋭い視線を向けてくる。
「――食べてくれたっていいじゃん」
「身体に良いから食え」
「――ふん! お兄ちゃんのバカ!」
怒った楓花は、そのままパセリを一口で口に含んだものの、やっぱり独特な匂いが苦手なのか、青ざめた表情を浮かべる。
だが、口に含んだものを吐き出すわけにはいかない楓花は、慌ててハンバーグと一緒に無理矢理飲み込んでいた。
そんな、俺達兄妹の小競り合いを、前に座る父さんと母さんは仲良くニコニコと楽しそうに眺めていた。
「良太と楓花は、相変わらず仲が良いな」
「もう高校生なんだし、そろそろ二人とも付き合っちゃえば良いんじゃないかしら。ねぇアナタ?」
「それはいいな! おい良太! 付き合ったらちゃんと報告するんだぞ? ハッハッハッ!!」
そう言って、楽しそうに笑いだす父さんと母さん。
――ダメだこの親、早くなんとかしないと……。
俺と楓花は兄妹だってのに、マジでうちの親は何を言ってるんだか……。
そう思いながら、俺が楓花に同意を求めるように視線を向けると、何故か楓花はその頬を赤く染めて恥ずかしがっているのであった。
「――お、おい、何お前まで照れてんだよ」
「は、はぁ? ぜんっぜん照れてないしっ! ご馳走様っ!!」
そう言って楓花は立ち上がると、食器を下げてそのまま自分の部屋へと行ってしまった。
こうして取り残された俺は、目の前の父さん母さんの餌食となる。
「あら、今のは良太くんがダメよ」
「そうだぞ良太、もうちょっと楓花の気持ちを考えてやれ」
「気持ちってなんだよ。俺達は兄妹なんだから、あんまり変な事言うなよ」
駄目だ……。
こんなズレまくっている親と、これ以上話していると余計おかしな事になってしまう……。
そう思った俺は、急いでご馳走様をして自分の食器を片付けると、そのまま逃げるように自分の部屋へと向かうのであった。
◇
部屋に戻った俺は、とりあえずPCの電源を入れ、今日も今日とてVtuberの配信を漁る。
それから気になった配信を観ていると、あっという間に二十一時を回ってしまっていたため、俺は風呂を済ませて今日は早めに寝る事にした。
ささっとシャワーを浴びて、部屋へと戻る。
しかし、何だろうか。さっきまでいた自分の部屋なのに、何だか若干の違和感を感じる。
何がどう変だとかは無いのだが、何だかさっきと違うように感じられるのだ――。
何だろうなと思いながらも、とりあえず俺は再びPCの前へと座りマウスを動かす。
PCのスリープモードが解除されると、画面には風呂へ行く前に見ていたVtuberの配信画面――では無くなっていた。
配信画面の代わりに、何故か開かれているペイントアプリ。
そしてそこには、でかでかと下手くそなパセリの絵が描かれているのであった。
何故それがパセリと分かったのかというと、書いた本人もそれだけでは何か分からないと思ったのだろう。
ご丁寧に、絵の下に「パセリ」という文字が書かれていたから、辛うじてそれがパセリの絵だと分かったのである。
ということで、さっき感じた違和感含め、これは間違いなく先程パセリを食べた楓花による犯行とみて間違いないだろう。
パセリが嫌いなのは分かったが、だからといって人のPCにパセリの落書きをしていく意味が全く分からなかった。
――まぁ、構って欲しいんだろうな……。
そう思った俺は、仕方ないから怒ったフリをして、隣の部屋まで聞えるように少し大きめに声を上げる。
「おい楓花! 変な悪戯はやめろ!」
――ガタッ。
すると、俺の声に反応するように隣の部屋――ではなく、何故か部屋のクローゼットの方から音がした。
まったく、高校生にもなってマジで何なんだよと呆れながらも、俺はクローゼットへ近づくと勢いよく扉を開けた。
するとそこには、案の定小さく丸まって隠れている楓花の姿があった。
「……何してんだよ、お前」
「くらえ! パセリの恨み! えいっ!」
呆れて俺が声をかけると、楓花はどこからか見つけてきたゴムボールを、俺の顔面目がけて投げつけてきた。
その結果、見事に顔面にボールがクリーンヒットした俺は、驚きと痛みから「うぎゃっ!」と変な声をあげると、それが面白かったのか楓花はニヤリと勝ち誇ったような笑みを浮かべながら、一目散に逃げ出した。
「あ、おいお前! まてコラ!」
「キャー!」
逃げ出す楓花の腕を慌てて掴むと、楓花は楽しそうに悲鳴をあげながら、大して抵抗もしなかった。
まったく、俺から逃げたかったのか掴まりたかったのかよく分からない奴だなと思いながらも、行った悪行に対してはちゃんと制裁を加えなければならないため、俺は楓花の頬っぺたをつねってやった。
「いちゃいいちゃい! ごめんなちゃい!」
「もうしないな?」
「しましぇん!」
「よろしい」
しっかり謝罪をさせてから、俺は頬っぺたから手を離す。
すると楓花は、やっぱり楽しいのか「うへへ」と変な笑いを浮かべながら、頬っぺたをこすこすと摩っていた。
楓花のこういう悪戯は今に始まった話ではなく、何か理由があればこうして過去にも何度か謎の悪戯を仕掛けてくることがある。
今ではもう慣れたものではあるが、これも一緒に遊びたい表れなのだろうか。
そんな、ちっとも子供の頃から成長していない楓花を見ていると、そういうところはちょっとだけおバカで可愛いというか、まぁ俺も気付いたら一緒に笑ってしまうのであった。
次回、本日19時更新予約済み
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