黒猫の名前
本日2話目
「ニャー……」
「泥の上に呼び出しちゃってホントごめんな?ほら、これでどうだ?」
「ンニャ」
ふぅ、許してくれたみたいだな。
俺は一先ず場所を移動し、泥だらけになった猫の足を布で拭いて綺麗にしてあげた。布も普通のじゃないぞ? エロティカさんが俺達に内緒で発注していた最高級のシルクを使ってあげたのだ!
「ライ坊、アンタ珍しい子を喚んだね」
「ただの猫じゃないのか?」
「おそらくフォーチュンダークって種類だね。飼い主に幸運を運んでくれる、なんて迷信が昔からあるくらいに縁起の良い猫さね」
へー。西洋よりの世界観なのに縁起物扱いなのか。あ! 現実で黒猫が不幸の象徴なのは魔女の使い魔ってイメージだからだけど、ここじゃ魔法使えるなんて普通だからか!
「もっともその幸運は敵対者から奪ってくる、なんて話もあるから不幸の象徴でもあるんだけどね」
「おお、一石二鳥じゃん。流石俺の眷属だぜ! そうだ、名前つけてやらないとな。……無難にクロはどうだろう?」
「ニャ」
「ん? 嫌か。ならシュバルツ、ノワール、アートルム」
「ニャ」
「む、やっぱりシンプル過ぎて嫌か。まぁ全部黒って意味だもんな。……ふと思いついたんだけど、黒だけの組み合わせでノワール・クロブラックとかかっこよくね?」
「ニャイ」
「そうか……ないか……」
ならば黒から離れるしかないな。他に定番と言えば……食べ物系の名前でどうだろう?
「チョコとかあんこってのは?」
「ニャ」
「ダメか。まぁチョコって言うには黒すぎるし、あんこはちょっと野暮ったくてお前のイメージと合わないもんな。それじゃあ……タルタロス・マルドゥーク三世、略してタマさんは?」
「……ハァ」
「ため息が出るほど論外か。うん、俺も言いながら正直ないなと思ったよ」
にゃん吉、猫太、ニャルガクルガ等々思い付くままに聞いてみたが、どれもお気に召さないみたいだ。おかしいな。俺ってこんなにネーミングセンスなかったかな? と悩んでいるとフォル婆がいきなり猫を掴み上げ股の間を確認する暴挙に出た
「フニャッ!? フカーッ!」
「おっとっと、危ないねぇ……ライ坊、この子はメスだよ。もっと可愛い名前を考えてやりな」
「何!?」
ならば名前が気に入らないのも当然か。チョコとあんこ以外で俺が挙げた名前はどれもオスっぽい物ばかりだったからな。そうと分かれば話は早い。適当な女神から名前を拝借させてもらうとしようか!
「それじゃセレネはどうだ? 月の女神の名前だぞ」
月の女神を選んだのは、真っ黒な体と相まって黄金の瞳が夜空に浮かぶ月みたいに見えるからって理由だ。
「……ニャウ」
「ギリギリで合格か。それじゃこれからよろしくなセレネ」
「ンニャ」
さて、無事名前も決まったことだし能力を確認しよう。もうバリバリ愛着湧いてるから戦闘させるつもりはないが、どんな能力を持ってるかは気になる。フォル婆の話を聞いた限り、運に関する能力を持っていそうだが……。
セレネ(フォーチュンダークキャット)
Lv 1/50
ステータス
HP 200
MP 800
STR 20
VIT 20
INT 30
MND 30
AGI 270
DEX 180
LUK 400
スキル
夜目 登攀 受け身
逃げ足 回避 収納・影
単独行動
アーツ
・スティール
┗ラックスティール
・キャットスタンプ
・ギフトパス
┗ラックパス
装備
―――
―――
―――
初期ステータス高ッ!? 眷属らしく俺と似たような割り振りだけど、セレネの方がよっぽど戦闘向きなステータスしてるじゃん! 攻撃力は物足りないが、サポート役としてならば連れ回しても何の問題もない。
「お前ってスゲーのな」
「ニャフン」
あぁ、ドヤ顔可愛い……。しかもこれでレベル1だからまだまだ成長するんだろ? 更に装備も3つまで可能なんて太っ腹すぎるぜ!
「よーしセレネ!さっそくアイテム探しに出掛けようぜ!」
「ニャ」
「え? ついて来てくれないのか!?」
「クァ……ニャムニャム」
「あぁ、昼寝の時間なのか。ならしょうがないな。気が向いたら草原のアイテムを集めておいてもらえるか?」
「ンニャ」
セレネのスキルには単独行動と収納・影がある。単独行動は俺のパーティから外れて行動することができるスキルだ。そして、収納・影は自分の影の中にアイテムを仕舞う事ができる。自分の影より大きいアイテムは仕舞えなかったり、仕舞えるアイテムの数も少なかったりするみたいだけどな。このスキルのおかげで自由に行動させていてもアイテムを集められるって寸法よ。
「それじゃ、俺は山のアイテムを集めてくるからな?」
「……zzZ」
もう寝てるし……これはなつき度が足りてないのが一目瞭然だな。山から戻ったら餌付けでもしてポイントを稼ごう。
「フォル婆、セレネのことよろしくな」
「ん、任せておきな」
山で探すのは宇宙の欠片の代用品だ。俺は鉱石辺りが怪しいと睨んでいる。ピッケルは以前買ったまま1度も使用してない物があるし、サクッと堀当ててやろうじゃないか!
―ライリーフが去った後のファースにて―
「お久しぶりです、フォル様」
「あら、ソフィアじゃない。ここの所遊びに来なかったけど、王都にでも呼ばれていたの?」
「はい、プレイヤーの動向を探るようにいわれまして……しかも災厄が現れたこともあって中々休暇がとれなかったんです」
「ふふ、それは災難だったわね。こっちに来るのがもう2、3日早ければ、あのティルナートが見れたのに」
「えぇ!?お祖母様の愛剣だったあのティルナートですか!」
「もう人の手に渡ってしまったのだけどね」
「くっ、王国最強なんて肩書きさえなければ見れたかもしれないのに……」
「そう落ち込まないの。……いずれ目にする機会は巡ってくるさね。運命の導き手たるアタシが保証するよ」
「あ、お婆ちゃんモード。そう言えば、フォル様は何故その姿でいる事が多いのですか?」
「そりゃモテすぎて困るからさ。この姿ならアタシから迫っても必死に抵抗されるからね。このギャップが堪らなく楽しいのさ」
「か、変わった趣味ですね」
「ふぇっふぇっふぇ、今もからかい甲斐のある子が町に来ていてねぇ。今は出掛けているけどいずれ紹介してあげるよ」
「はい、楽しみにしておきます」
「……ニャー」
「!? ふ、フォル様? 何故フォーチュンダークがここに……?」
「さて、何故だろうねぇ?ふぇっふぇっふぇ!」
ついに登場するも主人公とニアミスするヒロインさん。
ですがそもそもこの作品にラブコメタグなんてついていないので、読者の皆様は好きなキャラをヒロインとして扱えばいいと思います。
おまけ1
大罪術式
7つある大罪の名を冠する術式。
レイドモンスターくらいなら一撃で葬り去る事ができる。
デメリットが鬼ヤバい。
七種ある大罪の魔王の内、いずれかのジョブに就いていると対応する術式が月一でデメリット無しで使える。
主人公が描いてしまった魔法陣は強欲の術式。
おまけ2
フォーチュンダーク
主に幸運を引き寄せるとされる猫。
敵対者の運を奪うとも言われている。
王家でも代々飼育されている。
とても希少で一般人の飼育は禁止されている。
おまけ3
フォル・トゥネル
薄々分かっていた方もいるとおもうがフォル婆とは仮の姿。
その実態は原初の巫女にして運命の導き手。
災厄の実装決定によって職を失ったキャラの1人。
βテストの際、全員のチュートリアルを担当したこともある。
現在のシナリオに捕らわれない生活は嫌いじゃない。
おまけ4
ソフィア・アドベント
アドベント領主の末の娘。
ティルナートの前所有者の孫。
王国最強の称号を持つ女騎士。
グーヌートの信者、と言うかファン。
極振り勢と比べて薄味な気がしてならない。