第12話「一緒」
今日も下校の時間がやってきた。
俺が鞄にノートを入れていると、先にホームルームが終わった楓花がまたしても俺のクラスへとやってくる。
「良太くーん帰るよー」
そして、もう扉の所で立ち止まる事すらなくなった楓花は、さも当然のように俺達の教室内へと入ってくると、俺の席の前までやってきてそう告げてくるのであった。
「……お前なぁ」
俺はもう、そんな楓花に呆れてそう呟くしか無かった。
そして当然のように、昼も現れたというのに、やっぱりクラスのみんなは楓花を見て驚いているのであった。
――みんなもみんなで毎回驚きすぎだろ……。
そう俺がこの場のあらゆるものに呆れていると、もう一つの声が聞こえてくる。
「あ、お二人ともいましたね」
教室に響いたその綺麗な声は、楓花と同じく四大美女の大和撫子こと、柊さんのものだった。
今日もサラサラとした綺麗な黒髪と、白く透き通ったような肌は限りなく美しく、一目見るだけでその目を奪われてしまう程の美貌が眩しかった。
こうして、何故か学年も異なるうちのクラスに、四大美女の二人が揃ってしまったのであった。
その結果、クラス及び野次馬で集まってきていた男子達の視線は、それはもう忙しく彷徨っていた。
――同時に二つの信じられないものを見ると、人間の視線ってこんなにも泳ぐもんなんだな……。
俺の席の前には楓花、そして教室の扉のところには柊さんという、人間が持つ事が許された美貌の限界突破をしたような二人が一つの教室に集まっているのだから、まぁみんながこうなるのも仕方ないのかもしれない――。
「ほら、帰るよ良太くん」
しかし、楓花はやっぱりマイペースだった。
他人に興味が無いのか、この異様なクラスの雰囲気などまるで気にする素振りも見せず、そう言って俺の腕を引っ張って歩き出すのであった。
こうして引っ張られた俺は、柊さんと合流して三人で廊下を歩く事になる。
その結果、俺は今、両サイドに四大美女を従えて歩いている男という、有り得ない構図になってしまっているのであった――。
当然そんな俺達に向かって、周囲の視線が痛い。
例えでもなんでもなく、本当に信じられないものを見るかのようにガッチガチに視線が集まってくるのであった。
――いやいやいや、なにこれ? 本当に勘弁してほしい……。
そんな視線を全身に浴びながら、ゲッソリと項垂れながら歩いていると、隣を歩く柊さんが突然クスクスと笑い出した。
「あっ、ごめんなさい。良太さんが余りにも不憫でつい」
「……そう思うなら、俺はもう抜きにして貰えるととっても助かるんだけどね」
「ですよね……でもごめんなさい、それを決めるのはわたしじゃないですから」
この機会に乗じて、楓花ではなく柊さんにお願いしてみるも、決めるのは自分じゃないと助けてはくれなかった。
ちなみにその、決める人である楓花はというと、やっぱりそんな周囲の視線など気にする素振りは一切見せず、平然と隣を歩いていた。
しかし、その腕は俺の手首をガッチリ掴んだままで、ぱっと見手を繋いでいるように見えなくもない気がする。
頼むからこういうのは止めて欲しいのだが、楓花は俺が逃げると思っているのかその手を離してはくれなかった。
こうして俺は、今日も楓花と柊さんという、四大美女と呼ばれる美少女に挟まれながら下校するのであった――。
◇
校門を出て、駅へと向かいながら歩く。
柊さんから楓花に向かって積極的に話しかける事で、まだぎこちなさこそあるが二人とも会話は出来ていた。
――うん、やっぱりこれもう俺要らなくね?
そう思い、俺はそーっと二人と距離をとって歩いていると、楓花が俺の事をじとーっと見てきている事に気が付いた。
「な、なんだよ?」
「――良太くん、なんか避けてないかな?」
「いや、二人の会話の邪魔しないようにしてただけだよ。っていうか、これもう明日からは俺はいなくても――」
「駄 目 で す !!」
明日から抜けようとすると、楓花は食い気味にそれを却下してくるのであった。
兄である俺でも気圧されてしまうような、急な謎の圧を込めながら――。
そして柊さんはというと、そんな俺達兄妹の不毛なやりとりを、面白そうに見つめながら笑っていた。
まぁそうこうしていると、あっという間に駅へと到着してしまうのであった。
「では、わたしはここで。今日も一緒に帰れて楽しかったです。また明日」
「おう、また」
「――うん、またね」
小さく手を振りながら、改札をくぐる柊さん。
そんな柊さんに向かって、恥ずかしいのか小声になりながらも、ちゃんとさよならを告げる楓花。
俺はそんな、兄として妹の成長を感じられた事が嬉しかった。
「ちゃんとバイバイ言えたじゃねーか」
「――うるさい」
俺が褒めてやると、楓花は恥ずかしそうに顔を背けると、俺を置いて我先に歩き出してしまう。
そんな、珍しく照れている様子も可愛いなと思いながら、俺はそんな楓花に声をかける。
「お前達、気が合いそうじゃん」
「――まぁ、そうかもね」
恥ずかしそうにしつつも、否定はしない楓花。
てっきり楓花の事だから、そんな事無いとか否定してくるもんだとばかり思っていたのだが、意外にもすんなりと気が合う事を受け入れていた。
これは本当に、二人とも相性が良いって事じゃないだろうか。
こうして楓花にも友達が出来た事が、俺は嬉しかった。
すると、前を歩く楓花は突然立ち止まる。
何事かと思って俺も立ち止まると、楓花はそのままくるりと俺の方を振り向いてきた。
その頬はやっぱりちょっと赤く染まっていて、何かを訴えかけるような表情を向けてくる楓花の姿に、俺は思わずドキッとしてしまう――。
「――でも、これからも良太くんも一緒だからね?」
少し照れたように、俺も一緒だと言う楓花――。
一緒というのは、さっきの話の事だろう。
俺も一緒に帰らないと嫌だと、楓花はその表情で訴えかけてきているのであった。
そんな一生懸命訴えかけてくる楓花を前に、俺は自分の頭をごしごしと掻きむしりながら、諦めて返事をする。
「……あぁもう、分かったよ」
まぁどうせ帰る場所は同じだし、なんだかもう色々と今更だしな。
すると、楓花はパァッと花開くように嬉しそうに微笑む。
正直、何でそこまでして俺と一緒に帰りたいのか謎だ。
しかし、それでも楓花がこんな風に喜んでくれている事に対しては、別に悪い気はしなかった。
未だに兄離れできない残念な妹だが、この町の有名人な事もあるし、もう少し見守ってやるとするか――。
それから家に着くまでの間、普段よりちょっとだけ近寄りながら隣を歩く楓花は、いつにも増してご機嫌なのであった。




