宇宙人の頼み事
『VRのフルダイブ技術は宇宙人によってもたらされた』
この前掲示板を覗いた時にもあった書き込みだが、ネットのオカルト版等でよく見かける話題だ。それには2つの大きな理由がある。
202X年。まだVRゲームでコントローラーを握り、ヘッドギアを装着していた頃。技術の進歩は目覚ましく、フルダイブの夢まで後一歩と迫った時だった。なんと初めて世にフルダイブのゲームを発売したのは、株式会社スペース・ワンと言う当時ゲームとは何の係わりもない会社だった。元々宇宙開発を主に行っていた会社だったのだが、フルダイブVRマシーンの発表後は完全にゲーム会社になったんだとか。これが1つ目の理由だ。だがこれは実は後付けの話だったりする。宇宙人云々が囁かれるようになったのは2つ目の理由が噂の大本だろう。
203X年。世にフルダイブVRマシーンが出回り各社がこぞってソフトの開発をしていた頃の話だ。この頃はまだゲームのダウンロード販売が主流だったので、当然VRゲームもダウンロード形式の物が多かった。そしてある時、ネットの住人が発見した無料のVRゲームがある。そのゲームのタイトルは『hElLo』、未知の生物とのコミュニケーションゲームだったらしい。製作者不明も配信元も不明のこのゲーム。音声はノイズだらけで表示される文字も全て文字化けしているクソゲーだったのだが、高いソフトをダウンロードせずにフルダイブで遊べる事と、不思議な雰囲気とが相まってある程度のプレイヤーが遊び続けていた。オフラインでは起動出来なかったようなのでどうやら未知の生物も何処かの誰かだと言うことが予想された。しかしそれにしてはモーションや会話(と思われる雑音)、表示される文字化けが一定だ。本当にこいつは何処かのプレイヤーなのだろうか?プレイヤー達がそう疑問を覚えていた時だった。1人のスレ民が表示される文字の解読に成功したと言う。
「ようやくここまでこれたのだね?」
「歓迎するよ」
「しかしまだまだ我々には程遠い」
「いつの日か君たちが我々に追い付いてくれると信じている」
「言葉は未だ通じずともいい」
「この出会いを暫し楽しむとしよう」
解読に成功したスレ民は興奮ぎみに語る。彼等は宇宙から来た高次の生命体なのだ!と。非常に胡散臭い話ではあったが他のスレ民達も面白がり、解読が出来たのならば会話をしてみてはどうか?と彼を囃し立てた。
――その翌日、ゲームに一切のログインが出来なくなったらしい。ダウンロード用のリンクも全て消え失せ、まるで始めから何も無かったかのようだった。当然スレ民は大いに混乱した。
何故!?ここから面白くなる所だったのに!
その混乱の中で彼は帰って来た。そう、言語の解読に成功した彼だ。そしてこう語った。
「昨日、解読データを基に「ハロー」と彼等に挨拶をしてみたんだ。はは、凄く緊張したよ。だって僕の仮説が正しければ、正に世紀の瞬間なんだからね。彼等はどんな反応をしたと思う?……今までにない反応だったよ。笑ったんだ。とても嬉しそうに。次に、今までに見たことの無いテキストが表示されたのさ。そしてそのテキストに気をとられている内に彼等はいなくなってしまったんだ。ログイン出来ない理由は、きっと僕がゲームをクリアしたからだよ。だって……だって後で解読したテキストにはこう書かれていたんだ!『おめでとう。君たちはきっとたどり着ける。我々と同じように』って!彼等はやっぱり宇宙人だったんだよ!あのゲームはテストだったんだ!僕達人類の未来を試すテストだったんだよ!!」
とまぁ、こんな感じだ。2つ目の話が広まった後で1つ目の話が話題に上がって宇宙人キタコレ!!って流れらしい。中には『彼』がゲームの製作者で自作自演だ!なんて夢のない意見の人もいるけどな。
ん?長々と何を関係無いことを……だと?関係大有りだろ!目の前に宇宙人がいるんだぜ!?それもタコっぽいフォルムの火星人からグレイタイプの上半身生やしたような怪しい宇宙人が!!
「ミミミミ、現地人ヨ。我々二敵意ハ無イ」
「ミミミミ、アブダクション」
「ミミミミ、解剖実験」
「嘘つけ!後ろの2人おもいっきり俺を狙ってるじゃねーか!」
マーズ○タック的な光線銃を持ちながら敵意は無いと言われて信じるバカがいると思うなよ!
「ミミミミ、宇宙人ジョークダ。気二触ッタナラ謝ロウ。グペペヌルッチョ」
「「ミミミミ、グペペヌルッチョ」」
謎の言葉と共に後ろを向き、尻?を叩き始めた。そして振り替えってドヤ顔である。
「おい、絶対俺の事バカにしてるだろ!?」
「ミミミミ、コレハ我々ノ星ノ最上級ノ謝罪方法ダ」
「ミミミミ、決シテオ尻ペンペンデハ無イ」
「ミミミミ、ドヤ顔デハ無イ」
「心でも読んだのかってくらい清々しい言い訳だな」
うん、少なくともこいつらが高次の生命体ってことはないな。
適当に話を聞いてみた所、この星の近くを通りすぎる途中で野球ボールが宇宙船にぶつかって故障したとのことだった。……昭和のマンガかよ。
「ミミミミ、あー、あー、ふむ。スペース翻訳機の自動調整が完了したようだ。どうだね?先程よりクリアに音声が伝わっているといいのだが」
「おう。かなり聞き取りやすくなったぞ。で?俺に何をさせようってんだ?」
「うむ。この宇宙船を修理するためのパーツを集めてほしいのだよ。幸い近くに壊れた部分に代用できそうな物の反応があるかね」
なんだ。宇宙人が出て来た時は驚いたけど、蓋を開けてみればテンプレお使いクエストか。これなら楽勝だな。
「スペースリアクターを再起動させる為の宇宙の欠片、スペースバリアの展開に必要な銀河の切れ端、スペースマッサージを利用できる暗黒物質的クーポン券を集めてもらいたい」
「おい、何でもスペースつけりゃいいと思ってるのか?てか最後の奴は要らないだろ!?」
「いやー、長旅だから肩が凝っちゃって。後腰にもくるんだよねぇ。後ろの二人運転出来ないから、良い機会だし今のうちにリフレッシュしようかなーと」
「なら適当に宿でもとって風呂に浸かってろ!」
「むぅ……旅先の水ってどうも不安で……それに我々ここの通貨を持っていないのだよ。あと極力現地人には見つかりたくない」
「ガッツリ俺に接触してんじゃん」
「必要最低限ならセーフなのだよ。ケースバイケースってやつさ」
「ああ、そうかい。ハァ……とりあえず宇宙の欠片と銀河の切れ端って奴は探してやるよ。クーポン券は自分で何とかしろ」
「そんな……それじゃ異次元出張スペースマッサージが受けられないじゃないか!」
「しつこい!これで遊んで待ってなさい!」
「む?なんだねこれは?未開の星らしくとても原始的なようだが……ま、回った!?」
俺が渡したのは魔導工学式のおもちゃだ。手で持ってないと回らない謎の独楽に宇宙人の目は釘付けだ。今日はもう遅い時間だし、今のうちにログアウトしてしまおう。
「後でまたくるからなー?」
「「「おお……」」」
「ダメだこりゃ。夢中になりすぎて聞こえてねぇや」
しかし宇宙の欠片に銀河の切れ端か。中々発見難易度の高そうなアイテムだな。LUKでどうにかなるといいんだけど。
おまけ
異次元出張スペースマッサージ
ヨグ様が経営しているマッサージ店の出張サービス。
どんな場所にいても引換券1枚ですぐに来てくれる。
その触手でどんなコリも一瞬で揉みほぐしてくれるぞ!
※精神に異常をきたす場合があります。ご利用は自己責任でお願いします。