人形の女主人(ミストレス) 2
カラン(戸の音)
ウーティス:いらっしゃいませ。<人形の館>へようこそ。
あらあら、可愛らしいお嬢さんね。
いけませんよ? こんな真夜中にお外へ出るなんて。
いつ狼に食べられるか分からないんですから。子供扱い?
そうですか? でも、私より子供でしょう?
ウーティス:怒ってらっしゃるんですか? 怒った顔はいけませんよ。
女の子は笑顔が一番素敵なんですから。私の名前ですか?
「ウーティス」と申します。
ウーティス:イマージュ、カクテルをお願い。私には“レッド・アイ”を。
こちらのお嬢さんには“シンデレラ”を。
“シンデレラ”はノン・アルコールだから大丈夫。
シンデレラのように十二時までには、お家に帰りましょうね?
それにしても……外は冷え込みますねぇ。
風が吹いてきたようですよ。
風の音
ウーティス:はい、どうぞ。冷たいですからね、お菓子もどうぞ。
美味しいですか? ……そうですか、お口に合って良かった。
人形劇? 今日はもう駄目ですよ。
途中で眠ってしまったら意味がないでしょう?
ほら、もうすぐ十二時。シンデレラの時間は終わりです。
貴方も帰らないといけません。気を付けて下さいね。
それでは、御機嫌好う。
カラン(戸の音)
ウーティス:イマージュ……この体はもたないかもしれないわ。
ほら……もう足が壊れかけているし……えぇ、今日はもう閉店。
ウーティス:人形の館の女主人……女主人も、人形。
女主人が壊れると、この人形の館は消え新たな女主人が生まれる。
人形だらけの夜の店。昼は女主人という人形は動けない。
シンデレラ:ああ、ガラスの靴の片方を落としてきてしまったわ。
十二時の鐘、ずっと鳴らなければいいのに……
そうすればずっとこのまま。このままでいられる。
王子様と一緒にいられる。
シンデレラ:私にもそのガラスの靴を履かせてください。駄目ですか?
えっ、いいんですか!? 失礼っと……ピッタリです。
え!? 王妃に!? 私がっっ!?
鐘の音
シンデレラ:もう十二時の魔法は解けないわ。ガラスの靴も、もういらない。
勇気を持てば、望みは叶うのだわ。
ウーティス:私の望みは叶いやしない。この身体を治す事は禁忌だから。
イマージュももう壊れかけている。
「ウーティス」とは「誰でもない」
「イマージュ」とは「影像」……
倒れ込むウーティス
ウーティス:もう限界……? 壊れてる訳にはいかない。
まだ演じきっていないのだから。
昔々の物語。語り継ぐ為、人形は動く。