エイルターナー
「ん"ああぁぁぁぁぁァ……!」
「あ、あの……大丈夫ですか?」
「ほっといてくれ……俺はもう終わりだ! あんな恥態を晒した今、変態の謗りは免れない!」
「もとからじゃろがい」
「くっ、反論出来ない……」
でもちゃうねん。あれはフォル婆の幻覚で頭パッパラパーになってたからであって、普段の俺はもっと紳士的なナイスガイなんだって! みんなは信じてくれるよな!?
「……ところでフォル婆、この人はどちらさん? 今までファースで見た覚えないんだけど、孫が遊びにでも来たのか?」
「アタシに孫なんていないよ。ほら、前に話した事があったティルナートの前の持ち主の孫娘さね」
「……あー。うん、完全に理解したわ」
「覚えてないなら素直に言いな」
「一欠片も覚えてないっす」
記憶の片隅にギリギリそんな事を聞いたような覚えがなくもない。
「ソフィア・アドベントと言います」
「アドベント? 街の名前と一緒なのな」
「えっと、私はこれでもアドベント領主の娘なので」
「マジか! リアル貴族じゃん!」
あれ? ゲームだからバーチャル貴族が正しいのか? ふむ、通りで先程から高貴なオーラをバンバン感じると思ったぜ(嘘)
ん? となるとさっきは不敬罪で投獄&打ち首コンボとかありえたのか!?
「それだけじゃないよ。その子はコーデル王国最強の騎士でもあるんだよ」
「王国最強だと!?」
や、やベーよ……このままじゃオレンジネームまっしぐらじゃないのさ。ここは三下ムーヴでなんとか挽回せねば。
「お貴族の騎士様、あっしはライリーフ・エイルターナーってちんけな男でございやす。どぶさらいでも便所掃除でも何でもやらせて頂やす! なので投獄だけはご勘弁を! 何なら靴だって底が削れる勢いで舐めさせて頂やす!」
「あ、頭を上げて下さい! 私はあれくらいで罪に問うようなことはありませんから……ってエイルターナー!?」
「あ、そうなの? よかったー」
ってまたエイルターナーで妙な反応されたぞ? フォル婆はプレイヤーには関係ないとか言ってたけど、気になるな。
「エイルターナーがどうかしたのか?」
「我が国の公爵家の家名ですよ!」
「何ィ!? ……ところで公爵って偉いの? 俺貴族の階級とかよく分かんなくてさ」
「王家を除けば一番上だよ」
「なんですとぉ!?」
え、俺ってそんな偉い人達の名前使っちゃってたの? プレイヤーの名前の被りはアウトなのにゲーム内の貴族の名前は使っちゃっていいのかよ!?
「まぁアタシらが驚いたのはそれだけが理由じゃないんだけどね」
「なんだよ……まだ何かあるってのか?」
「実は――」
その日、エイルターナー公爵家はいつもと変わらない朝を迎えた。いつもと変わらない優雅な朝食だった。当主の大好物のチーズオムレツはフワフワのトロトロで、奥方の大好物のジェムフルーツのジャムの出来も完璧だったと言う。今日もまたいつもと変わらない優雅な1日になる、使用人を含めた公爵家の全員がこの時はそう思っていた。
しかし事件は起きた。当時五歳だったエイルターナー家の一人息子が部屋から忽然と消え去ったのである。
この日公爵家に来客は無し。出ていった者もいない。大貴族だけあって屋敷には当然魔術によって様々な守りが施されている。なので誘拐の可能性は限りなく0。だのに彼はいなくなったのである。
「――と、このような事件がかつて起きたのです」
「へー」
「それで、そのエイルターナー家の御子息が成長なさっていたらちょうど貴方と同じくらいの年齢なので、驚いてしまったのです」
「てことはまだそいつって見つかってないんだな」
「はい。誘拐と思われる痕跡もなく、彼が部屋から出た形跡すら見当たらなかったそうです。災厄を除けば、平和な王国で起きたここ数十年で一番大きな事件なんですよ」
うーん、ミステリー。てかこれが一番の大事件とか王国ちょっと平和過ぎね?
「普通に考えれば内部犯だよな。それも公爵夫婦なら自宅の偽装なんて権力を使うまでもなくできるだろうし」
「それはありません。公爵家の方々は使用人を含めてみな彼を愛していましたから。何しろ公爵家にようやく産まれた待望の子供でしたからね。皆、初孫レベルで可愛がっていましたとも」
「周り全員から初孫レベルで可愛がられるって……控えめに言ってダメ貴族、いや、ダメ人間になるだろ……」
「それが勉強も稽古も進んでやる真面目な子だったみたいですよ?」
マジかよ、人生に失敗して異世界転生した主人公並みにストイックだな。5才児が甘やかされてる中で遊びより勉強と稽古を優先するとか子供として異常だろ。
「それよりライ坊、アンタ探し物は見つけてきたのかい?」
「おっと、そうだった! 宇宙人に正解か確かめてもらわねーとな。セレネは何か拾ってきてくれたか?」
「……ニャー」
聞くとジト目でソフィアを睨んだ。
「ご、ごめんなさい……私がずっと遊んでたから……」
「つまり収穫なしか」
まぁ、あまり期待はしてなかったからいいんだけどな。
「フォル婆、宇宙人って今何処にいるんだ?」
「広場予定地で何か作業してたと思うよ」
「サンキュー。行くぞセレネ」
「ニャ」
「あ、待って下さい!」
「ん? 何ですか?」
「私にも手伝わせて下さい。その子の仕事の邪魔をしてしまったお詫びとして」
ふむ、これは実に魅力的な提案だ。王国最強の騎士と言うくらいだし、実力は確かだろう。もし山で見つけた瞬く夜空の結晶が目当てのアイテムじゃなかった場合、またあの古代兵器が鎮座する山に登らなくてはならないし、アレと戦うにはもってこいの戦力だ。
けどプレイヤーと違ってNPCは復活できないからなぁ……。何より美少女を死なせるのは惜しい。よし、提案自体は嬉しいから草原のアイテムの探索だけ付き合ってもらうか。気分はピクニックデートだぜ!
「それじゃ頼もうかな。改めてよろしくな、ソフィア」
「はい!」
こうして俺は最強の騎士様とパーティを組むことになった訳だが……。
「えへへ……これで猫ちゃんとまた遊べる……」
完全にセレネ目当てで少し悲しい。