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台本たち  作者: 魅桜
夢の中
21/27

夢の中 2


  間



恵夢:……あ……片付けなくちゃ。お父さんとお母さんが帰ってくる。

   この二人どうしよう。カーペット替えなきゃ、新しいのドコだっけ?

   包丁も洗わなきゃ……何をすればいいのか分からなくなってきた。



  フと我に返ったように



恵夢:キャァァァ!! 何? 何で二人が倒れてるの? 二人共大丈夫……?

   ……死んでる……ウソ、誰がこんな……私!? 私が殺した……?


恵夢:私が殺した……? 確かに“殺してやるっ!!”って思ったけど、

   本当に殺すなんて……。私は悪くない、私は被害者、

   正当防衛で片付けられる。でも殺人には変わりない――……




声1:……そう、あんたが刺した、殺した。


声2:けっこう痛いんだよぉ? どれだけ痛いかワカル?



  間



恵夢:あの二人の声が聞こえた時、私の身体は震えたった。

   刺した瞬間を思い出したからだ。手に蘇る鈍い感触。見開かれた眼。

   倒れていく肉体。私の身体がどんどん震えだした。

   恐怖なんかではなく、歓喜の震え……二人を殺したという喜び。



  暗転



声3:どうして二人を殺したの?


恵夢:気が付いたら刺してた。


声3:気が付いたら?


恵夢:そう。“殺したい”って思ったら自然と手が包丁に触れた。


声3:殺したいほど憎かったから?


恵夢:憎くはなかった。けど疲れちゃった……。


声3:疲れた?


恵夢:そう、疲れたの。


声3:傷つく人がいたとしても?


恵夢:傷ついたのは私。


声3:絶対に?


恵夢:絶対っていうワケじゃないけど、でもあの二人がいなくなった事で、

   私は夢の中に入る事が出来た。


声3:夢の中って?


恵夢:……落ち着ける場所。自分の考えに入り込める場所。


声3:本当に? 今は現実? 夢?


恵夢:……ユメノナカ……。だって私は人を殺したりしないもの。

   夢の中でのストレス発散法のハズだもの。


声3:夢ですか? では手を見て下さい。何色に見えますか?


恵夢:何色って、手は肌色に決まって……あか……赤……血の色? 嫌ぁ!!



  間



恵夢:あの二人を殺してから常にある人が側にいた。

   その人は優しそうな顔で私に語りかける。それが私にとっては辛かった。

   何でこの人は私に笑顔を向けるんだろうと。

   何でも話していいんだと、弱音を吐いていいんだと言ってるみたいに。

   自分の一番弱い部分が我慢出来ずに、耐え切れずに悲鳴をあげた。



  間



恵夢:物心ついた頃から、周りの大人に言われてきた。

   「恵夢ちゃんは何でも自分で出来るのね」

   「ご両親が良い大学を出てるのだから、恵夢ちゃんも良い大学に入ろうね」

   「恵夢ちゃんはエライわねぇ。いつもテストで満点とって」

   何が良い大学? テストで満点? 馬鹿にするな。

   子供だと思って言いたい放題。好きで勉強してたんじゃない。

   好きで良い大学へ行こうとしてたんじゃない……

   周りがっっ!! 勝手に期待するからっっ!!


声3:周りが期待するから一生懸命頑張ってたんだね。

   皆が自分を認めてくれるには勉強するしかなかったから。

   辛かったね、もう泣いていいんだよ?


恵夢:……あのね、小さい頃にはなりたいものがたくさんあった。でも諦めてた。

   始めからなれるわけないって分かってたから。


声3:どうして? やってみた事もないのに。


恵夢:自分の意見とか言えなかったから。親には「良い大学に入って、

   良い所に就職しなさい」っていつも言われてたし……


声3:だから誰にも言えなかった?


恵夢:うん、その頃から自分の意見は言っても無駄だって分かってたから。

   それにいつも黙って暗く教室の隅にいたから、クラスでも孤立してた。

   だからイジメにもあった。大人に言っても信じてもらえないから、

   耐えるしかなかった。それに学校では絶対に泣かないって決めてたし。

   涙を流してる所を見られたらもっともっとイジメられるから。


声3:強かったね。でも一人くらいは仲の良い子いなかったの?


恵夢:いなかった。皆、私を嫌ってた。


声3:その中でよく耐えたね。偉かったね。


恵夢:……ずっと誰かにそう言ってもらいたかった。

   誰も私を受け止めてくれなくて、夜、一人で親にもばれないように

   泣くしかなかった。



  間



恵夢:どうしてか分からないけど、この人には心が開けた。

   泣きじゃくる子供をあやすかのように受け止めてくれて、

   「泣ける事が良い事」……なんて一度もなかった。言われなかった。

   初めて、私は心からの涙を流したような気がする。



  暗転



声4:お前は何をしたか分かってるのかっ!?


恵夢:分かってる、人を殺すのは良くない事だって。


声4:分かってても人を殺した事に変わりはない、恵夢っ!!


恵夢:私は悪くないっ!! 第一こうさせたのはあんたたち親じゃないか!!


声4:親に向かってなんて口のきき方だ!!


恵夢:私の感情を殺していたのはあんたじゃないか。

   あんたの気に入らない事をするとすぐ暴力に走るくせにっ!!

   一流と名のつくもの以外には興味も持たせなかったじゃないか!!


声4:なら言うが、お前の為にどれだけの金をかけてやったと思ってるんだ!?

   わざわざいらん金まで払って一流の学校に行かせてたんだぞ。

   これも全てお前の為に……


恵夢:偉そうに大口たたくなっ!! 何が「いらん金」だ。

   大人(お前)のエゴを子供()に押し付けるな!!

   私はあんたのおもちゃじゃない、二度と此処に来るなっっ!!



  間



恵夢:初めて親に文句を言えた。まぁ、文句っていうよりもただ言いたい事を

   言ったって感じだったけど。でもなんだかスッキリとした。



  暗転



声3:どうしたんですか?


恵夢:私は殺した二人の為に何をすればいいですか?


声3:それは……誰にも分かりません。


恵夢:こういう事は辞書には載っていないので……分からないんです。

   許しを請う事は簡単にできるけど……


声3:そんなに簡単に許せるものでもない。


恵夢:そう、だから余計に苦しいんです。


声3:眠りなさい。そうすれば教えてもらえます。


恵夢:何を教えてもらえるんですか?


声3:自分の本当の心を天使に教えてもらえるんです。


恵夢:……天使……ですか?


声3:そう、天使です。


恵夢:“人を殺した罪”と“自分を殺していた罪”とどちらが重いでしょう?

   私が此処にいる事が罪だと思うんですが。


声3:どちらの罪も大罪です。罪を忘れる為に眠りにつきなさい。


恵夢:ずっと側にいて下さいますか?


声3:ええ、側にいます。


恵夢:……おやすみなさい。



  間



恵夢:あの二人を殺した事で私の中の何かが変わった。

   あの時どうしてキレたかなんて分からない。

   そんな感情もあったかどうか分からない。

   真実は夢の中にあるんだから。夢と現実が混ざり合って罪が生まれた。

   罪を犯さないと夢の中にいられない事に気付いた、だから――……

   私は二人を殺した事、後悔しない。




これを演じようと思ったら無理がありすぎるなぁ。と思いつつも書いたらそれだけで満足しちゃって。

書きかけで放り投げたままの話が他にもいくつかあったけど、今でも書けるかどうか。

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