一口ちょうだい
「ねぇ。キミのやつ一口くれない?」
「これ?いいけど、あなた甘いのあんまり好きじゃないんじゃなかった?」
僕と彼女は二人用のソファに並んで座って、はじめるのは今日のおやつタイム。
お揃いのティーカップに熱々の紅茶。ロールケーキを頬張るキミ。
そのロールケーキはついさっき散歩帰りのコンビニで一緒に買ったものだ。一世を風靡してもはや定番スイーツとなったあれ。
散歩帰りで喉が渇いていたのもあるしクリームたっぷりで僕にはきつそうだなと思って、彼女の分だけ今日のおやつとして買ったんだ。
それにそう、今彼女が言ったように僕は普段自分から好んで甘い物は食べない。
だから尚更コンビニに寄った時はいらないと思ったんだ。
「まぁそうなんだけどさ」
しょうがないなぁなんて言いながら、キミは大きめにケーキを切り分けて僕の口にスプーンを運んでくれる。
ケーキなのにスプーン?って思ったけど、クリームが多いから掬うためなのかな。
僕は素直に口を開けて彼女に食べさせてもらった。
「うん。やっぱり美味しい」
ミルキーなクリームにしっとりとしたスポンジ。数度咀嚼して飲み込んだ。
隣では彼女が自分の分をすくい取り口に入れている。
ミルキーな余韻を楽しみつつ、僕はストレートで煎れた紅茶を口に含む。口内がさっぱりした。
「そういえば飲み物も最初は断固コーヒー派じゃなかったっけ?」
「そうなんだよね。でも僕とお茶するときに毎回紅茶飲んでるキミ見てると紅茶もいいかなって」
コーヒーミルで豆を挽くくらいにはコーヒー党だった。
今だって一人で一息つくときはコーヒーを選ぶ。
「そういうキミだって僕が食べてるゴハンよく一口ねだるだろ」
「そうなんだよねぇ。だってあなたの食べてるの美味しそうなんだもん」
食事に行くとたとえばうどん派のキミは、僕の食べている蕎麦を一口食べたがる。
カフェで待ち合わせして僕が先に待つときに、コーヒーを頼んで彼女を待つけど、後にきた彼女は僕と同じようにコーヒーを頼む。
「ふふっ」
「どうしたんだい?」
「似たもの同士だよね、わたしたち」
「ははっ、そうかもね」
似たもの同士になっていくんだ、多分。
時間を重ねて、お互いに干渉しあって、溶けていくんだ。
なんだか妙に照れくさくなって、ティーカップを手に取る。
僕らは同じタイミングで紅茶に口をつけた。
****END****