人形の女主人(ミストレス) 2
カラン(戸の音)
ウーティス:いらっしゃいませ。<人形の館>へようこそ。
あらあら、可愛らしいお嬢さんね。
いけませんよ? こんな真夜中に外出なさるなんて。
いつ狼に食べられてしまうか分からないんですから。
子供扱いですか? あら、私よりも子供でしょう?
……怒ってらっしゃるんですか? 怒らないで下さい、ね?
女の子は笑顔が一番素敵なんですから。
私の名前ですか? 「ウーティス」と申します。
ウーティス:ナダ、カクテルをお願い。私には《レッド・アイ》を、
こちらのお嬢さんには《シンデレラ》を。
ご心配なさらないで、《シンデレラ》はノン・アルコールですから。
お嬢様、シンデレラのように十二時までにお家に帰りましょう、
ご家族の方が心配なさいますわ。嗚呼、そんなに拗ねないで下さい。
子供扱いしている訳ではありませんわ。
貴女がとても可愛い方だから心配しているんです。
……それにしても冷え込みますねぇ、風が吹いてきたようですよ。
風の音
戸の開く音
ウーティス:はいどうぞ。お菓子もいかが? 美味しいですか?
……そうですか、お口に合って良かった。人形劇?
でも、時間がとても遅いですし、今日は我慢して下さい。
それにもうすぐ十二時。シンデレラの時間は終わりです。
貴女もお家に帰らないと。今度また、この店に来て下さいな。
その時に貴女の望む人形劇をいたしましょう。
ええ、私が上演いたしますわ。お気をつけて下さいね。
それでは、御機嫌好う。
カラン(戸の音)
ウーティス:ナダ……この身体は壊れかけているのかしら?
だってほら、身体が思うように動かなくなってきてるのよ?
どうしてなのかしら、今まで一度もこんな事なかったのに。
……そうね、貴方は長い間この店の女主人と過ごしてきたのよね。
この心配も私がいる時だけでしょう?
次の女主人が造られると、そっちの事しか考えないのよね。
分かっている事だけれど、悲しい事だわ。
……お客様も帰られた事だし、今夜はもう店を閉めてしましょう。
閉店。
ナダ:人形の館の女主人。神が造った精神のない人形。
だけど今回の人形は、何故か人間の心を持っている。
神の新しい試みだろうか? そんな事はどうでもいい。
ただ、人形の一生を見ていればいいのだから。
時代によって、人形は違う。「ウーティス」はまるで人間のようだ。
神はまだあの人形を壊さないのか?
ああ、だけどもう身体が動かないとか言ってたな。
もうすぐ面倒くさい人形は壊れるだろう。
シンデレラ:ああっ!! ガラスの靴の片方を落としてきてしまったわ。
十二時の鐘、ずっと鳴らなければいいのに……
あのっ……私にも、そのガラスの靴を履かせて下さい。
継母様、お姉様、お願いっ!!
お願いです、私にも履かせて下さいっ!!
駄目……ですか? えっ、いいんですか?
では失礼……っと、ピッタリです。え!? 王妃に!? 私がっっ?
鐘の音
シンデレラ:もう十二時の魔法はいらないわ。ガラスの靴もいらない。
望みは必ず叶うのだから。
強い思いで、そして勇気を持てば私の願いは叶うのよ。
だってほら、こうして私は自分の幸せを手に入れたのだから。
ウーティス:シンデレラが羨ましい。
だって、自分の幸せを手に入れたんですもの。
私の望みは叶いやしない、この身体は絶対に直らないのだから。
気付いた時にはこの身体で、側にナダがいて……
ナダ? ……ナダって誰だったかしら。
神が造った最高の人形、そうよ私は失敗作だわ。
あまりにも人間に似すぎているってナダが言ってたもの。
人間に似すぎて愚かだとも言ってたわね。
それでもいいのよ。どんなに愚かでも人間に似ているのだから。
……確かに人間は愚かだわ、
せっかくの尊い自分の命を簡単に捨てれるんだもの。
すぐに捨ててしまう命なら、私に頂戴。
人形としてではなくて、人間として生きたいの。私の名前……
「ウーティス」って「誰でもない」っていう意味なのよ?
「喜び」「楽園」とか明るい名前ではなく「誰でもない」なの……
ナダは「無」だったわね。神が造った最高級の人形だもの。
余計なものなどない「無」……
倒れ込むウーティス
ウーティス:……もう限界? 壊れてるわけにはいかない。
私はまだ演じきってないの、いろいろな私を。
それぞれの人間の前で、人間らしくまだ仮面をかぶっていないの。
ああ、泣かないで私の人形達。
そういえば貴方達もまだ演じてないわ。
ほんの少しの人形しか動かしていないのね私。
大丈夫よ、そんなに悲しまないで? まだ壊れていないから。
ちゃあんと語ってあげるわ、御伽草子を、昔々の物語を。
私は語り継ぐために、人間に伝えるために此処にいるのだから。
――そう……語り継ぐ為、人形は動く……――
台本を見てると所々に線を引いて消してある言葉があるんですよね。付け足したけど違うというか無駄になってるというか。
練習してるうちに違和感があった部分ともいうかもしれない。