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お祭りの日

作者: 須田野

雷鳴のような、太鼓の音がここまで響いてくる。


僕、ディバコクヴは、お勉強を終えて、休憩中。

毎年1週間続くゴブリン由来のお祭りである、

『驚き祭り』を窓から眺めている。


僕の家、ウドディズグ家は、フュロギラのオーガ貴族の一つだ。

父上と一緒によく町に出かける事はあるけど、

それは視察で、視察は民のために必要なことだって言うけれど、

全く楽しくはない。

友達を紹介される訳でも、おいしい物を食べるわけでもない。

ただ村に変わったことがあったか、直接聞きに行くだけ。

僕も連れてこられているだけだ。みんな父上にしか話しかけない。


何の意味があるんだろう?手紙や伝言じゃダメなのか。


僕は町に行くのなら、お祭りのほうが良いと思うけれど、

人が集まりすぎて危ないからダメっていつも言われる。

だけど使用人達は休みを取って、楽しんで、みんな次の日笑顔になっている。

みんな生き返ったとか言って帰ってくるのだ。

そんなこと言われたら、どんどん気になってくるじゃないか。

僕は町に行くとき、いつもまるでお人形になった気分でいるのに!


だから抜け出してしてこっそり行ってしまうことにした。


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まずは泉に着いた。泳がせて泉をまっすぐ突っ切れば、町は目の前だ。

相棒蛙馬(ホルン)のディブヴァルは気持ちよさそうに泳いでいる。

対岸目指して水上を駆ける。

太鼓の音色が響いてくる。少しだけ、ざわつきも聞こえ始めた。

対岸の木にディブヴァルをつなぐ。

ここなら湿り気も十分だろう。

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それではいざ、門をくぐろう。

どんな驚きがあるのだろうか。

門番さんに顔を見られているから、こっそり行こうとしたけれど、

顔を見せろと言われたから、見せざるを得なかった。

しかし気づいていないのか、そのまま通してくれた。

やっぱり僕の事は見ていなかったのだろう。


そのまま広場へ行くと、村長さんが祭りの由来を説明中だ。

早起きしたから得をした。


聖人ムガレガに死霊がとりつき、沼の近くで倒れ、亡くなった。

弟子達は師の死を嘆き、天に祈った。

そのとき雷が沼に落ち、近くにあったムガレガの遺体に雷が流れた。

途端。死霊が消え去り、ムガレガはよみがえったのだ。

弟子達は喜び、ムガレガと共に雷雲に向け祈りを捧げた。

これがゴブリンの雷信仰の始まりとされる。


その際体が電流で跳ねたのを、聞いた人々は驚愕による反射と重ねた。

驚かせビクッとさせることで、電流が流された時と同じ事が起きて、

その人の中にある悪い物が、出て行くのではないかか?と考えたのだ。


こうして人を驚かせるお祭りが生まれた。

時は流れて、共生時代。エルフやプリムスが参加して行くにつれ、

驚愕だけでなく感嘆や笑いなども混ざっていって、今の形になったそうだ。


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面白い話も聞けたし、さて動き始めよう。

まずは屋台で何かを食べようと思ったとき、

女の子の泣いている声が聞こえた。

見ると僕より年下であろう子どもが泣いていた。


腕と足、頬骨から上には毛がふさふさと生えているのが見える。

毛並みはオレンジに黒の縞。

後ろからは長い尻尾が見えている。

トラの獣人の女の子だ。


父上がよく言っていた。

民のために尽くすのも貴族の仕事だって。

今は貴族と言えないけれど、心はいつでも貴族のつもりだ。

さらに女の子を不安にさせままなんて、後で兄上もさらに怒るだろう。



「ねぇ、君どうしたの?」

「ママもパパもいないの。」

「僕はディバコクヴ。お名前は?」

「・・・・・・ゼフヴィカ。」

「パパとママはどんな獣人?」

「ママはピラニアさん、パパはオオトカゲさん。」

「二人のお名前解る?」

「ママはレヒー、パパはギューオス。」

「よし、じゃあ一緒に探そうか。」

「うん。」


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しばらく西へ歩いて行くと、伝統の小屋という物があった。

最初期からある出し物らしい。出てくる人はみんな笑顔だ。

父上がやりくりを学ばせるために、お小遣いは持っている。

普段はこれで、行商人から美術品などを買うのだ。

ゼフヴィカちゃんを見ると、心細いのか、また泣きそうだ。


・・・・・・入ってしまおう。

母上が言っていた。男なら女の子を泣き止ませなければ、と。

少し寄り道になるけれど、少しだけでも喜ばせてあげた方が良いよね。


「そこ、入っちゃおうか。」

「ママとパパが・・・・・・」

「もしかしたら誰かが見てくれているかもしれないし。

 それに、お祭りは楽しむ物でしょ?このままじゃ悲しいだけだよ。

 あのおじさんに話しかけよう。

 そうすれば、探しに来てくれたときに、

 ここに寄ったことは必ず解るから。」


少し強引ながら彼女と一緒に、受付をしているプリムスのおじさんに話しかける。


「すみません。ピラニアの女の人と、オオトカゲの男の人、

 ここに来ませんでしたか?この子のお父さんとお母さんなんです。」

「うーん。残念だが、見ちゃいないな。」

「そうですか。もし見かけたら、ここに来たことを伝えてくれますか?」

「おう。良いぞ。」

「ありがとうございます。それとここはどんな出し物ですか?」

「おう。ここはちょっと怖えぞ。真っ暗な森を作ってな。」

「怖いんですか!?」

「おう。オークも追ってくるぞ。」


じゃあダメだ。この子がきっと怖がる。

僕はオークなんか本当に平気だ。一人だったら平気なのだ。

だけど、女の子と一緒に行くような所じゃない。


「すみません。やめときます。」

「でっかくなったら来てくれよ!」


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ゼフヴィカちゃんお母さん!

ピラニアさんのお母さん!

ゼフヴィカちゃんのお父さん

オオトカゲさんのお父さん!


叫びながら、同時に彼女を不安にさせないために良い出し物を探す。

そのまま北へ行くと、ガラス細工の展示会があった。

きっとすごくキラキラしいてるのだろう。

姉上はそういうのが好きだから、この子も喜ぶかもしれない。

さっきみたいに受付の、ゴブリンのお姉さんに2人が来ているかどうか聞いた後、

今度は怖い物はなさそうなので中に入る。


ガラスの巨像。きれいなカップ。まるで湖面を固めたよう。

赤青緑、黄色といろいろ、驚き、ほうと、ため息が出る。

キラキラ浴びつつ横を見ると、ゼフヴィカちゃんが笑っていた。


楽しんでくれているようで、僕はほっとした。

その後さらにいろいろと見た。どれも曇り一つ無いガラスだ。


パカホンの瞳という、物が大きく見えるガラス細工が人気だった。

普段見えない世界が見えるそうで、不思議な物が見えて楽しかった。

ゼフヴィカちゃんがずーっと覗いてて、迷惑になっていたので、

少し注意して一緒にそこから離れた。

泣くかなと思ったけど、笑ったままで良かった。

そろそろ出ようかと思ったとき、突然彼女が立ち止まった。


「ゼフヴィカ!」

「ママー!」


ゼフヴィカちゃんの顔がさらに明るくなり、声のほうへ走り去って言ってしまった。

しばらくして、ゼフヴィカちゃんの手を取りながら、

ピラニアとオオトカゲの獣人がこちらに来てくれた。


「ありがとうね、坊や。」


鋭い歯をチラリと見せ、鰭の生えた頬骨を上げながら、

お母さんが笑顔でお礼を言う。


「そうだ、お礼にこれをあげよう。」


お父さんが、まだら模様の鋭い爪が生えた手に持っていた、

巨大な人形焼きを差し出す。


「きっとこの子は泣いているだろうと思って、多めに買ったんだ。」

「でも、あなたのおかげで、楽しかったみたいよ。

だから、これはあげるわ。」

「ありがとう、お兄ちゃん!」


お礼を言って、彼女たちとは別れた。

3人の笑顔を見ると、なんだかやる気が満ちてきた。

人形じゃないって思えた。

人形焼きの中身は熱々のリンゴだった。


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一人になったので、伝統の小屋の所へ行ったら、休憩中らしい。

休憩しているなら仕方ないよね。いや残念。本当に。

とりあえず、おじさんに見つかったよって言って別の所へ行こう。


「そうか!そりゃ良かった!」


すごく笑顔だった。

そういえば、ここは怖いのに何でみんな笑顔になるんだろう?


「そりゃ、刺激を求めているからさ。」

「刺激?」

「毎日おんなじ事してっとな、心が死んでいくのさ。

だから刺激を与えて、生き返らせんのさ。」

「あのガラスの展示会も?」

「おうよ。この祭は沼に落っこちた雷がきっかけだろ?

 俺たちゃ雷よ。違ったことがありゃ、明日のやる気になるのさ。」


だからみんな生き返ったって言っていたのか。

やる気を出せるのは生きてる証だって、じいやが言っていた。


「まぁ、俺たちも雷受けてんだけどな。」

「え?」

「人ってのは、自分の行いのおかげで笑顔を見せてくれりゃ、

 やる気が満ちてくるのさ。坊主もさっきそうなったんじゃないのか?

 笑ってくれりゃ、生きてた意味があるってもんさ。」


確かに!笑顔を見たらやる気が出てきた!

そうか、そういうことだったんだ!


「おじさん。ありがとう!」

「お、おう。何がわかんねぇが、どういたしまして?」


父上が何で視察をするのか解った。

父上と話すとき、みんな笑顔になっていた。

それが父上にとっての雷なんだ。

そして町は沼。雷を伝える沼だ。

雷が伝わりやすいように、沼を整える。

そのために見に行っているんだ。


オーガ貴族として、僕も立派な()を作れるようになろう!

民のために尽くすのは、そのためだから!

自分が生きてるって、自覚したいからなんだ!

疑問が解決した僕は、満足したのだった。


もう少しだけ楽しんだ後、帰ろうとディブヴァルの所に戻ったら、

じいやと父上が顔を真っ赤にしていた。

そうだった。みんなに黙ってきちゃったんだ。

僕の顔が青ざめていくのが解る。


「ぬわにをやっとるかぁぁーー!!」


父上の雷が落っこちた。


前回が長いといわれましたので、今回はお祭りで起きそうな事に絞ってみました。

あと、友人からトラ獣人を出せとのことでしたので、入れてみました。

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