ある日の午後 2
ふいに現れた影に思わず顔を上げる未来
未来:何の用?
妹:誰ってきかれたんで答えますぅ。お兄ちゃん、私の名前……何だっけ?
兄:自分の名、忘れんなや アリア
妹:そーそーアリアですぅ。お兄ちゃんは……何?
兄:……カノンや……
未来:あ……私の名前は
兄妹:山音未来
未来:え? なんで私の名前……?
兄:調べた。仕事やったから
未来:仕事?
妹:そ♡ うちら悪魔の仕事や
未来:そう悪魔の……悪魔ぁ~~~~!?
兄おもしろそうに反応を見ている
妹はすっとぼけている
妹:仕事の内容までは言えないからぁ。それはごめんなさい
兄:アリア、お前邪魔すんな。えぇな?
妹:わっかんなーぃ♡
未来:何!? 悪魔が私に何の用よ?
兄:仕事や言うたろ?
未来:だから仕事って……
妹:「言えんからゴメン」て言うたやろぉ?
未来:だから……それって
兄:しつこいと嫌われるぞ、お前
未来:ほっといて、そこまで言われたくない
兄:せやなぁ……一人でいるのが嫌なだけのワガママ女……やからなぁ
妹:それぇ、ちょっとキツイよぉ?
ごめんなさぁい、お兄ちゃん口が悪いからぁ
兄:アリア、うるさい
未来:だから何なのよ!? 言いたい事あるなら言ってよ!!
私が何したの!?
妹:何した……ではなくてぇ、何する……
兄:アリア!!
妹:はーい、カノン兄様ぁ。黙ってればえーんやろぉ?
未来:今の言葉……何!? 何なのっ!!
兄:自殺するんや。さっきの人間の言葉に考えさせられてなぁ、かわいそうに
未来:自殺? 自殺するって言うの? 私が!?
兄:なら何で能天気やっとんのや?
見下したように冷ややかな兄
楽しそうに見ている妹 怯える未来
未来:何の必要があってそんな事を
兄:仕事や言うたろ?
未来:人の本音を言わすのが?
ご苦労な事ね、そうやって人間の心を持ってくのね
兄:お前に関係ない。今から死にゆくような人間には必要ない
未来:まるで人間を人間と思ってないみたいに言うのね。それが悪魔ってわけ!?
精神がボロボロになってしまった者に優しく接するとかないわけ?
兄:そんなモンなどない。仕事をしているだけや。つまらん事を気にすな
妹:つまらん事ぉ?
未来:その言葉取り消して!! 本当に悪魔なのね、人を傷つける事しか言わない
兄:ならお前はどうや? 傷つけんのも恐い、傷つくんも恐い
だから人に嫌われんよう頑張ろう
そうやって今まで過ごしてきたんやないんか?
そんな奴にとやかく言われとうない
未来:だって……どうやっても人を傷つけてしまうもの。だったら!!
明るくふるまって、できるだけ波風たてずに過ごしたかった。
その結果が、コレ?
妹:お兄ちゃん、本当にこの人死ぬの?
兄:当たり前や、それがこいつの運命なんやから
アリア、えぇな?邪魔すんな
妹:かわいそうだよぉ
未来:……ずっと誰かに言って欲しかった。「あんたは一人じゃない」って
「私はここにいるから」って。でも誰も言ってくれない。
あるのは仲間としての私で、本当の私を見てくれる人なんて……
妹:本当の私……? 見せてくれなきゃ分かんないよぉ
だって、どう手を差し出せばいいのか知らないもん
兄:アリア!? この馬鹿がっ!! 仕事邪魔すな言うてるやろぉ!?
山音未来、お前は本当に自分の心を隠して満足できたんか?
未来:満足? できなかった……なんか心苦しくて思ったようにならなくて
でも「絶対に私はここにいるんだ」って言い聞かせて
「ここにいていいんだ」「いらない子じゃないんだ」って……ずっと……
兄:お前はいらん子や
未来:いらない……? 私が……私……