装備を強化したら詰んだかもしれない.10
カイザー……1枚くらいサイバードラゴン持ってきてくれてたっていいじゃんかよ。
「って、ダメージ与えたのにこっちにヘイト向いてねぇじゃんか!」
「魔法の方が効果があるのか?……!?ライリーフ、アイシャさんが!」
「アイシャさんがどうしたん……なにやってんの!?」
アルバスの指指す方向に目を向けると、ボスの進行方向にアイシャさんがいるではないか!
「うふふ、私と一緒に遊びましょう?」
「グルオォォォォォォォァ!!!!」
まずい、このままじゃアイシャさんが吹き飛ばされてしまう!てか何故立ちはだかったし!
ゴッ!!
「グルァ……?」
「「え?」」
「はふぅ……なんて大きな肉球なの。全身で体感できるなんて夢のようだわ!」
なんと言うことでしょう。全長約10Mを誇る巨大なモンスターが、身長160㎝程度の女性にぶつかってその動きを完全に抑え込まれているではありませんか。物理の法則が乱れる。
「あ、称号効果のノックバック無効か!てことはあいつ見た目ほど攻撃力ない感じ?」
「プレイヤー最硬のアイシャさんが基準じゃなんとも言えないと思うけど」
「なんにせよヘイトがこっちのパーティに移ったんだ。こっからが本番だぜ!」
「そうだな。あれ?そう言えば先輩はどこに――」
「GSYHAAAAAAAA!?!?!?!?」
声に釣られボスを見れば、7つある頭の内の1つが落ちていく所だった。
「何事!?」
「やー、いい感じに状態異常が通ったから即死攻撃使ってみたんだけど……ダメだね。アレ、頭毎にHPが設定されてるよ」
「即死って、見当たらないと思ったらなんてえげつないことを……」
「頭全部潰さないと倒せないのか。とりあえずマルティさんナイス!後6つの頭もすぐに後を追わせてやろうじゃねーの!」
……
…………
………………
開戦からもう1時間経った。デカくなりすぎて動きもそこまで速くない。大振りで単調な攻撃もアイシャさんが止められる。アルバスの攻撃だってガンガン当たっている。だと言うのに未だボスは健在だ。
「くそ!ただでさえ硬いのになんて回復力してんだよ!?」
「まさか落とした頭まで時間経過で復活するなんてね。しかもHP満タンで生えてくるんだもん、嫌になるよねー」
「頭を全て落としきる前に他の頭に再生されるんじゃ終わりが見えないな」
「7つの頭をいっぺんに潰せればベストなんだろうけど……このパーティ高威力の範囲攻撃持ちいねぇんだよなぁ」
「ライト君のアーツならその条件を達成できたかもしれないよ?」
「ライト?あいつ新しい技覚えてたのかよ。うぉっと!?あっぶねー」
「まぁ!次は狼さんの頭が遊びたいのね!うふふ、いらっしゃい!」
……アイシャさんが平常運転でなによりです。
えーと。ここまでの情報を纏めると、頭毎にHPがある。頭を落としても時間経過で完全復活。もちろん頭を落とさない状態でもリジェネ能力はある、と。そしてアルバスの火力で再生時間内に落とせる頭の数は2つだけ。しかもマルティさんのデバフが通り難くなってきている。う~ん、辛い。俺も地味にトマホークのストックを使いきっちゃってるし。
「とりあえず頭を落とさないように削ってみようぜ。回復はされるけど、完全復活されるよりマシだろ!」
「現状それしか打開策は無さそうだね」
この作戦は最後が肝心だ。いい感じにHPを削った7つの頭、それを1つ目の頭が再生するまでに連続で落とせなければ苦労は全て水の泡だ。アルバスに任せるしかないのが少し歯痒い。
「は!せい!」
「くっそ、近接系のアーツをそろそろ覚えたいな。殆どダメージ入らねぇ」
「せやぁ!」
「うふふ、今度は熊さんね?まぁ、ごわごわしてるのに意外と柔らかい毛並みなのね!」
「アイシャちゃんは本当にブレないね。凄いや」
更に30分が経過した。パーティ構成がアタッカー1、タンク1、デバッファー1、賑やかし1なのでかなり時間が掛かったが、漸く7つの頭のHPが半分になりそうだ。あとは龍の頭にアルバスが一撃入れれば半分に……あれ?そう言えば俺が奪われたスキルの中に逆境があった気がするぞ?
「グルルルル……」
「あ、ヤバいかも……」
「てやぁ!!」
アルバスの攻撃で全ての頭のHPが半分を下回る。その瞬間、俺はボスから今までにない明確な感情を感じとった。それは憎悪であり、敵意であり、殺意であり……そして十全に力を振るえる事への歓喜だ。
ボスの、龍の頭の瞳が赤く光る。
「グルルオォォォォォォア!!!!!!!」
その咆哮は今までの比ではなく、ダメージまで発生している。
「ぐっ、いきなりなんだ!?」
「アルバス、どうやらここからが本当の戦いになるみたいだぜ?スキルを使い始めやがった」
「今までの異常な回復はスキルじゃないのか?」
「あれは純粋に俺の作った鎧の能力だ。ここからはたぶん、あいつが取り込んだ他の能力をスキルとして使ってくるぞ」
「何でそんなことが分かるんだ……?」
「俺、今あれにステータスとスキル奪われてるんだよ」
「……奪われたスキルの構成は?」
「身体制御、回避、剛力、空歩、逆境辺りが使われるとヤバいやつかなぁ」
「ステータス上昇系がそんなに……」
「ちょっと、それだけじゃないみたいだよ」
「「!?」」
ボスの周囲の地面から数える気すら失せる量の眷属達がワラワラと這い上がってきている。もしや大量生産使ってらっしゃる?その使い方はズルいだろ!?
「おいおい……どうするよ?パワーアップしたボスだけでもヤバいってのに団体さんまで相手にできるか?」
「ザコはなんとかなるんじゃないかな?相手してる間にボスにやられそうだけど……」
「あはは、これ何でレイドじゃないんだろうね?」
「グルルオォォォォォォ!!」
ボスの号令で眷属達が俺達に向かって突進してくる。まるで津波でも押し寄せて来ているかのような迫力だ。こんな短期間にまた言うことになるとは思わなかったが……これ、やっぱり詰んで――
「聖霊王の極光剣!!」
眩い極光が辺りに広がり、眷属達を一掃していた。こ、この攻撃は!
「お待たせライリーフくん!」
「ヒュー!さすがは愛と正義の魔法少女だぜ!タイミング完璧かよ!」
魔法少女降臨!